夏休み製本講座最終回
この講座も大詰めです。本体はできあがりましたので、今日はカバーのお話をいたします。 「カバー」と言っておりますが、この英語表現、海外で使うと場合によっては通じません。英語圏ではカバーとは本体にくっついている表紙を差します。では私たちがカバーと言っているものは、何と言うかともうしますと、「ブック・ジャケット」あるいは単に「ジャケット」と言います。本を保護しているというより、むしろ本に着せかけている感覚でしょうね。 ついでに、小さな装絵を「カット」と言っておりますが、これは「スポット」。白黒印刷のモノクロ(モノクローム)という表現はしないでもないが、本来的には赤一色でもモノクロームですから、印刷関係にたずさわっている人は誤解をふせぐために、白黒印刷は「ブラック・アンド・ホワイト」ときちんと表現しています。ですから、‘a spot in black and white for magazine’などと、グラフィック関係の書籍に書かれているのを目にすることがありますが、これは「雑誌用に白黒印刷されたカット」ということです。 海外とやりとりをしていますと、専門分野の用語に面喰らうことがたまにあります。たとえば、‘separations’というのがあった。これはオフセット印刷用の4色分解フィルムを差しています。現在ではコンピューター用のページ・メーカー・ソフトにはこの4色分解機能が付属しているものが多いですから、同一ソフトを使っているかぎり、海外であろうと何処であろうと、データーを送信すれば事はすんでしまいます。しかし少し以前までは、製版所に分解フィルムをつくってもらって郵送したこともあったのです。そうしたやりとりのなかに‘separations’という言葉がありました。 さて、ブック・ジャケット、「カバー」ですが、もしかしたら日本の出版界ほどこれに力をそそいでいるところはないかもしれない。とにかく華やかです。書店の棚で存在をアピールするために、何千、何万という本の「カバー」が妍(けん)を競っています。 その制作現場はイラストレーターとグラフィック・デザイナーが分業で行う場合が多かったのですが、制作現場に全面的にコンピューターの導入が完了したいまでは、かつての分業体制はほとんどなくなってしまいました。私自身、絵から版下制作まで一貫しておこなっています。昔は製図机に向って、カバー用の図面を引き、写植文字を貼付けていましたが、いまでは写植屋さんをさがすのも難しくなりました。 ページ・メーカーで制作するにしろ、注意しなければならないことは昔も今も変りなく、それは各寸法を本体より幾分大きく作図しなければならないことです。背巾は1.5ミリぐらい、平(ひら)から袖の折返し部分でも1.5ミリから2ミリぐらい。そうしないと、実際に着せてみると、おもわぬツンツルテンとなりかねないのです。この寸法計測は装画の場合にも言えて、天地に3ミリずつ断裁分の余裕をもたせ、また万が一着せかけがずれてもよいように、袖への折返し分として6ミリぐらい大きく描いておいたほうがいいでしょう。 そうそう大事なことを忘れていました。カバーの裏には販売コードがはいります。そのためできるだけ色紙の使用は避けたほうが無難です。白地に印刷で色をのせる。コードの部分は窓をくりぬいておく。紙の見本帳には、そのまま使用したくなる素敵な色紙、模様紙がたくさんあるのですが、あとで取り次ぎ店や書店とのトラブルのもとになるばかりか、機械に反応しない商品は相手にされず、せっかく作った本が墓場行きとなってしまいます。 さあ、あとは日本独特の習慣----デザイナー泣かせ、絵描き泣かせの帯(腰巻)をつければ、できあがりです。 最後に書籍の価格はどのように決定するかをおおしえしましょう。【直接生産費】 [本文等]1,用紙 2,製版 3,印刷 4,装幀・装画 [挿入物]1,用紙 2,製版 3,印刷 [印税] 1,印税 2,原稿料3,翻訳料【間接生産費】 [間接費]1,企画費・編集費(資料・会議・交際費) 2,人件費・売れ残り品・交際費・会議費・ 販売促進費・管理費 [宣伝費]1,広告宣伝費【販売手数料】1,販売手数料(取次ぎ約7パーセント・小 売店約20パーセント)【利益】 1,利益 いかがでしたでしょう。 これで夏休み製本講座をおわります。お退屈さまでした。