4,5人の若き男女の浴衣着て
所用があって八王子駅周辺の商店街を歩いていると、いやに浴衣姿が目立つ。若い男女のカップルや子供たち。二十歳代の青年たちは、浴衣を着慣れていないせいか、ほっそりした腰にせっかくの博多織の角帯も様にならない。腹にタオルを巻いて恰幅をつけるとよかったのに、彼女も御両親も相談にのれなかったか。 なんとなく頼り無い可愛らしいカップルを幾組か見過ごして、はて何か催しごとでも?、と思っていると、こんどは揃いの半纏に褌をきりりと締め上げた一団にでくわした。それでようやく夏祭だと合点した。 やがて錦の幡をかかげた供をしたがえ、山伏装束の天狗と宮司が、神輿の先触れとなってやってくるのに出会った。100メートルの後方に、太鼓の音とともに、さきほどの半纏に褌姿の男たちが神輿をはげしく揉んでいるのが見えた。 毎年たいへんな賑わいの八王子祭りは8月4,5,6日のはず。この祭りは昭和50年頃から、八幡八雲神社の天王祭などいくつかを合祀して開催されるようになったもの。かつては天王祭もちょうど7月21,22,23日が祭日であったのだが、きょう7月23日はそれとは別の神社の祭祀なのであろうか。 東京都の西南に位置する八王子は古い町で、たくさんの神社がある。八王子という地名がそもそもスサノオノミコトの子供たち5男3女、すなわち八人の王子・王女を祀った八王子神社に由来する。 私は詳しくは知らないけれど、それぞれ異なる祭神のたくさんの神社それぞれに祭礼があるのであろう。なかで異色な祭りは、JR八王子駅の西南方向、富士森公園に隣接する浅間神社の「だんご祭り」。毎年7月31日が宵宮、8月1日に本祭りがおこなわれる。その名のとおり、境内には厄除けの甘辛串団子を売る店がならぶのである。団子を売るようになったのは明治時代になってからで、宮司さんが余った饌米(せんまい)で団子をつくり参詣人にふるまったのが始まりだという。その団子を食べると暑気あたりをしないと言われるようになったとか。 似たようなと言ったなら語弊があるかもしれないが、8月26,27日は八王子諏訪町にある諏訪神社の「まんじゅう祭り」である。この祭りの謂われもおもしろい。江戸時代、寛永年間のことだそうだが、もともとこの神社では祭日に赤飯を参詣人にふるまっていたらしい。ところが、夏の盛りのこととてその赤飯で食中毒がおこってしまった。赤飯に代るもので腐敗しにくいものはないかと考え、地元産の小麦粉と小豆で酒饅頭をつくって奉納した。以来、境内に饅頭を売る店がたちならぶようになったのだという。「まんじゅう祭り」のほうが「だんご祭り」より240年ほど早くはじまったわけだ。もっとも寛永以来の直伝の饅頭を売る店は、じつは境内にはない。----関心のある方はお探しになってみてください。 そんなわけで、思いがけず威勢のいい神輿を見物して帰宅した。夕方には調布の多摩川べりで花火大会もあるらしい。さすがに我家からは見えるはずもないが、午後7時過ぎころ、ふとした加減で遥か遠くにくぐもったような「ドドド」という音がしたのは、たぶんその花火の音であろう。そして9時になると、また雨が降りはじめた。