2007年03月の記事一覧 | 山田維史の遊卵画廊

30年前のコラージュ

　ブログ友達の若い画家良次さんを励ますために、昔語りのツマに若描きの作品をさがしていたところ、それらの作品とは別に丁度30年前のコラージュ作品がでてきた。仕事が波に乗ってきたころで、毎日が忙しかったのだが、精力があふれていたのだろう時間のすきまをみつけてはコラージュなどを作っていた。下に掲載するのはその中のひとつ。記録をみると1977年5月25日の作品。当時発表された高橋睦郎氏の戯曲に触発されてつくった。雑誌の切り抜きを溶剤で洗い、背景はほとんどニュアンスだけにしてしまっている。手当たり次第なんでも試みていたのだった。　いささか気恥ずかしいが、30年前のコラージュをご覧ください。山田維史《美しかりし我等がヘレン　―　高橋睦郎氏の同名の戯曲に拠る》コラージュ　1977年5月25日作

花の種を蒔く

　日曜日に弟がつきそって買い物がてらの散歩に出た母が、デージーの鉢を3つ買ってきた。たった一輪咲いたクロッカスを一日に2度3度と庭に見に行っていたようだが、その向い側に置いてある空いた鉢にデージーを植えようと思ったらしい。　きょうの午後、私が外出するために玄関に出たとき、その3つの鉢はシクラメンの鉢とともに玄関内の棚に並べてあった。が、2時間ばかり後に帰宅すると、デージーは植え替えされてアプローチに並べてあった。　私は手に買い物袋を下げていたが、そのなかには花の種が入っていた。マリーゴールドと八重松葉牡丹である。いずれも今が蒔き時。花屋の店先であれこれ説明書きを読んで、草丈と色彩とを考えてこの2種にした。鉢でもよし直蒔きでもよしとあったので、作りやすいかもしれないと思ったのだった。　種袋にはこれらの植物について次のような記述がある。　【マリーゴールド】　　学名：Tagetes patula L.　　英名：French Marigold　　和名：孔雀草　　科名：きく科　タゲテス属　　原産地：メキシコ　　草丈：20～30cm　　花ことば：真実　【八重松葉牡丹】　　学名：Portulaca grandiflora Hook　　英名：Rose-moss　　和名：松葉牡丹　　科名：すべりひゆ科　　　原産地：ブラジル　　草丈：10～15cm　　花ことば：可憐　　（写真は日光種苗株式会社による）　マリーゴールドの学名の末尾に、省略されたL.が記されている。過日、2月6日の「リンネの分類学」とタイトルした日記で述べたが、正式な記述はLinnaeusである。マリーゴールドがカール・リンネが命名した植物だと知れる。リンネに敬意を表して、国際分類学会でリンネの命名植物のみL.と略記することが認められているのである。　　松葉牡丹は、思い出せば、各地を移り住んだ我家のいずれの庭にもあった花だ。私が学齢前だった北海道羽幌町の家、小学1,2年生だった長野県川上村の家、そして福島県南会津八総鉱山の家・・・それらの小さな庭の花壇の周囲に濃い紅色や黄色の松葉牡丹が植えられていた。私はそれらをつくづく眺めていたわけではないが、なぜか今でもはっきり目に浮んでくる。　私が成人してから後の私の家の庭には、一度も松葉牡丹を植えたことがない。しかし、こころの何処かに、松葉牡丹を花壇の周囲に植えたいと、長い年月思いつづけていたような気がする。御大層な花ではない。ごくありふれたものだ。植えようと思えばいつでも簡単に植えられたであろうに・・。今日の今日までその種を手にとることもしなかった。　小雨に濡れながら、母の植えたデージーの隣に、マリーゴールドと八重松葉牡丹の種を蒔いた。

イヤサカサッサー

　庭のクロッカスの花が咲いたことは先に書いた。チューリップも若葉が5,6cmほどに伸びている。桃の節句だけれど、庭の白桃はまだ咲かない。ようやく固い芽を割って、先端が美しい黄緑に色付いている。　私は男兄弟ばかりの長男である。だから雛祭りとは無縁のはずだが、子供のころから季節々々の祭りごとが大好きだった。雛祭りには家にあるかぎりの人形をみなあつめて、座り机（今時、子供用の座卓などないかもしれない）に並べたてた。まるで人形の虫干しのようなものだ。内裏雛の持つ笏（しゃく）のかわりに飯篦を持って、弟たちにも持たせ、人形の前で写真を撮ったりした。　バカバカシイことを真面目な顔をしてやるのが面白いのである。三つ子の魂百まで、子供のころの気質は60過ぎても変わらない。私の作るコラージュをご覧になればお分かりだろう。子供の工作のようにハサミを持って、折込み広告や雑誌を切り抜いて、奇妙きてれつなイメージを紡ぎ出しては自分で笑っているのだ。　さて、三月は「弥生」というけれど、この語源はどうやら「イヤオイ」らしい。「イヤオイ」は、すなはち「弥（いや）生い」である。「弥」は「いよいよ」という意味、また「満ちる」という意味。何が、いよいよなのか？　水に浸した稲籾が芽を出したのである。それがすくすく伸びはじめた。その季節が「弥生」なのだ。　「弥栄」と書いて「イヤサカ」と読むが、こういうお名前の方がいる。じつは私の家の近所の居酒屋さんがこの名前だ。店名にもなっていて、それを墨書した大きな看板を掲げている。　「イヤサカサッサー」と掛け声をいれる民謡がある。これも元をただせば「弥栄、さっさー」である。　「弥栄」という言葉は、広辞苑によれば、「いよいよ栄えること」あるいは「繁栄を祈って叫ぶ声。ばんざい」とある。それ以上の説明はないけれども、思うに、始源には稲作民の祈りがこめられていたのではあるまいか。　雛祭りがすむと、雛人形はすぐにしまわれて1年間の眠りにつく。現在も残っている風習かどうか私は詳らかにしないが、昔の東京では雛人形をしまう前に蕎麦（そば）を供えた。夫婦雛というのは、1年の数日間を睦まじく過すが、その後は別れ別れになってしまわれてしまう。しまわれても「お側（そば）」に居ますよという意味で、「蕎麦」を供えたのだ。あるいは「饂飩（うどん）」を供えることもあった。これは夫婦雛を別名「優曇華（うどんげ）の夫婦」と称したことによる。優曇華はインド仏教の想像上の花で、三千年に1度花を咲かせ、そのときに金輪王あるいは如来が出現すると伝えられている。優曇華はめったに咲かない花、夫婦雛は1年に1度しか会えない夫婦、めったに会えないから「優曇華の夫婦」である。そこで「饂飩」を供える。　それもこれも、たぶん江戸っ子のシャレである。3月3日が終わったなら、そそくさと人形を片付けるのではなく、名残りをおしみつつシャレっ気いっぱいの儀式をとりおこなったわけだ。　・・・さて、今時はどうなのだろう。　　　もたれ合ひて倒れずにある雛かな　　　虚子

愛用のワイン・グラス

　近頃の私は酒をほとんど飲むことがなくなった。パーティに出席してもウーロン茶などでその場しのぎ、不粋なことこの上ない。昔はスコッチ・ウィスキーとワイン党で、日本酒もビールも好きではなかった。パーティなどで少し遅れて到着すると、「駆けつけ1杯」などとビールを注がれるのが大の苦手。私は物事をはっきり言うほうだから、「いや、スコッチをいただきましょう」とグラスを変えてもらっていた。　私の酒は酔っているのだかいないのだか良くわからないと言われたものだ。満州平原の熱血児などと唱われた新甫八朗大人（たいじん）にしてから、「山田くんは酔っているのか酔っていないのか、さっぱりわからんなあ」とおっしゃていたので、他人目には実際判別しにくかったのだろう。　もちろんしたたかに酔っているのである。ただその酔い方がすこし風変わりなのかもしれない。まず、ほんの一口で顔が真っ赤っかになる。アルコールがみな頭に回ってしまうらしい。それでいて首から下は一向に酔い気がない。飲みつづけているうちに頭のほうがある限界に達する。そこで中座して人目のないところで立ったまましばらく目をつむっている。頭にたまっていたアルコールが一気に首から下に落ちて行く。身体がグラグラと揺れる。5分ばかりすると、おそらく頭のアルコールが全部下に落ちたのであろう、ストンという感じで頭が冴えざえとする。そして身体が酔いにみたされるものの、ふらつくほどではない。もうそれ以上飲みたいとは思わないけれども、気持はシャンとしているのである。そんな状態で再び席にもどるので、新甫大人ではないが「山田くんは酔っているのかいないのか分らない」らしいのである。　そんな私が、近年パタリと飲まなくなってしまったのだ。最近口にしたのは、昨年11月にブログ友達のシルフさんと初めて会って、ディナーを一緒にとりながら二人で1本の赤ワインを空けたとき。「私はあまり飲まないから、勝手におやりください」などと言いながら、飲みはじめるとグイグイやっていたのだから、シルフさんは呆れたことだろう。というわけで、飲めなくなったのでもないらしい。まあ、自然のままにというところか。　ところで、タイトルに示したように、私には愛用のワイン・グラスがある。リーデルのソムリエ・シリーズである。2001年に弟がプレゼントしてくれた。　ある日、弟が車でやってきて大きな箱をいくつも我家に運び入れた。それがリーデルのワイン・グラス、かの名だたる「ソムリエ」シリーズ、2人分18個と、デカンター2個、そしてリーデルミレニアム・コレクション2001年度版半ダース（6個）だった。　ニューヨークに滞在していたとき、コーニング・ガラス美術館の永久コレクションとして展示されていたのを見ていた。飾り気のいっさいない、長く細いステム（脚）が特徴の、実に美しいグラスである。サン・ルイやバカラも素晴らしいが、サン・ルイなど我家の食卓に似合うはずもない。私はリーデルの「ソムリエ」シリーズがほしかった。　そんな私の気持を弟は知るはずもなかったが、それはともかく、このプレゼントは嬉しかった。　リーデル（RIEDEL）はボヘミアガラス製造の名家である。その歴史は17世紀までさかのぼり、ボヘミアガラスの歴史はリーデル家の貢献なくしては語れないと言われている。しかし第二次世界大戦後、リーデル家の事業と資産は私財もろともチェコスロバキア政府によって国有化され、その時をもってボヘミヤにおけるリーデル・クリスタル200年の歴史は幕をとじた。　リーデル家9代目のクラウス・ヨーデル・リーデルがオーストラリアのクフシュタインでガラス工場を再建したのは1956年だった。クラウスの信念は、「形は機能に従わなければならない」というもので、グラスの形とワインとの調和を追求することになる。こうして生まれたのが「ソムリエ」シリーズである。　「ソムリエ」シリーズは世界各国の王室で愛され、またウィンストン・チャーチルやウインザー公爵夫人もこのグラスを愛用した。　このグラスのすばらしいところは、ワインの特性を最良の状態にする機能をそなえていることである。香りをふくよかに立てる。ワインの色を美しく見せる。グラスと唇との感触のすばらしさ等々。また、ワインをグラスのなかで静かに揺すると、グラスの壁をワインの涙が美しく伝い落ちる。そして、どの産地のワインを飲むかによって、グラスの種類を変えることができること。デキャンターもしかりである。　ワインというのは銘柄ばかりではなく、どんなグラスを使うかによってまるで違ってくるのだ。　私はリーデルの24個のグラスと2個のデキャンターのセットをここ7年間愛用しているのである。リーデルミレニアム・コレクション　2001年度版このミレニアム・コレクションは21世紀を迎えるにあたり1998年度版・99年度版・2000年度版・01年度版と4種類が限定販売された。それぞれ年度をあらわすデザインがなされている。

おや！クロッカスが

　午後2時半、たった今、散歩から帰って玄関への短いアプローチを歩きながら、並べた植物の鉢をなにげなく見やると、「おやっ！　クロッカスが！」　丈の低いままたった一輪、美しいビロードのような濃い紫の花を咲かせている。一昨年、東京薬科大学の植物園から頂戴した球根である。しかし昨年はまったく花を咲かせなかったので、可哀想に駄目にしてしまったかと、季節がおわっても土から掘りあげもせず諦めてしまっていた。新しい環境に適合できず、消滅してしまったと思ったのだった。　それだから、何の世話もしないままの2年目、まさか我家の小庭で一番最初に花を咲かせるとはまったく想いの外だった。わずか10cmほどの丈である。しかし花冠は大きく立派だ。　昨年末から長い病床の母がようやく起きあがれるようになり、昨日おとといと弟が車に乗せて何処かへ30分ばかりの足慣らしの散歩に連れ出した。その母に、「クロッカスが咲いているよ」と言うと、いそいそと羽織をはおって庭に出て行った。　昨日は強い北風が吹き、東京の気温は冬に逆戻りしたようだった。しかし、きょうは窓を開けていても、吹き込む風がほのかに温い。　「クロッカス休暇」とは、オランダのこの季節、学校が休みになることを言うそうだ。季節の変わり目に体調を崩す子供達が多く、それに配慮しての休暇である。いかにも花の国らしいネーミングだ。オランダは500年600年の昔からヨーロッパ有数の学問の発達した国である。それは単に歴史的な事実としてではなく、この国の教育行政は国民を温かく力強く包みこんで、すみずみまで行き届いた実質的な配慮がなされているようだ。それについては機会をみて考察してみたいと思っているが、「クロッカス休暇」も、オランダの気候風土のなかで、健康な子供達を愛育する教育行政の有り様を具体的に示しているのである。　クロッカス、あるいはクローカス。ハナサフランとも言う。クローカス属には約60種ほどあるようだが、我家の庭のクロッカスのように早春に開花するものもあれば、普通サフランと呼んでいる花はだいたい10月頃に開花する。蕊を陰干しにして香料とする。なかなか高価である。我家のキッチンにも3cmほどの小瓶に入ったものがある。くすんだ紅色をしているが、香高く、パエリャやバター・ライスやスープに入れるとすばらしい黄金色になる。　そうだ、今夜はパエリャを作ろうか。エビやイカや貝類をたっぷり入れて。　クロッカスからサフランへ、サフランからパエリャ料理へ。・・・いつもながら私の頭はどうなっているのだろう。「木の芽季（とき）」ならぬ「クロッカス休暇」をとった方がよいかもしれない。　　　早春のサフラン花をもたげたり　　　いはほ【追記】　おいしいパエリャの作り方　専用の輸入パエリャ鍋はなかなかの価格のものです。お持ちでない場合はフライパンを代用してください。〈材料〉だいたいご家族4～6人分。人数によって適宜加減してください。　豚ロース250グラム、塩豚（なければベーコン）100グラム、鶏肉1/2羽（これは胸肉1枚程度でよいでしょう）、エビ4～6匹、イカ1/2ぱい、米600グラム、トマト中2個、ピーマン5個、にんにく大1片、グリンピース大匙6杯（缶詰小1）、レモン2個、オリーブ油100cc、パプリカ・サフラン各小匙1杯、塩。〈作り方〉（1）　鍋にオリーブ油を熱し、一口大に切った豚肉と塩豚（ベーコン）と鶏肉を強火で軽く焦げ目がつくまで炒める。（2）　さらに、潰したにんにく、トマト（あらかじめ皮を剥き、横ふたつに切り、タネと汁を出して1.5cmくらいの角切りにし、塩・胡椒をふっておく）を水気を切って、ピーマン（1cm角）、輪切りのイカを加えて炒める。（3）　洗い米（30分前に洗い、水気を切っておく）を（2）に加え、熱湯をそそぎ、塩少々と水溶きサフランを入れて煮る。（4）　エビは背ワタを取り、塩少々を加えた熱湯でサッと茹でる。茹ですぎると身が固くなるので、茹で過ぎないように注意。（5）　全体が半分くらい煮えたところでアルミ箔で蓋をしてそのままオーブンに入れる。仕上げる直前にグリンピースを散らし、エビをのせ、温める程度にしてオーブンから出す。（6）　鍋のまま食卓に出し、好みによりレモン汁をふりかけていただく。皆でワイワイやりながら食べると美味しさ倍増！　下準備があるものの、やってみるとさほどの事ではありません。2度3度とやっているうちに、レストラン並のパエリャが作れます。お父さんのお得意料理にしてはいかがでしょう。　　　