古典ホラー映画の楽しみ
外出したついでにDVDショップをのぞくと、タイトルのみ知っていて未見の古典的ホラー映画の名作3本をみつけた。「ウヒョー!」と奇声を(気持のなかで)発して、すぐさま購入。 ★『狂へる悪魔』 ジョン・S・ロバートソン監督、クララ・S・ベレンジャー脚本、ジョン・バリモア、マーサー・マンスフィールド主演(1920年パラマウント映画) ★『透明人間』 ジェームズ・ホエール監督、R・C・シェリフ、フィリップ・ワイリー共同脚本、クロード・レインズ、グロリア・スチュアート、ウナ・オコナー主演(1933年) ★『幽霊と未亡人』 ジョセフ・L・マンキウィッツ監督、フィリップ・ダン脚本、ジーン・ティアニー、レックス・ハリソン、ジョージ・サンダース、ナタリー・ウッド主演(1947年) 『狂へる悪魔』は、ロバート・ルイス・スティーブンソン原作の小説『ジキル博士とハイド氏』(1885)の映画化。映画原題も‘DR. JEKYLL and MR. HYDE’である。 『ジキル博士とハイド氏』の映画化作品は、1908年のPolyscope Company; Selig's studio製作作品が一番最初らしい。『狂へる悪魔』がパラマウントで製作された1920年は、そのパラマウント・プロダクションのすぐそばで、メイヤー・プロダクションがジェス・L・ラスキー監督でルイス・B・メイヤーとルーイス・シェルドンのダブル・キャストでまったく同名の『ジキル博士とハイド氏』を製作した。ハンサムなジキル博士が邪悪なハイド氏にメタモルフォズする過程が映画的で、また初期映画製作者たちの工夫はその点にあった。今日現代のように、何でもディジタル処理ですましてしまうのとは大いに違う。 私の手元に1912年にThanhouser映画製作の『ジキル博士とハイド氏』の新聞広報が掲載された資料がある。参考までに原文のまま掲載してみよう。 「RELEASED TUESDAY, JANUARY 16th : This is the famous story of the physician who tasted of the drug that changed one from a good man to an evil one. A conscientious man who has devoted his life to the saving of human life, a swallow of the drug makes him a beast who would destroy all within his reach and another swallow restores him to his normal balance. But one day the drug-bottle breaks, while he is in the evil state, and he can't GET the OTHER swallow! The film tells the thrilling rest.」 「1月16日 火曜日 公開 : これは、善良な人間から邪悪な人間に変身する薬を実験した医者をめぐる有名な物語。人類の生命を救うために生涯をささげていた良心的な男、その薬を呑み込むと触れるものすべてを破壊しつくさずにはいられない野獣と化し、また別の薬を呑むと平常に回復するのだ。しかしある日、邪悪な状態のままその薬瓶が割れてしまう。彼は別の薬を呑むことができない! さあ、どうなる。そのスリル。」 ところでデニス・ギフォード著『絵入り恐怖映画史』によれば、『狂へる悪魔』に出演したジョン・バリモアは「ブロードウェイ王家の甘い王子」と言われていたが、当時38歳、しかしこの映画のなかでは18歳も若く見えると書いている。 さて、次の『透明人間』。 原題は‘THE INVISIVLE MAN’、H・G・ウェルズの科学小説の映画化。ほかにも『透明人間ふたたび』とか『透明人間の復讐』などが製作されていて、やはりとても映画的な感興を刺激される素材だったのだ。 ジェームズ・ホエール監督のDvD作品は、主演のクロード・レインズは繃帯で顔をぐるぐる巻きにして覆い隠し、黒いサングラスをかけている。繃帯を解くと透明で何も見えない存在なので、クロード・レインズはじっさいのところ声だけで観客に知られたようなものだ。上記の『絵入り恐怖映画史』は、1920年代初めにイギリス映画界では不運だったクロード・レインズは、この映画によって一夜にして世界的なスターになったと述べている。そしてまた、ホラー映画が新しいスターをつくりだす能力があることを再認識させたのだ、と。映画史のなかにドラキュラやフランケンシュタインと肩をならべるキャラクターがこの映画によって生まれ、定着したのである。 『幽霊と未亡人』は、ホラー映画とはいえないかも知れないが、まあ、カテゴリーなどはどうでもよろしかろう。この映画について私は映画史的な資料を何も持っていない。淀川長治・蓮實重彦・山田宏一共著『映画千夜一夜』の第9章「幽霊か悪魔か ― 恐怖の怪談映画ばなし」にタイトルのみ登場する。レックス・ハリソンが幽霊というのだから面白い。 以上、3本のDVDを購入したわけだが、いずれも未見作品なので、「お楽しみは、これから」である。