庭のアゲハチョウ
庭とよべないような我家の小庭には、カキ、コウゾ、トウグミ、ハナモモ、スグリ、ツバキ、ユズ、クリ、チャ・・・無計画に植えられ、いまは緑濃い小薮のしげみを成している。その木蔭を二羽のアゲハチョウが悠々と舞っている。「ああ、君たち、ことしも来たんだね」と思いながら、家人に「アゲハチョウが来ているよ」と声をかけた。 もちろん去年の蝶と今年の蝶が同じではないのだが、代々の子孫ではあるかもしれない。と言うのも、過日のこと、玄関ドアの横のはめごろしの飾り長窓に、5,6cmほどのアゲハの幼虫がとまっていた。私はその胴体をつまみ、反対側の小薮のなかに放してやったのだ。 幼虫は、私が手で触れると、大きい頭を反らすと同時に橙黄色の2本の臭角を出した。ちょっと無気味な、一瞬ドキッとする効果だ。危険を察知して敵を威す効果もあろうが、何よりもまず、相手の臭いをさぐっているのである。 「おいおい、威すなよ」と私は、その小生意気な幼虫クンをツバキとユズの茂みに放した。 蝶の幼虫はさまざまな形態をしている。なかでもアゲハの幼虫は大型で、頭でっかちの緑色をしているので、すぐに同定できるのである。 たぶんこのときの幼虫がサナギとなり、脱皮して、美しい黒い翅をもつアゲハの成蝶になったのだろう。だとすれば、このアゲハチョウは我家の庭で生まれ育ったのだ。そうして兄妹か恋人かは分らないが、いま、二羽がときに翅をかさねあって舞っているのである。 「君たち、来年もまた来てくれよ、ネ」