今年の自選51句
今年1年間、母の看護に忙殺されて、絵画作品を制作する時間の余裕もなければ心の余裕もなかった。せめてもと思いながら、俳句などをつくっていた。過日、11月26日の日記で、108句作ったと書いた。去年はもっと作ったはずだと調べてみると、俳句247句、短歌48首、合計295作っていた。この数とせめて同数か、それ以上をつくらなければ、という気持になった。 きょう、数えてみると、299句になっていた。どうやら数だけは昨年を越えた。もちろん駄作もある。俳句というより川柳にちかいものもある。絵画制作の場合は、私は、練りに練ってから描く。しかし今の私には、俳句を練り上げる時間はない。心に浮かんだこと、見たこと感じたことを即座に5・7・5で記憶し、書くときに2,3分言葉をいじってみるのが精一杯だ。 たぶん晦日までにはもう数句できるだろう。とりあえずの299句である。読みかえしてみると、自分自身で好きな句もある。51句あった。山田維史青穹自選句ということで次に書き出してみよう。 老いの身に春の嵐の喩えとは 咲けばこそ勿忘草や恋重荷 巣燕も軒端菖蒲の節句かな 夢さわぐ静めんとせば雨 雲起ちて命はげしき夏野かな 日傘おもく訥々として媼あり 氷いちご紅ほどほどの童女哉 顔見知り手に竜胆の意外なり 破れ垣つくろいもせで無花果や 軍用機月を左に切り裂いて 瓶の酢のひそかに醸す秋の暮 行き暮れて誰呼ぶ声か紅葉散る 道連とはぐれて遠し片時雨 白壁のいよいよ白し神無月 乾し草の懐かしき香や少年忌 木枯や忘れしひとの葉書見つ 刈原に地下足袋の藍冴えざえと 食べねども粥炊く日々の冬構 思いでや実のひとつなき枯芙蓉 秋深しあなたこなたの夕餉かな 朝掃いて夕べにも掃く落葉かな 二日過ぎ月冷えびえと鎌を研ぐ 隠水のほのかに明く月白し 山眠り三輪の音ゆめうつつ 尋ねれば友それぞれの冬構 晩鐘や北窓閉ざし遠音かな 打ち捨てて別れし道の枯茨 庭の木を一本伐って冬日入る 凍蝶やついの褥の枯葎 愛憎の心弱りや冬の蝶 凍蝶の翅落ちしかば死せるなり 雨に濡れいっそしお垂る枯黄菊 来る文の文字も濡れたり冬の雨 寒の雨喪中葉書のひっそりと 男坂を崩れて流る冬の雨 庭下駄の爪より濡らす雨寒し 寒紅やあでやかすぎる老女かな わが裸しみじみと見てくしゃみかな テノールの歌曲止んだり冬座敷 冬空を指でなぞって雲三筋 突兀として補陀落山も冬枯るや 鉄塔のゆるき弧線や冬の空 待てしばし捨つるに早き古暦 あたらしき暦の上の古暦 影黒し蕭条として枯木立 惻々としてなみだの滲む根深汁 静けさや爪切るひとの冬座敷 茶呑碗両手をそえる寒さかな 忙しげに言われて身に添う年の瀬や 寒月や厚着の影のやや太し 筆立の穂先に触れて蕪村忌や