子どもまつり、100人余を相手に
朝8時15分に家を出て午後1時20分に帰宅するまで、午前中いっぱい、近所の児童館恒例の子どもまつりの手伝い。 私が担当したのは工作コーナーのひとつ。私のコーナーを訪れたおよそ100人を超える幼児から小学3,4年生を相手にして、まあ、その元気な圧倒的なエネルギーを受け止めるのだから、終了したときには爺ちゃんはいささか疲れました。というのも、今日は自分の仕事場に閉じこもれないと思ったので、昨夜は午前0時30分まで制作し、就寝したのは2時だった。ちょっと寝不足ぎみではあったのだ。 毎年手伝いをして思うのは、年齢に関係なく、さまざまな素質や感覚の子どもがいるということ。相手をしている私の気分はじつに愉快だ。お父さんの膝に抱っこしたおそらく2歳程度の子どもが、カラーペンで積極果敢に自主的にぐいぐい描いていく。お父さんは一切口を出さないのもすばらしい。 そうかと思えば2年生くらいの男の子。机の前で、当惑したように「絵がかけない」と言う。私は黙ってそばで見ている。10分、20分。やがてカラーペンをとり、円弧を描いた。色を次々にかえて虹ができあがった。それからその下に丸と棒の色違いで記号のような人物を描いた。私は初めて言う。「きれいな虹だなー!」それからアドヴァイスしながら紙皿2枚を重ねたコマをつくった。「できたねー、きれいなコマだ。ちょっと借りていい? 回してみよう』と、私は床にしゃがみこんで回す。虹が回転のなかで色の帯になる。「いいねー、君のコマ、きれいだねー!」男の子の目が輝く! あるいは綿密なグラフィック感覚の、やはり2,3年生の女の子。軽快な細い線で複雑な模様を創りだした。また、そのお友達は、互い違いに綿密に幾つもの色を塗りこんだ帯をコマの周囲に描いた。私は再び、「回してみようよ、貸してもらっても、いい?」私は回す。すると、いろいろの色を隣り合わせにした丸い帯は、回転と同時にほとんど黒い帯になった。女の子は驚いた。「あれ? 黒くなってしまった」「ほんとだね、止まると色がでてくるけど、回ると黒くなってしまうね」私はなぜそうなってしまうのかを説明する。加算混合の原理を-----。 あるいは、こんな父子も。-----男の子である。おそらく学齢前だ。黒と緑で描いたのは、ロボットかもしれない。次に茶色でそのロボットを塗りつぶさんばかりにランダムな線や円を描き始めた。お父さんは、せっかくの絵がダメになってしまうと思ったにちがいない。「もう、そこでやめておけ。もう、できただろう、やめろ、やめろ」ロボットは姿が見えなくなるほど、いわばグチャグチャな線で埋め尽くされる。それから彼は、コマ作りの過程としては描かなくてもよい、紙皿の別の面にも同様の絵を描き、同様に塗りつぶした。お父さんは、とうとう見ていられなくなったのだろう、コマに仕立てるようにと取り上げたのだ。すると男の子は、床に座り込んで泣き出した。「いやだ、いやだ」------私は、黙ってその様子を見ていたのだが、お父さん、ちょっと児童画の本質をご存知でなかったか。 つまり、幼児から小学2,3年くらいまでは(もちろん子どもによるのだが)、「対象」を描いているのではないということ。自分の「こころ」を描いているのである。対象認識が未発達で、対象と自己とが同化しているためなのだ。 このような発達過程における絵について、親や教師たち第三者が「それ、何描いているの」とか「お花はそんないろじゃないでしょ」とか「お空は緑色じゃないんじゃない?」などと口をはさむことは厳しくつつしまなければならない。子どもの「こころ」の否定になりかねないからだ。 -----この時代が過ぎると、いよいよ対象認識が明確になってくるのだが、しかしこと絵を描くについては技術の未発達のために対象の個性は見てとれてはいるのだが絵への変換においては紋切り型になるものである。 それは2次平面上に仮想の3次元を描き出すことができないため、つまり光と陰との関係を認識して技術処理できないためである。また、これは私見ではあるが、マンガやアニメによって育てられた視覚が、平面感覚を発達させる一方で、立体感覚の発達を遅らせているかもしれない。 たとえば、3年生くらいになると人物表現に衣服のシワを描くようになったりする。しかし、それは実物を観察したものではなく、つまりは紋切り型なのだ。 こういう絵を描くようになった子どもの親御さんのなかには、しばしば、「ウチの子は、こまかいとこに気がついて、シワも描くんです。私、もう、びっくりしちゃって!」 ------子どもの絵というのは、ムズカシイものなのである。 というわけで、帰宅して、昼食を摂り、仕事場に入りしばらく椅子にかけているうちに、20分くらい居眠りをしていた。それから気をとりなおして昨夜やったところに手を入れ、いよいよ最後から2番目のヤマまでこぎつけた。来週いっぱいで描写は完成するだろう。作品引渡しの6月11日までに最終の化粧をする。