今朝、両親の仏前に御飯を供奉すると、花立に「ほたるぶくろ」が飾られていた。私が知らない間に弟が供奉したらしい。弟は、おそらくどこかに吟行にでかけて、土地の人にでもちょうだいしたのであろう。私たちが子どものころに親しんだ野草である。
植物図鑑には「各地の山野に生ず」と書かれるのが常であるが、意外に、めったやたらには見かけない。私が懐かしく思い出すのは、やはり八総鉱山で植物採集のために山野を歩き回っていた小学生のころだ。私は「ほたるぶくろ」の群生地を良く知っていた。
いまこの日記を書く前に、先日画像を掲載した子どものころ使用していた牧野富太郎博士の学生植物図鑑を繰ってみた。すると「ほたるぶくろ」に鉛筆でチェックが記されていた。私の資料箱のひとつには、小学生のときにつくった植物標本が少しばかり保存してある。あるいはそのなかに「ほたるぶくろ」があるかもしれない。
「ほたるぶくろ」の開花は6,7月ころが最も多い。蛍が飛ぶには少し早いのだが、その蛍が宿る花と想像した古人の優雅な心が想いやられる。じっさいにこの花に蛍が宿ることはない(と思う)。私は見たことがない。じっさいには宿らないけれども、そのように想像する心に、私はなんとも言えない静かな喜びを感じる。
そして、「弟よ、サンキュー」である。
牧野富太郎著『学生原色植物圖鑑』
昭和31年刊 25ページより