ロシアの民間軍事会社ワグネルによるクーデターに、西側世界は不意を衝かれた感じで急遽連携して外相会議をおこなったようだった。ワグネルの部隊はモスクワまでおよそ200 kmの地に進軍した。様々な憶測が飛び交う中、しかし、ワグネルを率いるプリゴジン氏はモスクワへの進軍を停止し、ベラルーシに向かうと発表。世界をざわつかせたクーデターは短時間で終息した。ロシア国防省は、反乱に加わらなかったワグネル戦闘員(反乱に加わった兵士も含むという報道もある)との、新たな契約に署名したと発表した。
いったいこの「騒動」は、何であったのか?
プリゴジン氏の直接の動機はなかなか解明できないらしいが、ただ西側世界が知り得たのは、クレムリン(ロシア政権)もロシア正規軍も「弱体化」しているということだろう。
民間軍事会社の目的は、平和の維持ではあるまい。ロシア政府との契約で国家利益の防御という大義はあろうが、会社組織の利益追及が戦争にあることは言うを待たない。もし反乱行動を遂行したとして、それは民間軍事会社として資金の出所を失うことになる(なりかねない)。プリゴジン氏の反乱をロシア大統領はプリゴジン氏の「私利私欲」と指摘し、チェチェン首長も同じく「私利私欲」の取引に失敗した結果の暴発、と言っている。一方で、プリゴジン氏はウクライナ侵攻前線におけるワグネル部隊に対するロシア国防省の「裏切り/欺瞞」を指摘する。前線に武器弾薬を供給せず、膨大な戦闘員が死ぬのを見捨てた、と。軍事会社組織の継続のためには、戦線でいかに戦果をあげているか自己宣伝する必要があろう。いや、そのような自己宣伝は民間軍事会社に限ったことではない。いかなる軍隊も、敗戦は語らない。常に戦果を誇張して宣伝するものである。
さて、このたびのワグネルの反乱に勝敗をつけるとすれば、私はやはりロシア国防省の勝ちだと言おう。とすれば、ワグネルが存続してゆくためには、正規軍に組織化されるか、少なくとも従属組織にならざるを得ないのではあるまいか。おそらく今までどおり国防省と正規軍に対して鼻息荒く息巻いてはいられないのではなかろうか。ただ、プリゴジン氏のワグネルがベラルーシに向かったということは、ワグネル部隊が温存することを意味するのだろうか?
もしワグネルがそのまま温存されるとなると、この「反乱」そのものがプーチン氏とプリゴジン氏とによる戦略的政治的な謀略ではないか、という疑念が出てくるかもしれない。対外的にはマイナスのイメージをあえて引き受け、しかしながら国内的には2024年の次期大統領選挙を控えてプラス・イメージとなるという、弱体化しつつある政治権力の思い切った起死回生策である。反乱後のブリゴジン氏の処遇について、プーチン氏はベラルーシ大統領に仲介を頼んだという報道がある。しかもプリゴジン氏を処罰しないという。・・・クーデターの首謀者に対していかなる処罰もしないというのは、国内流血を回避するためというのがプーチン氏の言い分のようだが、通常では考えられないことだ。
プーチン氏は権力維持のために何としてでもウクライナを占領しなければならない。占領しないまでも、自らのこれまでの主張に分があるような戦争の終わり方をしなければなるまい。戦争に勝利するためにはウクライナ戦線で戦果をあげてきた民間軍事組織ワグネルの(使い捨てできる)戦闘員が必要なのだ。
プーチン氏とプリゴジン氏とは出身地を同じくし、精神的・心理的に共通するところがあるというのが大方の認識である。手を結びやすいが、それだけに反発・離反も激しい。プーチン氏としては、このままプリゴジン氏を置いておけば、爆弾を抱えているようなものだ、という思いはあるだろう。平静であるはずはない。ワグネルの戦闘員は新たに国防省と契約を結んだ。ワグネルは解体したのだろうか? プルゴジンはベラルーシに向かった。プリゴジン氏はワグネルを失ったのだろうか? プーチン氏の盟友プリゴジン氏が創設したワグネルは戦闘員に受刑者を含む。ワグネルはプーチン氏の私兵とまで言われた。しかしプーチン氏は権力闘争に立ち上がったプリゴジン氏を切り離すだろう。そしてワグネルは解体するにしろ戦闘員は国防省支配下に組み込まれて兵員数確保のため何らかの形で温存されるだろうと、私は情報分析する。ベラルーシに出国したというプリゴジン氏のその後の所在についての情報が無い。これが何を意味しているか。(ベラルーシに到着していないという情報がある。4/26)
西側世界は新たな視点で注視するだろう。
また日本としてもNK國との関わりで、ロシアの現政権の動向はまったく見過ごしにできない問題である。