夜に入って雨が降り出した。しかし仕事部屋の暖房は一日中切っていたが、寒さはかんじない。急に冷え込む日もあるが、だんだん暖かくなってきているのだ。
小庭のクサボケが朱色の花を咲かせた。花卉の少ない我が家の小庭に一等最初に咲くのがクサボケである。
15,6年ほど前までは、アーモンドの純白の花が最も早く春の到来を知らせた。丈は1.8メートルもある木だったが、不思議なことに父が亡くなった年に完全に枯死してしまった。父が亡くなったのは3月だから、まるでその死の前触れのようだった。
・・・まあ、不思議でもなんでもない。家人がみな父の介護にかかずらっていたので、庭の植物の世話どころではなかったからだ。それは母の死のときもそうだった。母も3月に逝った。そのころの小庭は、実にたくさんの花の種類が咲き誇っていたのだ。寝たきり状態の母を慰めるために、ベッドから見渡せる場所にたくさんの園芸種の花の鉢をならべ、門から玄関までの道の両側にも並べた。しかし、母の死とともに花盛りの庭は完全に枯れ庭になってしまった。
以来10数年が経つが、我が家には花の鉢は無い。野草の庭、雑草の庭である。・・・そんな小庭に残ったわずかな花木が、クサボケであり、柿、土佐文旦、椿、紫陽花、柏葉紫陽花、ハコネウツギ、アガパンサス、そして野草の二人静、ヤマジノホトトギス、ドクダミ、ミズヒキ。いずれも園芸種のような華やかさはない地味な花々である。
いつだったか、植物が好きだという坊やがひょっこりやってきて、我が家の貧しい花を見ていた。さて、お気に入りがあったのかどうか。
独り居や机に倚れば草萌ゆる 青穹(山田維史)
独り居の草の住まいや春の雨
ひとり来て雨の宿りや草萠ゆる
雨音に耳をすませば草萠ゆる