個人的な古い資料をさがしていたら、目的の資料は見つからなかったが、懐かしいというよりほとんど忘れていた本が出てきた。私が長野県の川上第二小学校に入学した年に父が買ってくれた本『日本犬の活きた訓練』である。75年前に発行された本だ。
私はこのブログ、2005年10月20日に「カピや!」と題して書いた。Tさんの家から生後1年未満の子犬をもらった。私は竹で編んだ子供用の背負籠を背にしてTさんの家に行った。柴犬である。当時、日本放送協会ラジオ(NHK)が、朗読劇「母をたずねて三千里」を放送してい、主人公マルコ少年の愛犬がカピと言った。私はその名を私の子犬に名付けた。犬を飼うのは初めてだった。ある日、父はどこかに出張しての土産に『日本犬の活きた訓練』を買ってきた。
しかし、「おもしろブック」や「子供の科学」は購読していたけれど、『日本犬の活きた訓練』は難しい漢字ばかりの本で、私には読めなかった。掲載されている沢山の写真や図版を眺めるばかりで、結局、父が読んでいた。・・・その本が、資料箱の中から出てきたのである。もともとは青いカヴァーが付いていたのだが、それは失われていた。
薬剤師 磯貝晴雄著『日本犬の活きた訓練』
発行:愛知縣知多郡旭村新舞子驛前
日本犬柴犬猪犬研究所出版部
印刷所:半田市字北瀬古上三九ノ一 知多印刷株式会社
昭和9年3月28日印刷 昭和9年4月1日発行
昭和24年4月20日142販発行 定価 金250円
この奥付を見て思うのは、戦争をはさんで再発行されるまでに142販を重ねていること。一回の再販がいったい何部発行されたのかは不明だが、それにしても142販とは驚くべき数字である。しかも定価250円は随分高価だ。貨幣価値で比較すると現在はおよそ当時の10倍である。
見開きを掲載したが、興味深いのは、デザイン文字にロシア・アバンギャルドの影響がある。これも当時の日本のデザイン界の流行が反映している。
なお、当時ベストロングセラーだったと想われる本書は、いわゆる地方出版である。奥付にある住所は、現在、発行所は知多市新舞子になり、印刷所の半田市の住所は郵便番号簿にもなく検索しても出てこない。もしかすると表記が全く改変されたのかもしれない。75年の時の流れである。
そして、電子書籍がこのような75年の命脈を果たして保つかどうか。保ったとして、将来、特殊電子技能者ではない一般人が、電子データの深い深い層の底から古人の知識を引き出せるかどうか。知的探索ができるかどうか・・・。いま、私は読書人に考えを訊いてみたい気がする。書物の書き手に、自分の作物の寿命(永生)を如何に考えているか、訊いてみたい気がする。
・・・とはいうものの、現代今日の日本では「焚書」の思想はかたちを変えて脈々と生きている。それは独裁者(あるいは狭量な思想国家)が人民を飼いならすための行為とは、本質は変わらないのだが、破棄する記録は支配者自らのものである。司法行政、三権の省庁では書類の破棄が隠然と行われている。歴史的な検証をさせまいとしている。国民に対する「犯罪」が日本の中枢でおこなわれているのである。・・・温故知新とはなんぞやと嘲笑している幼稚さである。