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カテゴリ:歌舞伎
夜の部です。
『木の実』 『小金吾討死』 いがみの権太 片岡仁左衛門 権太女房 小せん 片岡秀太郎 主馬小金吾武里 中村扇雀 若葉の内侍 中村東蔵 鮓屋弥左衛門 市川左團次 場所は吉野下市村。街道筋の茶屋はお寺の参拝客でにぎわっている。 茶屋の客役に山崎権一さんが。役は小さいですが、ほぼ毎月と言って良いほど出ている(はず)方です。こういう役者さんのおかげで歌舞伎の舞台は成り立っています。 自然に年を重ねたからこそ出る味わいが感じられる、渋い脇役さん。「山崎屋~」と声がかかりました♪ この茶屋に、小さな尼そぎの男の子を連れた高貴な感じの女性と、彼女たちを守る武士がやってきた。平惟盛の妻・若葉の内侍とその子六代君、家臣の主馬小金吾。惟盛が実は生きていると聞いて探している。 ところが六代が『おなかが痛い』と言い出し、茶屋の女主人・小せんが薬を買いに行ってやることに。小せんが帰るまで、一行は木の実を拾って遊んでいた。 そこに一人の旅人が現れた。木の実を落としてやったりと親切そうだが、実はこの辺りで名うてのならず者、通称「いがみの権太」。木の実に気を取られているうちに、荷物を取り替えて去ってしまう。 荷物が間違えたれたことに気づいた小金吾は中身を改めるが、そこへ権太が戻ってきて荷物の中に入っていた金がないと言って小金吾を強請りはじめる。もちろん権太が仕込んだ「かたり」なのだが、若葉の内侍は、小金吾に黙って金を渡すように命じ、一行はその場を去る。 さすが東蔵さんが出ると舞台がしまるというか、左團次さんと同じく存在感があって、それでいて出しゃばらないのが良いです~ 薬を買って戻ってきた小せんは権太の女房です。夫の悪行をなじりますが、権太はまったく反省してないんですね~むしろ簡単にお金が強請り取れたことで勢いづき、今度は勘当中の実家の母親の金をかすめとってやろうと企むのです。 上方風のゴンタは正月の浅草歌舞伎で愛之助さんがやってた(「すし屋」の場面だけ)のを見ました。 その時の記事でも書きましたが、江戸風?のよく見るタイプの権太より悪っぽい感じがしますね。愛之助さんは仁左衛門さんに教わってますから、これが本家なのですね~ ゴンタは地元で有名なすし屋の息子ですが、悪いことばかりしているので父親に勘当されてしまった身です。 でも、そんな評判のワルも息子の善太郎は目に入れても痛くないほど可愛がっているのです♪散々悪いことをしてる割に、息子の名前には「善」と付けてるし~。子供には自分と同じ道を歩ませたくないという親心ですかね。 善太郎が一緒に家に帰ろう、と頼むと、そうかぁ~とばかりに目じりを下げるわけで。 子供にすがられたときの仁左衛門さんが、こちら側に背中を見せたのは結構意外でしたが、子供を包み込むようにしている後姿に、権太の本質を見たというか、やっぱり根っからの悪者ではないのだな~という感じがしました。 子供が持っていた呼子笛を「こんな子供っぽいものを持つな」みたいに言って、入っていた巾着ごと取り上げますが、捨てるわけではなく腰につける。この笛が後々重要な泣き所となるのですよ~(涙) 小せんをからかいながら親子三人帰っていく姿はほのぼのとして人情味あふれていて、まさかこの後に悲劇が起こるとは思えないほどです。 「小金吾討死」では、捕手に追い詰められた小金吾が孤軍奮闘するのですが、このとき舞台は暗くなって竹やぶの中のようにしつらえてあります。群竹の配置など奥行きが感じられて良かったデス。 捕手たちが舞台を走り回りながら巧妙に縄を組んでいって、放射状に縄を張った中心点のところに小金吾が乗せられて見得を切るところ、タイミングよくとんぼをきるところ、ホントこういう場面での三階さんたちのあざやかな技には驚かされます。 なのに・・・何か扇雀さんの小金吾はちょっとイメージと違うんだよな・・・ 私の中での小金吾はもっとキレがあって颯爽としていて、悲壮なまでの美しさに彩られているのだけど、扇雀さんはちょっとドタドタしすぎだったのですよね・・・ 最後には切られてバタリと横たわる小金吾。そこへ通りかかった「つるべずし」の主人・弥左衛門。いがみの権太の父親でもある。 最初は突然目の前に転がっていた死体にビックリするが、やがて何を思ったか、刀を振りかざして傍らに立つ。 『すし屋』 いがみの権太 片岡仁左衛門 鮓屋弥左衛門 市川左團次 弥助実は三位中将惟盛 中村時蔵 娘 お里 片岡孝太郎 弥左衛門女房 坂東竹三郎 若葉の内侍 中村東蔵 権太女房 小せん 片岡秀太郎 梶原平三景時 片岡我當 このすし屋のモデルになったお店は、今でも下市にあるそうですよ。 もしお近くに行くことがあれば寄ってみてはいかがでしょうか~ つるべずし 弥助 吉野下市のすし屋「つるべずし」の奉公人、弥助が商いから帰ってきた。天秤棒の先は空のすし桶にもかかわらず、ふらふらと足元のおぼつかない優男。実は平家の公達、平惟盛の仮の姿。「つるべずし」の主人がかくまっている。 すし屋の娘お里と母親が出迎える。弥助がやっとのことでもってきたすし桶を軽々と持ち上げるお里(笑)今夜はお里と弥助の祝言が行われるとあって、お里はウキウキ。 今は奉公人だけど、夫婦になったら私を呼び捨てにしなくちゃダメよ、と弥助に指南するところに、夫婦になるということに甘い夢を抱く乙女っぽさが出ているかと思うと、祝言前なのに弥助を寝床に誘ったりと結構大胆なトコも(汗) そこへ放蕩息子の権太が帰ってきた。母親のへそくりを騙し取ろうと、あーでもないこーでもないとウソ泣きしながら訴える。 「木の実」での強請り騙りの悪党ぶりを隠し、母親のひざに頭をのせて甘える権太。母親も甘いので、ついついお金を渡すことに。 で、お金は金庫にあるのデスが、鍵が開かないのです。ゴンタがカチャカチャとやって鍵を開けたのを見ては「器用やなぁ~~」と感心するオカン。 オカン!!そんなことに感心しちゃダメだって!!!(汗汗) ここでゴンタは父親と鉢合わせしそうになって慌ててすし桶にお金を隠し、父親はかくまっている惟盛の首の代わりに持ってきた小金吾の首をこれまた隠し、しかも順番を入れ替えてしまう(!)。 で、江戸風の演出だと、このあとゴンタは『どれだったかな~』と迷うのですが、上方風では迷わずさっと持っていく。ゴンタは父親のしたことを見ていないので、ごく当たり前の仕草です。このほかにも江戸風と上方風で微妙に違う演出の部分がいくつかありますが、上方風のほうが合理的だし、人情味がありますね。 結局権太は自分の妻と子を惟盛の妻子に仕立てて差し出すわけですが、それもこれもホントは真人間になりたくて、父親に認められたくてする行為なわけです。それなのに権太は誤解した父親に刺され、梶原が褒美として権太にくれた頼朝の陣羽織には実は頼朝がひそかに惟盛を出家させる為の数珠や袈裟が入っている。権太も父親もお里も知らないうちに大きな権力に踊らされてしまっていたのかと思うと、哀れでなりません。 父親弥左衛門の有名なセリフ『三千世界に子を殺す、親というのは俺ばかり』がより一層つらく感じられました。 苦しい息の下で権太が吹く呼子笛、これは『木の実』で権太の息子善太郎が持っていたもの。 運命に翻弄された親子三代の悲劇的な結末に、涙がボロボロとあふれ出ました。 正直、お芝居を見てこれほど泣いたのは初めてです。 刺されたあとの「もどり」も、浅草の時は長く感じてしまったのですが、ぐいぐいとひきつけるように最後まで持っていったのはさすが役者としての力量の差ですね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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