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カテゴリ:80年代洋楽
本盤は、大ヒットとなった前作『90125』('83年)と同じメンバー、ほぼ同じコンセプトで制作されている。 ここで鍵を握っているのは、ギタリストのトレヴァー・ラビンだ。 南アフリカ出身のアーティストである彼は、ギターだけでなくヴォーカルもとれる男であり、なによりコンポーザーとして優れていた。 前アルバム収録のナンバーであり、全米1位を記録した「Owner Of A Lonely Heart」も、元々はラビンのソロ用の曲だったというのは有名なハナシだ(…と思う)。 『Big Generator』のプロデュースは、元バグルス(※1)にして前作のプロデューサーでもあったトレヴァー・ホーンが引き続き担当するはずだった。 だが、レコーディングの途中でラビンと衝突したホーンは、そのまま降板してしまう。 結果、ラビンがプロデュースも担当することとなり、アルバムは彼の色が非常に強い仕上がりとなった。 「Love Will Find A Way」は、アルバムからの1stシングルとなった曲だ。 作詞、作曲はトレバー・ラビン。 メンバーの共作が大半を占める本盤の中での唯一のラビン単独作で、元々はスティーヴィー・ニックスのために書かれたという信じがたいエピソードを持つ曲だ。 曲調的にはプログレ臭はほとんどなく、産業ハード・ポップと呼ぶにふさわしい出来となっている。 ただし、ただの産業ポップではない。良質で美しい、Yesならではのキャッチー・チューンだ。 イントロのギター・フレーズ(※2)からして力がみなぎっている。 続くAメロは、いきなりジョン・アンダースン、クリス・スクワイア、そしてラビンの三声で歌われるという豪華さ。 サビへ向かうBメロ部分はジョンのハイトーン・ヴォイスが目立ち、高揚感を掻きたてる。 対して、サビの部分ではラビンの声が目立っているのが面白い。 単に声質の問題で振り分けただけかもしれないが、この当時のバンドの政治関係を象徴した一節にも思える。 ブリッジ部(1:39~)でアンダースンの透明な歌声が響き、最後にラビンが「Away」と歌い継ぐ(1:55)という作りも絶妙だ。 ポップでドラマティックなメロディはもちろん、コンパクトな構成、考え抜かれたアレンジも文句なし。 全米30位とチャート的には振るわなかったが、「Owner Of A Lonely Heart」に勝るとも劣らない最高の一曲だと思う。 この曲と、'94年の『Talk』に収録の「The Calling」、そして「Owner Of A Lonely heart」と合わせて"90125イエス三大名曲"と勝手に位置づけているワタシです。 『Big Generator』はアルバム全体としても素晴らしい出来だったが、前作ほどのヒットにはならなかった。 現在でも世間的な評価は高いとは言えず、ファンの間でも賛否が分かれる作品である。 音楽的に「プログレっぽくない」というのも理由のひとつだろう。 もうひとつは、(前述のように)ラビン色がことさら強いというのがあったのかもしれない。 実際、このアルバムを最後にアンダースンはグループを脱退している(その直後にABWHを結成)。 こうした事実は、人によっては「ラビンがYesをのっとった」というふうに映るかもしれない。 だが、90125イエスは元々ラビンのグループとしてスタートする予定だった(※3)し、彼の指向した「コンテンポラリーなポップ・ロック」は、"プログレ"と呼ばれたバンドが時代を生き抜く方法論として正しかったはずだ。 バンドに新しい活力を吹き込み、80年代以降も延命させたラビンの功績はきちんと評価されるべきだと思う。 "イエスの顔"と呼ぶにふさわしい人物はジョン・アンダースンだろう。 だが、トレバー・ラビンもまたイエスなのだ。 『Big Generator』はプログレではないかもしれないが、Yesというバンドが作った素晴らしいポップ・ロック・アルバムだ、と断言したい。 実のところ、定番の『危機~Close To The Edge』(過去ログ参照)を別格とすれば、個人的にもっとも好きなイエスの作品がこのアルバムなのである。 つーコトで「Love Will Find A Way」を聴くにはここをクリック。 トレヴァー・ラビンに愛の手を!\(´ー`)ノ ※1 一時的にイエスのメンバーでもあった ※2 アルバム・ヴァージョンでは、ギターの前に大仰なチェロが挿入されている。 ※3 元々はトレヴァー・ラビン、クリス・スクワイア、アラン・ホワイトのトリオによる"Cinema"というバンドが予定されていた。 そこにトニー・ケイやジョン・アンダースンが加わって新生イエスの誕生となった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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