Band Aid 「Do They Know It's Christmas?」
'84年の英国でクリスマスシーズンに発表されたチャリティ・シングルで、全英1位、全米でも13位を記録している。音頭を取ったのは、Boomtown Rats('79年の全英No.1ヒット「哀愁のマンデイ」が有名)のボブ・ゲルドフ。エチオピア難民救済のため全英のミュージシャンがレーベルを越えて集まったプロジェクトで、参加メンバーはポール・ヤング、ボーイ・ジョージ(カルチャー・クラブ)、ジョージ・マイケル(ワム)、スティング、ボーノ(U2)、フィル・コリンズ、デュラン・デュラン、ポール・ウェラー、バナナラマ、ヒューマン・リーグ、ユーリズミックス…そしてポール・マッカートニー(曲の中間のナレーションのみ)、といった具合で、当時の一流のミュージシャンが湯水のごとく集結した。翌年の'85年に実現したビッグ・イベントLive Aidの布石となったプロジェクトでもある。当時ろくな音楽知識もなかった僕も、ワケも分からず「スゲー!スゲー!」と興奮していた事を思い出す。一般的な知名度という点では、USA For Africaの「We Are The World」の方が有名だが、コンセプト、曲の構造、ビデオ・クリップの作りまで、まんまBand Aidの二番煎じである。500万ドルの義援金を集めることに成功したと同時に当時のエチオピアの独裁政権を強めることにもなってしまったという結果を生んだこのプロジェクトは、当時から様々な批判を呼んだ。お題目は立派であるものの、「自分達=正義」と信じて疑わない者が、その薄っぺらな正義を他者に押し付ける事で自己満足してしまう西欧人の傲慢さが表れている、とも言われた。確かに「クリスマスを知ってるかな?」というタイトルとこのような歌詞(下記参照)を持った曲は、キリスト教信者でもないエチオピア難民(※)にとっては「そんなもん知るかよ」というものでしかないかもしれない。「結局は西欧人による、アジア=アフリカ諸国への文化的侵略に過ぎない」という辛辣な意見まで飛び交った。こういった批判は全く的外れとは言えないものの、トップアーティストが損得抜きで一同に集まったという事実は、我々一般大衆に「何か」を働きかけるささやかな力を持ち、この「Do They Know It's Christmas?」が今も聴き継がれるスタンダードとして残っている事も揺ぎない事実である。この曲のビデオクリップを見るたびに僕は心の中で叫んでしまう。おお!ポール・ヤングだ!おお!ボーイ・ジョージだ!おお!ジョージ・マイケルだ!おお!ポール・ウェラーだ!おお!ドラムを叩いてるのはフィル・コリンズだ!おお!サイモン・ルボンだ!おお!ボーノだ!ひとつの曲の中で、超一流のミュージシャン達がバトン形式で次々とボーカルを分け合う姿を見て心が躍るのを止めるのは難しい。そしてクライマックスにおける大合唱での高揚感は、音楽が好きな人間だけが味わえる至福の瞬間だ。このプロジェクトや翌年のLive Aidの立役者であるボブ・ゲルドフは後にノーベル平和賞にノミネートされた。また、この曲の20年後の2004年に今度はスーダンのダルフール紛争での難民救済のためにBand Aidが違うメンバーで再編成され、「Do They Know It's Christmas?」を再びレコーディングしている。以下、歌詞と対訳It's Christmastime; there's no need to be afraidAt Christmastime, we let in light and we banish shadeAnd in our world of plenty we can spread a smile of joyThrow your arms around the world at ChristmastimeBut say a prayer to pray for the other onesAt ChristmastimeIt's hard, but when you're having funThere's a world outside your windowAnd it's a world of dread and fearWhere the only water flowing is the bitter sting of tearsAnd the Christmas bells that ring thereAre the clanging chimes of doomWell tonight thank God it's them instead of youAnd there won't be snow in Africa this ChristmastimeThe greatest gift they'll get this year is lifeOh, where nothing ever grows, no rain or rivers flowDo they know it's Christmastime at all?Here's to you, raise a glass for everyoneHere's to them, underneath that burning sunDo they know it's Christmastime at all?Feed the worldFeed the worldFeed the worldLet them know it's Christmastime againFeed the worldLet them know it's Christmastime again クリスマスだ。恐れることは何もない。光を受け入れ闇を消し去るのだ。満ち足りた世界に喜びの笑顔を届けるのだ。さあ、クリスマスの時、世界に手を差し伸べよう。隣人の為に祈ろう。クリスマスなのだから。幸せな人には難しいかもしれない。でも、窓の外にも世界があるんだ。不安と恐れがあり、流れている水は身をきるような涙の水だけの世界。そこで鳴るクリスマスのベルは世の終わりを告げる。今夜は神に感謝しよう。自分がそこにいないことを。アフリカでは今度のクリスマスにも雪は降らない。今年彼らが受け取る最高の贈り物は命。ああ、何も育たない、雨も降らない。こんな地で彼らはクリスマスの時だという事を知っているのだろうか。さあ、みんなの為に乾杯しよう。太陽の下にいる彼らの為にも乾杯彼らはクリスマスの時を知っているのだろうか。食糧を世界に。食糧を世界に届けよう。食糧を世界に。彼らにクリスマスを知らせよう。食糧を世界に。またクリスマスが来る事を知らせよう。※エチオピアは多宗教の国。キリスト教のコプト派(エチオピア正教会)が50%、イスラムが30%、その他はアニミズム、カトリック、プロテスタント、ユダヤ教などである(コプト派よりもイスラム教徒の方が多いという説もある)。また、エチオピア連邦憲法11条は、日本と同様、政教分離を定めており、国教を禁じている。