Led Zeppelin 「Wearing And Tearing」
'80年12月4日、レッド・ツェッペリンの解散を告げる声明文が公式に出された。理由はもちろん、同年9月のジョン・ボーナムの急死によるものである。「後任としてコージー・パウエルが入る」という噂が当時流れるなど、バンドの存続も検討されたようだが、最終的に出された結論には誰もが納得したに違いない。なお、Zepの解散宣言がなされたその四日後には、ジョン・レノンが射殺されるという事件が起こっている。Zepの解散から二年後にリリースされた『CODA(最終楽章)』は、今までの未発表曲や既存曲の別テイクを集めた編集盤だ。彼らの自主レーベルであるスワンソング・レコードは、アトランティック・レコードとの間に「レッド・ツェッペリンのアルバムを5枚リリースする」という契約を交していた。『CODA』がリリースされたのは、この契約を満了させるのが目的だったという。もっともそれはビジネス的なことであって、ジミー・ペイジにとっては未発表曲集をのぞむファンへのプレゼント、そして自身の中でのZepに対する"けじめ"の意味合いがあったのだろう。アルバム・チャートでは全米6位、全英4位を記録。それまでのアルバムのように1位というわけにはいかなかったものの、最終的にはプラチナ・ディスクにもなり、Zepの人気をあらためて証明する一枚となった。収録作品は全部で8曲。制作された年代順に並べるというオーソドックスな作りとなっている。チマタでのこのアルバムの評価は結構高く、「傑作」「さすがZep」という評価も多く見る。ただし、それは「未発表曲集」という前提があってのものだと思う。確かに水準は越えているし、貴重なテイクも入ってはいるが、「寄せ集め」な印象はどうしても払えないし、ツメが甘かったり覇気に欠けるトラックも入っている。8曲で33分というボリュームの足りなさもあって、身内意識のようなものがないとちょっとツライ所はあるかもしれない。ただし、本盤には決定的な名曲が入っている。ラスト8曲目に置かれた「Wearing And Tearing」がそれだ。ペイジ/プラントの作品であり、'78年11月に録音されたこの曲は、アルバム『In Through The Out Door』の未収録曲である。ハードで切れ味鋭いサウンド、パンキッシュなビートが最高にカッコいいナンバーで、後期Zepの中でもトップクラスの出来だと思う。『In Through The Out Door』に収録されなかったのは、単にアルバムのカラーに合わないという理由からだろう。"パンク、ニュー・ウェイヴなどの新勢力(※)に対するLed Zeppelinからの返答"と評されたのも納得の一曲だ。イントロの、たたみかけるようなリフからしていきなり頭に血がのぼる。これぞ"リフ職人"ジミー・ペイジの面目躍如。リズム隊のスピード感もすごい。ジョン・ボーナムのドラミングは何かに取りつかれているかのようだ。ジョン・ポール・ジョーンズのベースはクールにグルーヴィーに弾む。ロバート・プラントのヴォーカルも快調。喉をつぶさんばかりの、鬼気迫る歌いっぷりにはゾクゾクする。四つの個性が音の塊となった荒削りなグルーヴ感が圧巻だ。演奏は所々でいったんブレイクし、また揺さぶりをかけるように突っ走っていく。そのスリルたるや。「ストップ・アンド・ゴー」の見事な使い分け。ややテンションをゆるめる間奏部を経て、曲はエンディングへと昇りつめる。プラントが名残を惜しむかのようにシャウトする。"Do your dance do your dance do your dance"と。ブツリと終わってしまうようなラストも、熱い余韻を残してくれてヒジョーによろしい(笑頭から終わりまで「これぞZep!」と呼ぶべき、素晴らしい演奏だ。'90年に行われたネブワーズ・フェスティバルでは、ペイジとプラントが共演して数曲を演奏したが、その中には「Wearing And Tearing」も含まれていた。彼らがこの曲に対して自信を持っていることの表れといったら言いすぎだろうか。ともあれ、この一曲だけでもアルバム『CODA』は聴く価値があると思う。同盤が「最終楽章」の名にふさわしいアルバムかどうかは分からないが、レッド・ツェッペリンの最後を飾る曲はこれでなければならない。燃えるようなギター・サウンドの向こうからは、「まだ終わらないぜ!」と言うジミー・ペイジの声が聞こえてきそうな気もする……なんてことを思うのは自分だけであろうか。「Wearing And Tearing」を聴くにはここをクリック!※ パンク・ムーヴメントが起こった時、Zepは"オールド・ウェイヴ"の代表格として攻撃の的になった。