カテゴリ:私の猫たち
爺さん、勝手にモリーと呼んでくれるなかれ バーマンのクッキーが我が家に来たのは1986年の初夏でした。 西ベルリンを囲っていた壁がまだあった頃の事です。 純血統でも、我が家ではクッキーを普通の猫として扱いましたから、バットマンにそっくりな顔の黒猫ぺぺと一緒によく表に出ていました。 (これはクッキーとそっくりさんの他の猫の写真です。いくら何でも、こんなにすごいポートレート撮る金は無いわぃ)
ある日、東京から来た青年に、家の近所を案内することになりました。 この辺はまだ古い石畳やガス灯が残っている街の郊外でしたので、都会育ちの彼には、ものすごくノスタルジーに感じられたようでした。 それはお天気の良い午後でした。 「ドイツは丁目と番地じゃなくて、道路標識と番地で家の場所がわかるようになってるのよ。」 「おー、スゲーいい考えだな。」 青年は一足進むごとに 「おー、これ、すごいよ。 石畳だよ、こんなとこで普通に敷いてあるよ!」 また少し進むと 「 おー、これ、ガス灯だよ、初めて見たよ、おれ!」 そして立ち止まって見上げて 「おー、これ、シューって音してるよ、これ!」 またしばらく歩いてから 「 おれ、こんだけ歩いて、まだ誰にも会ってないって、初めてだよ!」 こんな事で一歩進むごとに大喜びで騒いでいる青年の横で、こっちまでオーバーに体ををゆらしてげらげらと大笑いしていると、あれれ? その色の方に目を当てると、ニ軒隣りの古い家の門の、これまた古い石柱の上に、綺麗なクッキーがスフィンクスの様に座って、その青い目でじっとこちらを見つめているのです。深く茂った大木の木陰の下に、白く輝く色がふと目に留まりました。 目がカメレオンやってました。 「おっ、クッキー。 お前ここで何してんだよ。」 喜んだ青年が声を掛けても、白いふわふわスフィンクスは動かずにじっとこちらを見つめているばかり。 私達がしばらくそこに立ち止まって、ぜんぜん反応しないクッキーに話しかけていると、その家の古いドアが開いて、中から痩せた小柄なお爺さんがひょいと出てきました。 見たことがありましたが、余り付き合いのない隣人です。 「この猫を知っているのかい?」 「はい、うちの猫ですよ。 クッキーと言います。」 「そうか、この ” モリ― ” はあんたのとこの猫か。」 モリ―とはドイツ語で”ふっくらした” と言う意味を含んだ愛称です。 お爺さんはクッキーを見て、私達を見て、それから物凄い大きなため息をついて言いました。 「 私はね、いつも庭に来るハリネズミの為にだよ、 わざわざ猫の缶詰を買って灌木の下に置いておくんだよ。 するとだよ、この猫が来てみんな食べちまうんだ。 いったい、私が猫の缶詰にどのくらい金を使ってることか。」 え?ウッソォ~、-------ちょっとそれは。 でもなんて答えればいいのか----------。 この猫は缶詰めの餌が嫌いで、カリカリしか食べないのに~。 でも、仕方ないので 「それは申し訳ありませんでした。 今度から、この猫をお宅の庭で見たら追い払ってください。」 と、無抵抗のクッキーを石柱の上から引きずりおろしました。 クッキーはすぐに砂袋に変身し、私は小脇に抱えて逃げ帰ってきました。 こいつ、ひとの家の缶詰めなら食べるのかなー。 それからしばらくは気をつけて、クッキーがそちら方面に行きそうになると、あわてて部屋の中に戻して出ないようにしていました。 そして何日か過ぎた夕焼けの美しいある日-------- 2匹の猫達がちゃんと家の中に戻っているのを確かめて、テラスのガラスドアを閉めようとしたその時、あのおじいさんの高い呼び声が 生垣の向こうからはっきりと聞こえてきたのですよ。 「モ~リ、モリ、モリ。 モ~リ、モリ、モリ。 ご飯だよ~」----------って。 時は過ぎ、←ブログだと早い! クッキーが来てから三年が経ちました。 その間にベルリンの壁が崩壊し、あの老人はその1年後に亡くなって、その家には息子夫婦が移り住んでいました。 相も変わらずクッキーはスフィンクスになる為にあの門の石柱の上に通い続け、その家の3歳の子供は、その猫をしっかりと”僕のモリ―”と呼んでいました------こっちも子供の夢は壊さずにおきました。 最初のうちは一度も喉を鳴らした事のなかったクッキーも、その頃には殆どわからないような小さな音で喉を鳴らすようになっていました。 けれど“人の手”には、まだ恐れがあるようで、なぜようとするとやはり体が縮まって硬くなってしまうのでした。 ある日、年齢不詳のミミと言う名の醜い小さな灰色のペルシャ猫が家族に加わって来ました。 この猫は貰い手がいないと、動物保護施設に入れられる事になっていたので、私達が引き取りました。 避妊手術も受けていなかったようで、ミミは近所の若い美しい黒猫との間に子猫を儲け、この家は突然大家族になりました。 猫は集団動物のはずですが、クッキーは生れてからあまりにも早く母親と兄弟から離され、飼い主にいじめられて、トラウマになってここに来て、どうやら他の仲間との付き合いは苦手なようでした。 ミミの子猫達がよちよちと歩き出して、クッキーのすぐ傍まで来れるようになると、クッキーはむくっと立ちあがって伸びをし、ゆっくりとテラスに出ると、そのまま一週間以上もの長い間、家出をしてしまいました。ようやく戻って来たと思うと、子猫達がまだいるのを確かめてはまた出て行きます。 子猫達は、ナヌと名付けた一匹を残してすべて貰われて行きましたが、その後もミミに子猫が生まれる度に、クッキーの家出は繰り返されていたのです。 さては、僕のモリーにでもなって下宿していたのかな。 子猫たちはいつも友人達が貰い手になってくれましたが、ある日あの美しい黒猫の代わりに不格好な雄猫が現れて、ミミがそわそわし出したので、ここぞとばかりに避妊手術をしてしまいました。 これで家に残った猫はクッキーを入れて4匹になりました。 そしてクッキーはもう、家出をしなくなっていました。 この記事へのコメント Melba 2013年05月22日 01:27 4匹の猫ちゃん達が揃って食事 それぞれ個性豊かそう!! 食事中の猫ちゃん達の耳の角度が同じに見えます。 どの猫ちゃんも幸せそうです。 勿論、クッキーも♪ ponko310 2013年05月22日 01:51 Melbaさん、一番乗り。 夜更かしはいけませんねぇ。 ドイツでは17時ごろの公開でしたがそちらは次の日になってますね。 猫ちゃんは4匹ともハッピーでした。 私もこの子達のお陰でハッピーでしたよ。 文句は言わないし、甘えて来るし永久的な追従者だし、手ごろな大きさだし・・・ panana 2013年05月25日 06:26 ponkoさんの家に来て、クッキーが幸せに暮らすことが出来て、本当に良かったです。 ネコは追いかけっこが好きですよね。 4匹も飼えるなんて羨ましいです。 うちは1匹なので息子がもう1匹欲しがっていますが、狭いマンションで2匹はムリ。ネコ同士の相性もありますしね。 後から来た猫を受け入れたクッキーは穏やかな性格なのですね。 長老純爺 2013年05月26日 12:12 いつもながら、一編の小説を読むような味わいのある記事ですね。楽しませてもらいました。 妻が猫好きで独身時代は飼っていたようです。 生き物はどうしても死を考えてしまうので、現在我が家では動物を飼っておりません。 ただ、年老いた男と女の二匹の人間が、毎日の餌を楽しみに飼われております。〈誰が飼っているの…?〉 日々の生活を楽しみながら、ハッピーな暮らしをしているようです。 ponko310 2013年05月29日 06:16 pananaさん コメントをありがとう。 猫同士の相性って本当にありますよね。 うちは全く運が良かったのかもしれません。 猫との追いかけっこやかくれんぼは今でも変わらずやっています。 息子さんの希望でもう1匹どうですか? 子猫からなら結構上手くいくと思うし息子も狭いアパートで2匹飼ってますよ。 ponko310 2013年05月29日 07:31 長老純爺様 奥さまも猫好きだとは益々好感を持ちます。 死を考えて動物を飼わない事は懸命ですね。 私達もクッキーの死のあと、もう決して何も飼わないと決心し、旅行をしまくりました。 けれど、また今2匹のクッキーがいます。 人間の歳だとすでに60歳程になりますか。 とても愛され可愛がられて、美味しい物を貰って幸せだと、テレパシーが届きました。 YUKARI 2013年12月10日 15:43 え~っ、ウッソ~です。 おじいさん、呼んでるじゃん。 クッキ‐ちゃん、疑われてえらい迷惑。 あっ。私も最初クッキ‐ちゃん、写真館で撮ってもらったのかしらって思いました。 ponko310 2013年12月10日 19:40 YUKARIさん そうでしょう。 爺さん、自分でクッキーを呼んで餌をやっていたのにね。 人間って何か矛盾してる事やるのですね。 2022年2月18日 金曜日 お詫び:コメントを入れる時、何度も数字の打ち直しを要求されるのですが、スパム予防の為だと思います。貴方の失敗ではないのでお許しを お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.08.31 06:33:14
コメント(0) | コメントを書く
[私の猫たち] カテゴリの最新記事
|
|