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「名曲100選」 シューベルト作曲 歌曲集「美しき水車小屋の娘」 フランツ・シューベルト(1797-1828)によって音楽史上で初めて書かれた「連編歌曲集」という、曲集全体が物語性を持っており、音楽もまとまりを持っている歌曲集のことを指して呼ばれるもので、後年シューマンが書いた歌曲集「女の愛と生涯」に受け継がれています。 夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛 山なみのあちらにも しづかな村がある 明るい日曜日の 青い空がある これは叙情詩人 立原道造の「夢みたものは・・・・」という詩の書き出しです。 25歳で早世した立原道造は、感性豊かに青春の哀歓を繊細な感覚と表情で詩を謳い上げています。 この叙情詩人とシューベルトが、私には重なって見えるときがあります。 シューベルトは31年という短い生涯に600を超える歌曲を書き残しています。 青春の喜び、楽しさ、悲しさ、哀しみ、寂しさなどを瑞々しい感性で書き残された歌曲で、そこに立原道造へのイメージが重なる所以があるのかも知れません。 1823年、シューベルト26歳のときに友人ラントハルティンガーを突然に訪問しました。 友人は不在でした。 しばらく待っていたのですが戻ってきません。 その時に友人の机に置かれていたのがミュラーという詩人の詩集でした。 その詩を読んでいるうちにすっかり魅了されてしまい、もっとじっくりと読みたい衝動に駆られて友人には無断で自宅へ持ち帰りました。 シューベルトにはこの時にすでに歌曲の旋律が流れ出していたのでしょう。 そして一気に書き上げたのがこの歌曲集「美しき水車小屋の娘」でした。 シューベルトをそれほどに魅了した詩人ミュラーは、シューベルトより3つ年上のドイツ後期ロマン派の詩人で、彼も早世でした。 シューベルトが亡くなる前年1827年に生涯を閉じています。 後の歌曲集「冬の旅」もミュラーの詩によるものです。 帰宅した友人がミュラー詩集をシューベルトが持ち帰ったと知り、返してもらおうと翌日シューベルト宅を訪れてみるとすでにこの詩集による歌曲が数曲出来上がっていた、という逸話まで残っているそうです。 物語は、水車を使って村人に製粉を行う若い職人が主人公で、これまで修行をしてきた親方のもとを離れて遍歴の旅に出たところ。 遍歴は中世以来ヨーロッパのギルド制度の中で職人が一人前になる過程の一つだったそうです。 ある親方に奉公して技術を身につけた職人が独立して自営するためには、どうしても通らねばならない道であったようです。 この歌曲集の青年主人公もそうした一人でした。 遍歴の旅に出た青年はこの水車小屋に働くようになり、そこの娘に恋をするようになります。それは若者を奮い立たせる恋でした。 しかし狩人が現れて娘に裏切られ恋に破れ、この青年は失意のまま小川に身を沈めてしまうという話です。 これを20編の歌曲に仕上げています。 「冬の旅」のような暗鬱さは全くありません。 若者が「小川」に語りかけるという独白のような形で音楽が進みます。 その「小川」に対して若者は、恋の甘い喜び、娘のこと、憧れなどを語っていきます。 「小川」も語りかける若者を励まし、元気づけます。 それらがシューベルトらしいこんこんと湧き出るかのような美しい旋律に乗って、若者の心が陰影深く、細やかに歌い上げられていきます。 「小川」のせせらぎを描写する音楽は終始16分音符によって刻まれており、その一貫した音楽的なイメージによって歌曲集全体に抒情的な統一性を与えているようです。 曲全体を大雑把に形容しますと、20曲中前半の11曲までが明るく、若者らしい恋の喜びを上昇気分で表現しており、後半は入水するまでを下降気分で書かれており、これは見事な情念の山と言えるでしょう。 演奏時間が約60分の大作歌曲集です。 愛聴盤 ヘルマン・プライ(バリトン) ピアンコーニ(ピアノ) (DENON CREST1000 COCO70937 1985年録音) 明朗な表現で若者の甘く悲しい物語を率直に歌っています。 技巧的なところがなくて淡々と自然に物語の中に聴き手を溶け込ませる演奏です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年10月30日 20時31分43秒
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