教授たちの昼食会
昨日は、2年ほど前に停年退官で大学を去られた元同僚の名誉教授ご夫妻を囲んでの昼食会があり、現職の同僚の先生方と総勢7人でレストランへ食事に行きました。休みの日まで仕事関係の人と食事? と思う方もおられるかも知れませんが、うちの科の教授陣は大学内でも羨ましがられるほど皆、仲が良いので、ホントに気楽で楽しい集まりです。 ちなみに、うちの科のチームワークの良さは、今回の「ゲスト・オブ・オナー」である名誉教授のH先生のお人柄によるところが大きいですね。我々が所属している学科は、歴史ある大学の新課程の一つなんですが、今から15年ほど前にその新課程が創設される際、H先生が今日集まった我々5人の教授陣を他大学から引き抜き、そのメンバーで新学科の運営をスタートさせた。で、もちろん新しい学科が成功するかどうかはすべて創設メンバーの頑張りに掛かってきますから、H先生に引っ張られて集まってきた我々5人のサムライたちは、「新しいことに挑戦しているんだ」という新鮮な気持ちと、「我々を選んでくれたH先生を盛り立てなければ」という気概をもって、カリキュラムの充実から卒業生の就職の世話まで、試行錯誤を繰り返しつつ頑張って取り組んできたんです。そういう経緯があるもので、うちの科は教授同士の人間関係がすごくいいんですね。それでH先生が定年退官された後も、しばしばこうした会合を開いてきたわけ。 ところが今回の会合は、少しだけ特別なところがありました。実は、我々の結束の要たるそのH先生の幼いお孫さんがご病気で、現在入院を余儀なくされているのです。それは我々にとっても無論、心配の種であり、今日の昼食会は、奥様と共にお孫さんの看病に尽くされているH先生を激励しようという意味も込められていたんですな。 昼食会の会場となったのは、名古屋郊外の「覚王山」というところにある「ウィスリー(We Three)」というフレンチ・レストラン。こじんまりとしていますが、奥の方にちょっとした会合にはぴったりの席があり、なかなか居心地のいいお店です。ちなみに今日の昼食のコースは、前菜(スモークサーモンの野菜巻)、カボチャの冷製スープ、白身魚のフリット、牛フィレ肉のステーキ温野菜添え、それにパン、デザート、コーヒーがつくという陣容。このコースに季節限定の「桃のスパークリングワイン(Café de Paris)」のボトルを1本と、車を運転する人のためのソフトドリンクとして「オレンジーナ」というイギリスの炭酸飲料も2本を追加しました。これはブラッドオレンジの果汁に炭酸を加えたものですね。とまあ、これだけ飲み食いして一人頭3,000円ですから文句はありません。料理では、特にカボチャの冷製スープと牛フィレ肉のステーキがおいしかったかな。桃のスパークリングワインは、甘口ワインの好きな私にはおいしかった。「オレンジーナ」とやらも、なかなか爽やかな味でしたね。 で、先程もいいましたように、会合の趣旨はそういうことなんですが、せっかく皆で集まったのに、いきなりお孫さんの病気のことを取り上げるというのもあまりに無粋かな、ということで、その話題には直接触れることなく、いつも通りの楽しい食事会となりました。アメリカ専門の私を除いて、他の方々はイギリスに滞在された経験のある方ばかりでしたので、先日のロンドンのテロの話題がまずひとしきり取り上げられ、それから先はつい先日の京都の祇園祭りの話から現在大学で行なわれている種々の改革の話に至るまで次々と話題は移り変わっていきます。そのうち私のブログの話題も出て、「毎日、よく書くよね!?」などと感心されるやら、呆れられるやら。 そういえばブログについて、ある先生から面白い話が出ました。彼によると、ポルトガルにフェルナンド・ペソアという詩人がいるらしいのですが、ペソア氏は自覚的な多重人格者であり、ベルナルド・ソアレスという名前でも作品を書いている。つまり一人の人間が様々な人格を装い、別人格として著作に携わっているわけですが、それは言わば、ある人が複数のブログをそれぞれ異なったハンドルネームの下で運営しているようなものではないか。いや、複数のブログを運営するのでなくとも、そもそも「ブログ」というもの自体、ある意味別人格を育てる場にもなっているわけで、そう考えると、ブログというシステムはペソアがやっているのと同じような意味で、人格的・文学的な実験の場になり得るのではないか、というのですね。 なるほどねー。そんなこと考えたこともなかったですけど、確かに私自身、このブログを通じて「釈迦楽教授」なる別人格を育てているのかも知れない。またそういう意識を持てば、そのことによってブログへの取り組みも変わってくるかも知れません。うーん、なんだか一つ、「考えるヒント」をもらったような感じです。それにしてもこういう刺激を受けられることこそ、それぞれ専門の異なる大学の先生方と付き合っていることのメリットであって、同僚との交流は欠かせません。ちなみに、このペソア=ソアレス氏は故郷であるリスボンの街の案内書みたいなものを書いていて、これには邦訳もあり、これを読むとリスボンに行きたくなること請け合いなんだそうです。『ペソアと歩くリスボン』という本ですので、興味のある方はこの日記の一番おしまいのところをご覧下さい。 さて、和やかな会も2時間ほどでそろそろお開きということになったのですが、まだ何となく話し足りないような気がして、店の前で少し立ち話をすることに。で、その時になってようやく、誰ともなく病気のお孫さんのことを先生にお尋ねしたところ、今のところまだ退院のメドがつかない状況とのこと。それを聞いて、今まで談笑していた我々の間に一瞬、シリアスな空気が流れたことは言うまでもありません。しかしそうは言っても、今我々にできることは何とか一日も早くお孫さんが良くなられることを祈ることしかないわけで、その気持ちを皆で口々に伝えつつ、H先生ご夫妻をお見送りし、我々現職組も解散となったのでした。 先生のお孫さんのことは依然として心配ですけれど、そのことを除けば、いい先輩、いい同僚に囲まれて、私は恵まれているなぁとつくづく思った一日でした。最近、ちょっと悲観主義的なことを言っている私ですが、今日は、掛け値なしに「今日も、いい日だ」と言える一日でした。 ところで、実は私はまだこの後、もう一つお楽しみがあったんですねー。その話題にも触れたいところなのですが、もう大分長くなってしまいましたので、この話題についてはまた明日にでもお話しすることにいたしましょう。ただ、上で述べた「桃のスパークリングワイン」や、謎のソフトドリンク「オレンジーナ」は楽天で扱っているようですので、先程の「ペソア本」と合わせて、以下に簡単にご紹介しておきますね。これらをクリック! ↓