チェット・ベイカーで Let's get lost!
先日、チェット・ベイカーの『チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズ』というジャズ・アルバムを買ったんですけど、なかなかいいんだ、これが。 チェット・ベイカーってのは、1950年代から活躍したジャズ・トランペッターで、50年代にはかのマイルス・デイヴィスよりも人気があったというほどの人。ま、ルックスも良いので、そのせいかも知れませんが。その風貌は、ジャズ界のジェームズ・ディーンって感じですからね。 ところでチェット・ベイカーという人の特徴の一つは、彼が歌う、ということなんです。彼はトランペットを吹くだけでなく、ヴォーカルもやるんです。 で、それが人気のもとでもあり、また不人気の理由でもあるんですな。事実、ジャズ関連の本の中で、チェット・ベイカーについて触れている部分を読むと、たいてい彼のヴォーカルのことが批判的に書かれています。たとえば『ジャズCDの名盤』(文春新書)で悠雅彦氏は「打ち明ければ昔から熱心なファンではない。ことに彼の歌は苦手だった」(189頁)と書いているし、『新ジャズの名演・名盤』(講談社現代新書)の著者・後藤雅洋氏は「彼の異様とも思える中性的ヴォーカルが・・・うまいんだかへたなんだかよくわからないが、とにかく個性的であることはまちがいない」(121頁)と述べています。他にも色々ありますが、とにかくジャズ通の間ではチェット・ベイカーのヴォーカルはあまり高く評価されていないんです。 しかし、「異様とも思える中性的ヴォーカル」だなんて言われると、私のような素人は逆に興味が出てくるわけですよ。ヴォーカルが「異様」ってどういうこと!? で、買ってみたわけですよ。で、聴いてみた、と。 ・・・いいじゃん、結構。ワタクシ、好きかも・・・。 ま、確かに「中性的」と言えば、そうかも知れません。こういう感じのくぐもった、アンニュイな感じの歌い方をする女性ヴォーカルって、結構いますからね。でまた、上手いか下手かと言われたら、答えに窮するところがある。しかし、そんなこと言ったら、松任谷(荒井)由美の歌は上手いか下手か、小野リサのボサノバは上手いか下手かを問うのと同じで、あんまり意味がないような気がするんですよねー。 要するに、雰囲気が出てるかどうか、その雰囲気が好きか嫌いかってことですよ。で、それを言ったら、私はかなり好きな部類ですね。特に8曲目の「You Don't Know What Love Is」なんて、歌詞・曲調とも泣かせてくれます。トランペットの方は、洗練されたウェスト・コースト系のクールな音色。 ちなみに50年代に絶大な人気を誇ったチェット・ベイカーは、その後は麻薬に溺れる転落人生で、60年代は地獄を彷徨っていたらしく、73年に復帰した時は、ほとんど同人物とは思えないほど面変わりをしていたそうです。そして80年代にかけて、(麻薬を買うための小遣い稼ぎなのかどうか)、ヨーロッパで盛んなレコーディング活動をしていたようですが、88年5月13日の金曜日、アムステルダムのホテルの2階からホントに転落して、58年の生涯を閉じることになったとのこと。まさに正統ジャズマンらしい一生だったようです。 ま、そういう彼のめちゃくちゃな人生のストーリーのことも含め、気に入っちゃったなあ、チェット・ベイカー。こうなった以上は、続けて彼の代表作である『チェット・ベイカー・シングス』も買っちゃうか。後期の作品、たとえば『ダイアン』なんてのもいいらしいし。あと、『シングス・アンド・プレイズ』の冒頭の曲と同名の『レッツ・ゲット・ロスト』というドキュメンタリー映画もあるらしく、こいつはチェット・ベイカーの破天荒な転落人生をそのまま映像化して一幅の絵になっているようですから、こちらの方も気になります。 ということで、このところチェットのクールなトランペットと、甘く物憂いヴォーカルに酔いしれているワタクシなのでした。チェット・ベイカー、教授のおすすめ!です。これこれ! ↓チェット・ベイカー・シングス・アンド・プレイズチェット・ベイカー・シングス