『Dear フランキー』を見る
レンタルDVDで『Dear フランキー』という映画を見ました。(ネタばれ注意) 映画の舞台はスコットランドのとある港町。そこに9歳のフランキーとその母、祖母が引っ越してくるというところから始まります。父親はどうしたかって? そう、そこが問題でして、実はフランキーの父親はDV野郎で、フランキーとその母はこの暴力オヤジから逃れ、行方をくらますために、引っ越しを繰り返しているんです。 だけど母親はそんな父親の真実を隠すため、フランキーには彼が船乗りで、世界の海を経巡っている、というふうな作り話をしているわけ。で、その作り話をフランキーに信じ込ませるために、父親からの手紙と偽って自分でフランキーに手紙を出している。で、フランキーはフランキーで、喜んで父親に返事を出す。そういう形で、父と息子ならぬ、母と息子は文通を続けているんです。 もちろん、母親としては父親のふりをしてフランキーと文通することに多少の罪悪感を抱いてはいるのですが、どうしてもやめられない。なぜなら、それがフランキーと親しく言葉を交わし、彼が今どんなことを感じ、考えているのかを知る唯一の方法だったから。小さい時父親からの暴力を受けたことが原因で、フランキーは耳が聞こえなくなり、それゆえ静かに魚の図鑑を見たり、魚の絵を描いたりすることが好きな寡黙な少年になっていたんですね。 ところが、母と息子の静かな生活に、突然、困った事態が出来します。というのは、彼らが暮らすことになったこの港町に、フランキーの父親が乗っている(ことになっている)大型船が寄港することになってしまったんですな。ついに父親に会えるのだと思って、船が着くのを不安を交えながらも心待ちにしているフランキーを前に、今までの文通はすべて嘘だったのだと白状することもためらわれる母親は、切羽詰まって、一計を案じることになる。お金で人を雇い、一日だけフランキーの父親を演じてもらおうというわけです。 で、友人のつてで紹介され、雇われた一人の男性が、フランキーの父親のふりをしてフランキーの前に現れることになる。 ここで初めて実物の父親を見たフランキーの反応がね、泣かせるんだ・・・。しばらく遠巻きにじっと見ていたかと思うと、がしっと彼に抱きついて離れなくなってしまう。その可愛さたるや。 で、一日だけという約束でフランキーはこの偽の父親と時間を過ごすんですけど、その様子がほんとにいじらしくて。喜びがフランキーの一挙手一投足から溢れ出すかのよう。 たとえばね、男がフランキーに「水切り」のコツを教え、平らな石の方が水切りをするにはいいんだよと、自ら探しだした平らな石をフランキーに渡すのですが、フランキーは父親と一日しか会えないとわかっているものだから、その石を投げることができず、それをこっそりポケットにしまうんです。そういうフランキーの行動の切ないこと、切ないこと。 で、こんな調子ですから、最初はアルバイトのつもりで父親役を演じることになった男も、次第に情にほだされ、フランキーのことが可愛くてならなくなってくるんですな。そしてまた、フランキーの母親のこともだんだん深く知るようになり、彼女に対しても惹かれていく。 しかし、状況はシンデレラみたいなもので、約束の時間がくれば男は去り、疑似家族のお芝居はおしまいということになる。たった一日二日のきらめくような幸せの時間を過ごした後、父親役の男も、なんだか別れがたいような、切ない思いを抱きながら、フランキーとその母と別れていくんですね。この別離のシーンがまたとてもいい。 そしてその後、フランキーの本当の父親、すなわちDVの男がいまや死病に取りつかれ、余命いくばくもないということが発覚。フランキーの母親は最期に一目、元夫と面会するものの、これも後味の悪いものとなってしまいます。しかし、結局この男は間もなく死に、これによってついにフランキー母子の生活を脅かす存在はいなくなるわけ。 そこでフランキーの母親は、フランキーに父親が死んだことを知らせ、これをもってフランキーとの文通も終わらせようとする。いつまでも彼をだまし続けることもできませんから。 しかし、フランキーは実はちゃんと知っていたんです。この前会った人が、本当の父親ではなかったことを。賢い子ですから、どこかの時点で、そのことに気づいていたんですな。 で、本当はどこかに生きているはずの、あの偽物の父親に、今度は息子としてではなく、友達として手紙を書き始める。それを受け取った母親は、フランキーがあの男を受け入れたことを知り、また自分自身の彼への思いも、もはや妨げるものがなくなったことを知る。 ここでハリウッド映画ですと、フランキー母子とあの偽父との再会のシーンか何かで締めくくるのでしょうが、この映画は違います。フランキーと母親が、港の桟橋か何かで仲睦まじく座っているシーンで終わるわけ。だけど、その二人のほのぼのとした幸福そうな様子から、観客は、「きっとこの二人は、いつかまたあの男と再会できるんだろうな」と想像することができる。そういう、とっても心休まるラストシーンでこの映画は幕を閉じます。 ま、そんな感じの映画です。 さて、『Dear フランキー』という映画に対する私の印象批評ですが・・・ 「84点」でーす! 合格! とにかくね、フランキーがいいんですわ。もう本当にいとしい子なんだ、これが。でまた、父親役を務める俳優もね、とてもいい。そして声高ではないものの、行き届いた演出が心憎い。なんだか見終わった後、気分のいい映画ですわ。 ということで、この映画、小品の佳作として、教授のおすすめ! です。まだご覧になっていない方は、レンタルDVD屋さんにGo!