それでいいんか、ディーン・クーンツ
先日来、暇を見てちょこちょこ読んでいたディーン・クーンツの『Forever Odd』というサスペンス(?)を読了しました。で、最後まで読んで、ちょっとビックリ・・・。 ま、さすがはアメリカのベストセラー作家の手になる作品ですから、スラスラ読ませることは読ませるわけ。文章自体もまあ、月並みかも知れないけど、なるほどと思わせるような感じで、例えば "Holding my breath, I lay listening to the silence, and felt the silence listening to me." 「息を顰め、ベッドに横たわったままじっと暗闇に耳を澄ますと、暗闇もまた息を顰めて、僕の様子を伺っているのが感じられた」 といった感じの文がバンバン出てくる。要するに、調子がいいわけですよ。 で、内容はと言いますと(オチまで言いますから、要注意!)、オッド・トーマス君という主人公がおりまして、彼は未練があってこの世に留まっている死者の霊魂が見える、という特殊な能力の持ち主なんですな。で、ある時、彼は彼の親友のダニーの義父という人の霊の訪れを受けるわけ。しかもその様子から、彼が何者かに惨殺されたことが分る。 で、知人の警部に連絡しつつ、自分も現場に行ってみると、案の定、彼は殺されていたばかりか、親友のダニーまで誘拐されていることを発見するんですな。 ところで、その誘拐されたダニーなんですが、彼は全身の骨が非常に脆いという特殊な病気にかかっておりまして、ちょっとしたことでもすぐ骨折してしまうんです。そんな彼が何者かに誘拐されたとなると、彼の身にひどいことが降りかかるであろうことは目に見えている。親友の危機に、オッドは動揺します。 と、そんなオッドのもとに見知らぬ女からの電話が掛かってくる。どうやらこの殺人・誘拐の首謀者らしく、ダニーを助けたくば、一人で追ってこいというチャレンジをしてくるわけ。 実はオッドには、霊魂を見る能力だけでなく、自分と深い関わりのある人物の居場所が分るという能力もありまして、この謎の女は、ダニーを誘拐することによって、オッドの能力を試しているらしいんですな。かくして、親友・ダニーを奪還すべく、オッドは誘拐者たちの後を一人追うんです。そして、とある古いカジノ、地震と火事による被害により今は廃墟となっているカジノに立てこもっている謎の女の一味を見つけ、彼らに囚われているダニーを助けるべく、オッドの孤軍奮闘が始まる、と。 ところで、ここでオッソロシイのが、敵の首謀者たる謎の女・ダチューラなんですな。 この女、実は心霊マニアでありまして、心霊に関することになると異常なまでの興味・関心を示し、心霊スポットへ行っちゃあエクスタシーに到達するという変な奴なわけ。ただ、それほどのマニアにして、彼女はまだ霊魂を実際に見たことがない。それで霊魂を目に見える形で呼び出せるほどの霊能者を探していたわけですよ。で、あるきっかけでダニーと知り合い、彼からオッドのことを聞いたダチューラは、オッドを利用すれば霊魂が見られるようになるのではないかと考え、ダニーを使って彼をおびき寄せたようとした、と。 何せ、ダチューラは狂気の人ですから、自分の目的を果たすためなら何でもやりかねません。しかも彼女は、自分の狂気オーラで虜にした手下が二人いて、この屈強の男たちもダチューラの命令なら何でも従うという状態にある。さて、この状況下で、しかも病気のために身体が極端に虚弱なダニーを、オッドは助けられるのか?! とまあ、そんな話です。 で、この辺までの筋書きからすると、面白くなくはないんです。しかも、ダチューラという女の狂気の描き方なんてのはなかなか良くて、マニアックな人間の恐ろしさというものがよく描けている。ですから、途中三分の二くらいまで読み進んだところまでは、「ひゃー、この先どうなるの、どうなるの!」と思いながら楽しく読めるんです。 が・・・。 この先がね、悪い意味で驚くような展開を示すんだな~。(再度、ネタバレ注意!) だって、一度は何とか逃れたものの、再びオッドがダチューラに捕まり、もうダメだ! 絶対絶命! となった瞬間、どうなると思います? たまたまそこにピューマ(アメリカ・ライオン)が通りかかって、ダチューラが食われてしまう、ってんですよ! ありえねえ・・・。半端ないくらい、ありえねえ・・・。 いや~、ビックリした。ビックリするでしょ? いくらなんでも、脈絡なく登場したピューマに食われるって・・・。 実はワタクシ、この辺まで読み進めながら、もっと複雑な展開をするのだとばかり思っていたんです。 例えば、実はこの事件の本当の首謀者は、ダチューラではなく、ダニーだった、とか・・・。つまり、ダニー自身が自分の誘拐を演出しつつ、ダチューラを使って義父を殺し、親友であるはずだったオッドまで殺す計画を立てていた、なーんてね。そこに身体の弱いダニーの、オッドに対する積年の嫉妬とか、そういうものが絡んでいた・・・。 ところが実際には、そんな複雑な人間感情なんてありもせず、たまたま通りかかったピューマがすべての事件を解決してしまうってんですから、もうガックリよ・・・。 っつーことで、初めて読んだディーン・クーンツの作品ですが、あまりの唐突なオチに言葉を失ったワタクシなのでございます。読後、一応この作品のレビューを見ましたけど、あまり好意的なのはありませんでしたね。そりゃ、そうでしょうな。 かくして、クーンツの『Forever Odd』、教授のおすすめ! というレベルには到達しなかったのでありまーす。残念でした~! ちなみにこの作品の前の作品、つまりオッド・トーマスが初めて登場する『オッド・トーマスの霊感』とかいう作品には邦訳もあって、それなりに評判がいいようですから、興味のある方はそちらを読まれるといいのではないでしょうか。こちらは、オッドと彼のガールフレンドたるストーミーとの悲恋の物語(『Forever Odd』にもチラホラと言及される)が扱われるようですから、「泣ける恋愛サスペンス」として面白いのかもしれません。これこれ! ↓オッド・トーマスの霊感