バーセルミーの短編が現実に
もうとっくに亡くなりましたが、アメリカにドナルド・バーセルミー(Donald Barthelme)という作家がおりまして、その人が「黄金のシャワー」("Shower of Gold")という短編を書いている。これがまた、傑作としか言いようのない素晴らしい短編なんですが、その中にパイロットのエピソードが出てきましてね。 そのパイロット氏、飛行中にフライト・アテンダントを膝に乗っけているところを写真に撮ってふざけていたら、それが表沙汰になりまして。結局、それがもとで長年勤務した航空会社を首になる、という話なんですが。そのあたりのくだりを原文でどうぞ!:The airline pilot, Wallace E. Rice. Was led to reveal that he had been caught, on a flight from Omaha to Miami, with a stewardess sitting on his lap and wearing his captain's cap, that the flight engineer had taken a Polaroid picture, and that he had been given involuntary retirement after nineteen years of faithful service. "It was perfectly safe," Wallace E. Rice said, "you don't understand, the automatic pilot can fly that plane better than I can." He further confessed to a lifelong and intolerable itch after stewardesses which had much to do, he said, with the way their jackets fell just on top of their hits, and his own jacket with the three gold stripes on the sleeve darkened with sweat until it was black. (Donald Barthelme, "Shower of Gold" 『Overnight to Many Distant Cities』所収) はっはっは! 日本のスカイマークのパイロット某氏も、「自動操縦の方が、俺より操縦が上手いんだから・・・」とぼやいたかどうか。いずれにせよ、バーセルミーの想像力が作り上げた可笑しなエピソードが、現代日本で実現したことが面白くて、ついひと言。 それにしても、今、バーセルミーってどのくらいの知名度があるんだろう。私が学生の頃はそれなりにマニアックな人気がありましたけどね。でもって、マニア好みの作品を翻訳することで有名なサンリオ文庫からも、バーセルミーの作品は二、三、翻訳されていたような。私も1冊くらいは持っていますが。 そう、それでまたこのサンリオ文庫が突然つぶれたもので、サンリオ文庫の古書価が跳ね上がった、なんてこともありましたなあ。一時はサンリオ文庫版のバーセルミーなんて、3000円くらいで取り引きされていたんじゃないかしら。今はもうさすがにそこまでの人気はなくて、多分、1000円も出せば買えると思いますが。バーセルミー作品としては『口に出せない習慣、奇妙な行為』なんて結構おススメなんですが。 もっとも、今時の学生さんにはバーセルミーの作品なんて難しいのかしら。面白いと思う前に、内容が分らなかったりして。大体、「黄金のシャワー」という短編のタイトルを聞いて、それが何を意味しているのかすら、分らないだろうな・・・。(ギリシャ神話ですよ、ギリシャ神話!)