萩原健一著『ショーケン』を読む
秋らしくなってきましたなあ。今日の肌寒さ。夜は今シーズン初めて、鍋物にしてしまいました。さすがに食べ始めたら暑くなってきましたけど、久々の鍋は旨かった。 それはともかく、スゴイ本を読みましたよ。ショーケンこと萩原健一さんの書かれた『ショーケン』(講談社)。本書が2008年に出版された時、ちょっと話題になって、読もうかなと思ったまま放っておいたのが愚かしいと思えるほど、まあ面白い、面白い。一読、巻措く能わざるという奴で、一気に読み切ってしまいました。 ショーケンさんは2004年ごろに交通事故を起こして逮捕され、その後恐喝未遂で有罪になった後、しばらく仕事を干されていたのだと思いますが、おそらくこれを機に己の半生を振り返ってみる機会にしようと思われたのかどうか、とにかく本書を書かれた。何しろ(少なくとも他人から見れば)波乱万丈の生涯ですから、その中で経験したことも実に豊富で、これが面白くないわけがない。 戦後の混乱を背景として、複雑な出生事情の下に生を受けた萩原さんは、不良グループ同士の抗争の中、仲裁役のような感じでするりと生き抜き、みゆき族を経てグループサウンズ「テンプターズ」のヴォーカルとなり、10代にして一世を風靡。ところが、ライバルの沢田研二が歌に打ち込んでキャリアを積んでいくのとは異なり、テンプターズ時代の仕事に納得していなかったショーケンは、この仕事を辞めたくて仕方がなかった、というのですな。 で、テンプターズ解散後、映画監督になる夢を抱きつつ、ある偶然から役者の道を歩み始める。そして『太陽にほえろ!』のマカロニ役でブレーク。 しかし、テレビ・ドラマの金字塔であるこの番組も、内側から見るとかなりいい加減なところがあったと言います。まずボス役の石原裕次郎が乗り気でない。一番遅くスタジオ入りして、すぐに帰ってしまう。そこで、ボスがそこに居る体で撮影をし、後からボスの部分を撮影して編集で画面を作る、なんてことも頻繁に行われていたんですと。 で、そんな裕次郎にショーケンが噛みつくと、面白い奴だと言うことで、逆に気に入られ、今度は酒を飲むのに連れ回され、すっかりアルコール漬けにされてしまう。もちろん裕次郎の凄いところもちゃんと認めながら、このままではダメになるということで、ショーケン自らプロデューサーに頼みこんで、ようやくマカロニの殉職となる。 そして次に来るのが『傷だらけの天使』。この時はショーケン自らアイディアを出して、現場でスタッフ全員がドラマを作り上げていくという点で、『太陽にほえろ!』の時よりもよほど面白かったらしい。アキラ役の設定にしても、ショーケンの提言で当時ロンドンで流行っていた「テディ・ボーイズ」風のスタイルを取り入れることにし、この役に水谷豊を採用したのもショーケンのアイディアだったそうで。それ以前は火野正平とか湯原正幸がアキラ役の候補だったというのですから、えーっ、そうだったの!? ってな感じです。 その後『前略おふくろ様』に出たショーケンは、ここで母親役の田中絹代さんと出会うわけですが、ここで彼はその田中絹代から、役者をとことんまで追い詰める溝口健二監督の恐ろしさを聞かされる。このエピソードも面白いのですが、その後ショーケンは『影武者』で、黒澤明監督の恐ろしさを自ら体験することになるんですな。これもまたスゴイ話で、黒沢明という人はこういう人だったか、というのがよく分かる。 そんな風にして一応順風満帆な役者人生を歩んできたショーケンですが、その後、常用していた大麻の件で逮捕、人生二度目のどん底を味わうことになると。 だけど、この経験もなかなか面白いところもあって、留置場の中で出会ったその筋の大親分さんの話とか、すごくいい。 とはいえ、やはりこの時の逮捕は厳しい経験で、何と初公判の日に、母親が死去するという不運にも見舞われるんですな。そして執行猶予つきの有罪判決を受けてからは一切麻薬とは手を切り、また自らを浄化するために四国へお遍路さんに出るという思い切った行動に出たりもする。 で、実際にショーケンさんは四国八十八札所を全部徒歩で歩き通すんですな。ここでの経験を書いた部分もすごくいい。お遍路さんをするような人というのは、やはり人生の中で色々悩みを抱えた人なのであって、そういう人たちが、道すがら出会ったことを縁として互いの境遇を語り合う。ショーケンも、そういう人たちとの出会いの中で、色々と成長していく。 そして芸能界復帰後、また芝居に打ち込んだショーケンは、『元禄繚乱』で綱吉役を獲得するのですが、綱吉の複雑なキャラクターを自分のモノとするために猛勉強するわけ。体へのコンプレックス、マザコン、そういったものが次第に狂気に発展していく。その綱吉になり切る。その過程で、ショーケンは綱吉のキャラクターとシェイクスピアが生み出した悪役の決定版、リチャード三世の共通点に気づき、そこからさらに綱吉を理解していくと。 そして次の『利家とまつ』の明智光秀を演じた時には、今度は光秀にテロリスト、ウサマ・ビンラディンの姿を重ねて理解する、という、実にユニークかつ的確な解釈で、光秀を演じ切るんですな。この辺の役作りの話も実に興味深い。 しかし、そこでまた第三の地獄が待っていたんですな。最初に述べた交通事故と、恐喝未遂での有罪判決で、再び芸能界追放。 だけど57歳となったショーケンさんの周りでは、若い時からの友人や先輩たちがどんどん死んでいく。そういう人たちを送りながら、こういう厳しい境遇も、医者から末期癌だと伝えられるよりマシだと思うんですな。生きていれば、また頑張れる。カムバックできる。自分はまだまだ生きて、仕事がしたい。だから、今は雌伏の時を耐えようと。 そんなショーケンさんの今の心境から、この本は生まれたんですな。 もちろん、上に書いたことはほんの一部で、ショーケンさんがこれまでにかかわってきた様々な人たちが本書には登場します。でまた、そういう人たちを描く時のショーケンさんの描写が実にいいわけ。ああ、あの人はそういうところのある人なのか、というのがよく分かる。そして、ショーケンさんは、人のことを書く時に悪意を持って書かないわけ。そこがすごく気持ちいい。 もちろん、恋多き人ですから、彼が付き合ったり、結婚したりした女性も数多く登場しますが、少なくとも彼が書くところによれば、ショーケンさんは彼女たちを愛し、リスペクトし、かつ一度も不義理はしていない。最終的に別れることになったとしても、それは別な女性と付き合い始めたからではない、というところがいい。 本当に、本当に、本当に面白い本です。 それにしても、こんなに色々なことを経験している人には、かなわないなあ、と思いますね。ワタクシも自分の人生を振り返って、あまりにも平凡・平坦なもので、ショーケンのような人とはとても太刀打ちできない、という気がします。人生そのものが、ドラマよ。大河ドラマ。 ということで、ショーケンの『ショーケン』、教授の熱烈おすすめ!です。これ読まない奴は、馬鹿だよ、ほんと。これこれ! ↓【送料無料】ショーケン価格:1,680円(税込、送料別) この表紙の絵も、ショーケン自ら描いたものです。才能ある人ってのは、違うねえ・・・。