所有格すら分からない平成の大学生と明治の中学生
ちょっとここに英文を掲載してみましょう。 Christianity will never be accepted in Japan, except by vulgar or weakminded people, --I trust. If the Buddhist achools would teach modern science, no Christian missionaries could proselytize the people. Out of 43,000,000 Japanese, the Christians themselves only claim to have about 60,000; and the probable truth is there are not more than 1 in 10 of these Christians in real belief.(中略) In Europe, a wife does not wish to live with her husband's parents. Once married, the son abandons his parents, and helps them only in extreme cases. There is not in Europe, any of what is called filial piety in Japan, -- except what the hearts of naturally good men make them do. この英文、日本人が書いたものなんですけどね。結構、様になっているでしょう? ちなみに、これ、1890年頃に、島根県の尋常中学校において、ラフカディオ・ハーンの教え子の中学4年生が書いた英文でございます。『ラフカディオ・ハーンの英作文教育』(弦書房)という本からランダムに書き写した文なのですが、とにかく、明治時代、日本の田舎の中学生(と言っても今の高校生くらいか?)ですら、この程度の英文を書いていたんですな。 しかもただ英文らしきものを書いたのではなく、これ、自分の考えを述べているんですよね。それも欧米の文化に対してかなり痛烈に批判的に。キリスト教みたいなダメな宗教は、日本ではお呼びでない、ただキリスト教は「科学」を武器にしているから、若干攻め込んでこれただけだ、としていて、キリスト教と科学の結びつきまではっきり認識している。 でまた、筆跡がまたすごくて、そのまんまペンマンシップの教科書になりそうなほど、見事な筆記体で書いてある。まったく、脱帽であります。 これが、明治時代の中学生の英語力だよ~! さて、何でこんなものを引き合いに出したかと申しますと、最近、大学で英語の授業をやっていて、ショッキングな出来事があったから。 最近の国立4大生は、英単語の所有格の作り方も分からないんだよね・・・。 読んでたテキストの中に「Most of their heads are turned to camera's left.」という英文が出てきたので、まあ、「彼らの大半は、カメラから見て(=向かって)左側の方を向いていた」というような意味になるのでしょうが、一応、それを大学2年生に訳させてみたわけ。すると「彼らの頭の大部分は、曲がってやってきて、カメラたちの左側に来た。」と訳すんだよね・・・。 まず「頭が曲がってやってくる」というのからして、ろくろっ首のようで怖いですけど、「カメラたち」というのは何? で、当該の学生に「カメラたち、ってのは、どういうこと?」と聞いてみた。すると、その学生、「だって先生、camera に s が付いているから・・・」ですと。 はっはあ! こいつら、「アポストロフィー」が所有格を表す、ということも知らないんだ!! 平成の大学生は、「cameras」と「camera's」の違いも分からないというのに、明治時代の中学生は、堂々、英語で自分の見解を見事な英文、見事な書体で主張していたと。 このレベルの差は、一体何? こういうのを日々、間近で見ているワタクシには、日本が近年ますます「国際化」しているだとか、英語の需要が日々高まっているなんてこと、にわかに信じられないの、分かるでしょ? 国際化しているというなら、明治時代の方がよほど国際化していたし、それに応じて、子どもたちの英語力もありましたよ。 もちろん、明治時代に中学校に進学するのが、その時点で相当なエリートであることは分かります。しかし、それにしてもですね、英語の教材だってそんなに巷に出回っていないだろうし、その辺に外国人が居るわけでもないだろうし、CDのような学習機器だってあるわけないのに、明治時代の英語教育がここまで成功していたということは、驚くべきでございます。 一体、どうやったら、中学4年生にここまで英語力を付けられるのか。英語教育学を専門にする人たちは、その辺、過去から学んだ方がいいんじゃないの? とにかく、「camera's」を「カメラたち」と訳す大学生の出現に、ワタクシはほとんど失禁しそうなほど、脱力しているのでございます。