角川映画やらルパンやら
先日、1977年前後のアメリカ映画のヒット作の話を書きましたが、当時、日本映画はどうなっていたのか。今日はその辺のお話を。 1970年代って、まず大映がつぶれ、日活はロマンポルノ路線に転向、東宝はそれでも『日本沈没』とか『八甲田山』、あるいは三浦友和&百恵の「ゴールデンコンビ映画」で気を吐くものの、東宝は寅さん頼み、東映は実録やくざ路線頼みと、日本映画界は総じて暗黒時代なんですけれども、その中で異様に目立っていたのが角川映画。いわゆる「読んでから見るか、見てから読むか」の時代でございます。 丁度私が中学に上がった頃、1976年ですかね、まず『犬神家の一族』の映画版がどーんと出た。原作の方も横溝正史の作品が角川文庫でずらり揃って、空前の横溝ブーム。映画版では石坂浩二が金田一役でしたが、翌年から始まったテレビ版横溝シリーズの古谷一行バージョンの金田一も良かった。 そして、『人間の証明』ね。森村誠一。ドゥー・ユー・リメンバー? ついで『野生の証明』、ここで薬師丸ひろ子登場。これまた私とほぼ同世代の少女が映画界に彗星のように現れたことで、強く印象に残っております。それから松田優作の『蘇える金狼』。そして『戦国自衛隊』。この時期、横溝正史とか、森村誠一とか、大藪春彦とか、半村良とか、角川映画がらみでどーんと売れたミステリー/ハードボイルド系の一郡の作家というのがおりましたねえ。 もっとも、ほれ、多くの人がわーーーっともてはやすものに対して、極端に「アンチ」な態度を取る私、こういう系のものは一切見ておりません。現象としては角川映画の隆盛ぶりを目撃したけれども、私自身はその中に入って行かなかったという。 だから、中学校時代、友人たちが競って角川文庫の横溝正史ものを読み漁っているなあと思いつつ、私はまったく、一冊も読んでないの。今思うと、自分に対して「そういうところだよ、お前のダメなとこ」とダメ出ししたいところですけど、過ぎちゃったことは仕方がない。でも、ま、とにかく、当時角川映画の勢いがすごかった、というのは、はっきり覚えております。 それから、やはり私の中学時代のことだと思うのですけれども、もう一つ覚えているのは、この頃、二つのアニメ作品が我々の世代で人気があったということ。 一つはね、『ルパン三世』。もちろん、第1シリーズのこと。 もともとこのアニメは1971年に放送されていたのですが、最初に放送された時はほとんど話題にもならなかった。ところが、何度か再放送されているうちに人気が出てきたんですな。何を隠そう、かくいう私もその何度目かの再放送ですっかり魅了されてしまった口。私の「今まで見た中で素晴らしかったアニメ」ランキングでも、『妖怪人間ベム』『サスケ』『アルプスの少女ハイジ』などと並んで、常に1位か2位を争う作品でございます。 しかし、その人気にあやかってか、1977年から第2シリーズが始まるでしょ。赤いジャケットを着たルパンが登場する奴。これには本当にガッカリさせられたものでございます。あのルパンなんだから面白いはず、と思って、期待マックスで見るのだけど、その都度、ガッカリという。第1シリーズとは雲泥の差でした。第1シリーズは大人の鑑賞にも耐えるけれど、第2シリーズ以後は、レベルの低い子ども騙しですな。 それからもう一つ、ルパンと同じ様に再放送によってじわじわと人気が上昇し、最終的には国民的アニメになってしまったものとして、この時期、『宇宙戦艦ヤマト』がありました。 それ以前のアニメといえば、敵と味方の二項対立で、敵は100%悪い、というのが常識だったと思うのですけど、『宇宙戦艦ヤマト』の場合、二項対立は二項対立ではあるものの、敵であるはずのガミラス星人にも地球を乗っ取る大義名分というのがあって、向うの連中だって可哀想なんだよな、というところがある。しかも、敵には敵の名将というのがいて、尊敬できるところもある。そういう、単純な勧善懲悪でないところがすごく新鮮でしたねえ。 ま、その後、宮崎駿が『風の谷のナウシカ』で三項対立アニメってのを編み出し、さらに『もののけ姫』になると四項対立くらいになってどんどん対立項が増え、それに比例してストーリーがとめどもなく難解になって行くのですけれども。 それはさておき、出版社が母体の角川映画にしろ、再放送がきっかけのアニメ人気にしろ、今までとはちょっと異なる経緯をたどって一連の作品が話題になるという、そんなことが1970年代後半にはありましたね。