ブルボン小林著『ぐっとくる題名』を読む
ブルボン小林さんの『ぐっとくる題名』という本を読了しましたので、心覚えを。 ブルボン小林さんって、要するに長嶋有さんのことですな。芥川賞作家の。 で、この本は、まさに小説やら映画やら音楽の題名の中で秀逸なもの、ぐっとくるものについて、それのどこが秀逸なのかを考察した本。題名というのは、小説や映画や音楽の中身を一言で体現しなければならないので、誰しもつける時には悩むものですが、どういう条件が揃うと印象的なものになるか、それを長嶋さんが分析しているわけ。 まず、その狙い目がいいよね! 例えば題名の中の「助詞」の扱いは結構重要で、つげ義春の『無能の人』も、「の」という助詞が効いているので、これが『無能な人』だったら全然ダメ、とか。 あと『天才えりちゃん金魚を食べた』とか、『部屋とYシャツと私』みたいな、二つ(とか三つ)のモノの組合せの妙とか。 『D坂の殺人事件』におけるアルファベットの重要性とかね。これがもし『団子坂の殺人事件』だったら、平凡過ぎてどうしようもないだろうと。 『ツァラトストラかく語りき』みたいな古語の使い方も効果的で、これが『ツァラトストラはこう言った』では、感じが出ない。 あと「いいかけて、やめる」ことで効果をあげるタイトルもある。『光ってみえるもの、あれは』とか、『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』とかね。後者は、女性作家なのに、「あってだな」という男言葉を使っているところもポイント。長嶋有さんご自身の『猛スピードで母は』なんかもこの手法ですな。 あと、萩尾望都の『11人いる!』は、11人の関係性が分らないので、ミステリアスでいいと。まあ、「11人いる!」って言っているんだから、ほんとは10人でいいのに、一人余計だ! ってことなんだろうけど、これが『侵入者は誰だ?』というタイトルだったら、全然面白くない。やっぱり『11人いる!』という驚きの発言そのものをタイトルにしてこそ、というところがあるわけですな。 とまあ、全編なかなか説得力があります。なるほどなあって感じ。 しかも、この文庫は増補版とある通り、ブルボンさんご自身が題名をつける作業に携わった時の経験談が付け加えられていて、その部分も面白いです。 私自身も本を出しますから、自分の本にどういうタイトルを付けるかで悩むことはあります。そして、失敗談もある。タイトルに2つの候補があって、悩んだ末に一方に決めたのだけど、ひょっとしてもう一方の方にした方が良かったのかなあ、と思うこともある。 それだけに、今度、自分の本の題名をつける時に、この本で学んだことを応用しようかなと。 そうした実際的な意味でも、この本、結構参考になりました。教授のおすすめ、です。ぐっとくる題名増補版 [ ブルボン小林 ]価格:648円(税込、送料無料) (2017/2/28時点)