リチャード・ワイズマン著『運のいい人、悪い人』を読む
このところ卒論指導が忙しくて、自分の勉強が全然できなかったんですけど、1週間に1冊も自分の仕事関係の本を読まなかったというのでは、あまりに情けないと思い、今日は合間を縫って急いで1冊、本を読み切りました。 読んだのは、リチャード・ワイズマンの『運のいい人、悪い人』という本。 ワイズマンは基本、心理学者ですけど、マジックの名手でもあるという妙な経歴の人。だけど、マジシャンであることが、結構、彼の研究には役立っているみたい。まあ、マジックというのは、もともと人の心理を逆手にとって幻惑する技術みたいなもんですからね。 実際、ワイズマンが「運」の良し悪し、ということを研究テーマにしたのも、マジックがらみなんです。 ある時、彼はとある講演でマジックを披露したんですな。観客(その時はたまたま女性)を一人檀上にあげ、その人から20ドル札を借りる。で、それを20枚ある新品の封筒の一つに入れ、その封筒をシャッフルするわけ。 で、シャッフルした後、その観客に20枚の封筒のうち、1枚を選ばせ、残りの19枚は燃やしてしまう。そして、観客が自分で選んだ封筒の中に、その人の20ドル札が入っていたらマジック成功、というわけ。 果してそのマジックは見事成功し、観客はやんやの喝采! だけど、不思議なことに、当の観客の女性だけはきわめて冷静だったというのですな。 で、不思議に思ったワイズマンがそのことを尋ねると、その女性曰く「私はいつも運がいいので、こうなるとわかっていました」と。つまり、ワイズマンのマジックがどうのというのではなく、自分はいつも運がいいので、自分自身が出資した20ドルを回収できることを最初から信じていた。だから、マジックが成功しても少しも驚かなかったと。 で、この女性の反応にビックリしたワイズマンは、その後色々調べてみて、この世には「自分は運がいい」と信じている人がおり、その一方、「自分は運が悪い」と信じている人もいることに気が付くわけ。 以来、ワイズマンは、「なぜそうなんだろう?」「本当に運のいい人と悪い人はいるのだろうか?」ということに興味を持ち、それを科学的に実証したいと考えた。また、もし本当にそうだとすれば、その理由は何なのか、見極めようとしたんです。 で、例えば、「運がいい人は、悪い人に比べて知能が優れているのではないか?」とか、「何か特殊な予知能力があるのではないか?」とか、様々な仮説を立てて実験してみるのですが、知能の点でも、予知能力の点でも、運のいい人が必ずしも運の悪い人に比べて優れているわけではない、ということが判明する。 じゃあ、一体、運の良し悪しというのは何で決まるのか? その辺りのことをこの本は縷々説明しているのですが・・・答え、知りたい? どうしようかな~、とか言ってみたりして。 実はですね、簡単に言えば・・・「心の持ちよう」だったと。 なーんだ・・・というガッカリした声が聞こえたのは、私の幻聴? でも、科学的に言うと、そういうことなんだって。 で、じゃあ、運のいい人はどういう「心の持ちよう」をしているかと言いますと、ポイントが4つある。ポイント1:運のいい人は、積極的にチャンスを探し回っている。 宝くじに当たろうと思ったら、宝くじを沢山買わないとダメ、ってことですな。同様に、ステキな配偶者を見つけたかったら、家に閉じこもっていないで、パーティーに出てみる。レジに並んだ時に、前の人に話しかけてみる。明るい顔をして、オープンな態度で人と接する。そういう中から、運のいい人は運命を左右するような出会いにぶち当たっていると。ポイント2:運のいい人は、直観を信じる。 直観は、無意識の声。人間の判断に、無意識が加担することは実はすごく多いわけ。特に危険を察知した場合、無意識が危険を察知し、「そっち行っちゃダメよ」という声なき声を発してくれる。この声に従うことが、要するに直観に従うということなわけですな。だから、直観を信じて行動すると、危険を避けられたり、幸運を掴んだりすることができる。逆に、運が悪い人というのは、直観が「ダメ」と言っているのにそれを無視して、結局、災難に遭ってしまうと。ダメンズ・ウォーカーなんていうのは、大抵このケースね。ポイント3:運のいい人は、幸運を期待している。 自分はラッキーだ、自分には常にいいことが起こると信じている人は、実際にそうなると。 これは別にオカルトめいた話ではなく、いい事が起こると信じている人は、どんな苦境の時でも、「最後の最後には自分に都合のいいようなオチがつくはず」と信じているので、それを期待して最後まで頑張りぬくわけね。だから、その頑張りが功を奏して、実際、いい結果が出ることが多いと。逆に運の悪い人は、「どうせ自分には運の悪いことしか起こらない」と思っているので、苦境になると「やっぱりな」とあきらめ、落ち込むことしかしない。この差は大きいと。ポイント4:運のいい人は、不運を幸運に変えることができる。 銀行に行ったら、たまたま銀行強盗に遭遇し、流れ弾に当たって腕を銃で撃たれた。そんな場合、運の悪い人は「普通だったら、そんな目に遭うはずがない」という基準からこの事件を見るので、「なんて自分は運が悪いんだ」と思う。ところが運のいい人は「流れ弾が頭に当ってたら死んでいた。腕に怪我しただけで済んだなんて、なんて自分はラッキーなんだ」と思うわけ。つまり、最悪の事態を基準にして現実を見るので、不幸が幸福に見えると。同じように、仮に就職試験に落ちた場合、「もっといい会社に就職できるチャンスが広がった」と考えて頑張るので、実際にそうなるケースが多いわけ。そうすると、「ある会社の就職試験に落ちたおかげで、人生が開けた!」ということになる。不運が幸運になってしまうんですな。 とまあ、以上4つの心持ちさえ維持できれば、あなたも今日からついてついてつきまくる! ラッキーマンになれること間違いなし! ・・・だそうです。 どう? 納得した? 私は・・・まあ、納得しますね。 つまり、いわゆる引き寄せ系の自己啓発思想、つまり「念じれば、それは実現する」というのを、科学的に解釈すれば、上のようなことになるのではないかと。 要は、まず自分自身を変えろ、ということですな。そうすればあなたを取り巻く世界は変るよと。この点で、自己啓発思想と心理学者ワイズマンの結論は一致してしまう。そこがね、この本を「自己啓発本」として認定できる根拠なんですけれども。 というわけで、上に示した私のまとめさえ読んでしまえば、あえてこの本を読むまでもないのですが、色々の興味深いエピソードなんかも書いてありますから、もし興味のある方がありましたら、一読の価値はあるのではないかと。ご紹介だけしておきましょう。【中古】 運のいい人、悪い人 運を鍛える四つの法則 /リチャードワイズマン(著者),矢羽野薫(訳者) 【中古】afb