『海外ドラマはたった350語の単語でできている』を読む
Cozy さんという方が書いた『海外ドラマはたった350語の単語でできている』という本を読みましたので、ちょっと心覚えをつけておきましょう。 その前に何で私がこの本を読んだかと申しますと、小学校で英語の授業が必修化された影響で、うちの大学でも「小学校英語」という科目を立てることになったんですな。で、それは本来、英語教育を専門にしている先生方がやればいいので、私のような文学畑の人間は関係ない・・・はずなんですけれど、何せこの科目は必修なので、受講生の数が半端ない。教育系の先生だけではとても面倒見切れないし、非常勤講師を雇うお金もないので、我々文学系の人間も担当してくれと、そう言われているわけ。だから、来年度から私も「小学校英語」という授業を担当しなきゃいかんわけね。 そんなこと言ったって、何やればいいのよ? 何やればいいのかすら分からない人間が、その授業を担当せざるを得ない。文科省が「小学校英語の授業科目を立てろ、ただし金は出さん」というから、こういう事態になるのでありまして、悪いのは誰か、すぐわかりますよね? まあ、しかし、やらなきゃならんものはやらなきゃならんので、私もそろそろ、その準備に入っているわけ。今回この本を読んだのも、何か「小学校英語」教授法のヒントでもないかなと思ったから。 だけど、実際読んでみると、これがね、なかなか良い本だったのよ。 まず「350語」の設定の仕方がすごく理論的。 筆者はアメリカで日常生活をする上で必要な語数を選定するに当たって、とりあえず人気テレビドラマ『SATC』の全94話に出てくる英単語を全部カウントしたと。そしたら全部で12,088種類の英単語が使われていることが分かったんですと(全セリフの単語数は294,586個だけど、同じ単語が複数回使われるので、種類としては12,088個となる)。 だけど、その12,088個の英単語のうち、5,188個は1回しか出てこなかった。また1,974個の単語は2回しか使われなかった。逆に、10回以上登場する頻出単語の数は1,896個だった。で、この1,896個の単語で、92%の会話がなされていたと。 さらに分析すると、100回以上登場する単語が335個、その335個のうち1,000回以上登場する単語が49個あった。で、これらのデータを総合すると、人気テレビドラマのセリフの約80%は、たった350個の英単語から出来上がっていると。ならば、やみくもに英単語を覚えるのではなく、まずはこの350個から覚えるべきではないか? (全94話の中で1回とか2回しか出てこない単語は、どっちにしろ珍しい or 難しい単語なんだから、もし知らなかったら、会話の中で「それ、どーゆー意味?」って相手に聞けばいい。聞き返すというのも立派なコミュニケーションなんだから、というのが Cozyさんの考えなわけ。) これが Cozy さんの第1の提案ですな。(本書20-23ページにその350語のリストあり) 説得力ある~! しかも、『SATC』以外のドラマも分析して、ほぼ同等の結果を得たというのだから、なおさら説得力あります。 さらにさらに。これらドラマで使われる英語を見ると、主観でものを言うケース、つまり「私は~だと思う」とか、そういうことのやりとりが大半であると。そりゃそうですよね、二人の人間の会話なんだから。そういう意味で、しゃべる英語を学ぶには、客観言説のニュースなどを素材にするのではなく、ドラマを素材にした方がいいだろうと。 なるほど。 で、その後、Cozy さんの話は、具体的な勉強法の話になっていくのですけれども、もちろん、英会話で必要なのは、「発話する能力」と「聞き取る能力」の両方が必要である。 じゃあ、二つの能力の内、どちらがより重要であるかというと、後者だというのですな。 つまり、「そこそこスピーキングは出来るけれども、相手の言っていることはよく聞き取れない」というケースと、「スピーキングはブロークンだけど、相手の言っていることは大体分かる」というケース、どちらが実際の場で役に立つかというと、圧倒的に後者の方だと。 超納得。 では、まず「リスニング」能力を高める勉強をすべきか、というと、そうではないと Cozy さんは言います。先に勉強するのは「発話」能力の方だと。 そうなの? 何故なら、二つを比べれば、「発話能力」を高める方が簡単だから。まず簡単な方からやりましょ、と。 なるほど。 で、じゃあ、どうやって発話能力を高めればいいかというと、第1段階としては、中学レベルのごく簡単な英語で発話をすることを練習する。その場合、1秒か2秒で言えるかどうか、というところが重要。 で、それが出来るようになったら、第2段階として、Q&A方式で、尋ねられたことに対して自分の立場から自分のこととして英語で答える練習をする。ポイントは、「自分のことを英語で話す」というところ。主観でものを言えと。 そして第3段階として、今度は「主観+事実」の組合せを複文で言えるようにしろと。例えば「He runs in the park.」という文が事実であるとすれば、それに主観を足して「I'm glad he runs in the park.」とか、「I can't believe he runs in the park!」とか、「I don't know why he runs in the park.」という風に。 で、じゃあ「主観」って何? と言いますと、「感情を示す」ことか、「認識を示す」ことか、「意見を示す」か、このどれかでしかない。 で、最初の「感情」について言えば、要するに「ポジティヴな視点」か、「ネガティヴな視点」か、「想定外」か、その3つのどれかであると。先ほどの3つの例が、それぞれの視点を表しているわけですな。 もっとも、上の例では「He runs in the park.」という事実が基になっておりますが、「はっきりしない事実」について主観を述べないといけないこともある。その場合、視点は2つあって「ポジティヴ」か「ネガティブ」のどちらか。前者であれば「I hope」を頭につければいいし、後者であれば「What if」をつければいい。 同様に、「認識」について言えば、「I know」という言葉に代表されるように、「知っているか、知らないか」がまず重要。「He goes to cooking school.」を基にするならば、「I know he goes to cooking school.」か、もしくは「I don't know if he goes to cooking school.」のどちらかであると。 最後の「意見」について言えば、一番重要なのは「I think」という表現を頭につけること。 で、こんな調子で「感情」「認識」「意見」を混ぜていけば、立派に会話って成立するよと。 なるほど。 そして、これら「発話」の勉強にもう一つ、「フレーズ暗記」を加えれば、もう完璧。それは、例えば食べ物屋さんで「For here, or to go?」みたいな言い回しが何を意味するのか、それにどう対応すればいいのかを丸暗記する。他に「Go ahead.」とか「Here you go.」とか、そういう相手を気遣う日常的なフレーズ。これはもう暗記するに限る。 ここまでが「スピーキング練習法」編ね。 で、ここから今度はより難しい「リスニング」力の養成法指南が来るのですが、Cozy さん曰く、やっぱり最良の教材はテレビドラマであると。それもサスペンスとか刑事ものではなく、シットコム系がベスト(Cozy さんおすすめのドラマが最後に列挙してある)。 で、そういう教材を選んだら、まず英語字幕をしっかり読む。音声より、まず何を言っているのか、読み取る練習をする。(もちろん、英語字幕が読めないようなら、その読解力からやらないとダメ。)なぜリスニングの勉強なのにまず字幕の読み取りから入るのかと言いますと、「何を言っているか判らない英語を、聞き取ることはできない」というシンプルな理由だそうで。そりゃ、そうだよね。 で、字幕読み取りが十分に出来るようになったら、今度は「シャドウイング」ね。これ、面倒臭いけど、Cozy さんの個人的経験から言っても、やっぱりやらないとダメだって。 で、「シャドウイング」が出来るようになったら、今度は「ディクテーション」をやる。これはシャドウイングよりさらに面倒臭いけど、やっぱりこれをやらないとダメだって。 ま、以上が Cozy さん流のリスニング上達法というわけ。(もちろん本の中ではもっと詳しく練習法が記してある。)で、先のスピーキング上達法と合わせれば、相当なところまで行くだろうと。 うーむ。全体的に相当説得力あるね。少なくとも、レベルごとに明確な指示があるし、その指示の理由もよく考えられている。私としては、これ読んで、いずれ担当しなければならない「小学校英語」の授業の参考になりました。 っていうか、これ、英語を勉強したいと思っている人全般にとって大いに参考になるんじゃないかなあ。 うちの大学にも「英語教育」の専門家ってのが何人もいるんだけれど、そしてそれらの先生方が何を研究しているのかは知らないけれど、Cozy さんほどの説得力のあることを、その人たちの口から聞いたことないなあ、などと言ってみたりして。 ということで、英語の勉強法として、この本、沢山いいこと書いてあります。教授のおすすめ! と言っておきましょう。海外ドラマはたった350の単語でできている [ Cozy ]