『あの日、「ライ麦畑」に出会った』を読む
ライ麦畑についての原稿を書く上で、何か参考になることはないかと、『あの日、「ライ麦畑」に出会った』という本を読んでみました。 色々な人が・・・っていうか、大半が女性作家さんですが、とにかく色々な人がサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』とどういう形で出会い、どういう風に読み、どういう感想を得たか、といった、この本との関わりを綴ったエッセイを集めたものなんですが。 で、ざっと読んで驚いたのですが、ここで筆を執っている大半の方々に共通した『ライ麦畑』との出合い方ってのがあって、それは「恋人/ボーイフレンド/ガールフレンドが読んでいたから」というもの。中学生くらいの時に、初めて異性の部屋に入ったら、その書棚にその本があった、的な。 で、「へえ、こんな本、読むんだ」的にちょっと驚いたりした揚句、とりあえず借りてみて、ちょっと読んではみたけど、あんまり面白くなかった、的な。 だけど、その後、大人になってから再読して、ちょっと分かる気がした、的な。でも、分かるのがちょっと遅すぎた、的な。 お前ら、そこへ直れっ!! って、ちょっと思う、個人的には。 で、思うんだけど、『ライ麦畑』って、ひょっとして女性には理解しがたいところがあるのではないかと。そういうこと言うといかんのかも知れないけれど。 だけど、この本にエッセイを提供している人達って、名のある作家さんばっかりですよ。なのに、このレベルの感想か、っていう印象は否めないな。 それはね、村上春樹さんと柴田元幸さんがこの本をめぐって対談されている『サリンジャー戦記』という本と比べるとよく分かる。いい歳したおっさん二人が『ライ麦畑』を熱く語りあっているその内容と比べると、こちらの本は如何にも軽い。まあ、軽いエッセイと『サリンジャー戦記』とでは、本としての狙いが違うから、単純な比較は出来ないのかもしれないけれども。 ただ、この本を読んでいて一つだけ、私にピンと来たのは、冒頭の角田光代さんのエッセイ。 角田さんのエッセイの冒頭の一節がすごいよ。以下、引用します: 十五歳で出会ってからずっと、ホールデン・コールフィールドは、私にとってパンク音楽みたいなものだった。正確に言えば『ライ麦畑でつかまえて』という小説は、なのだが、そんな区別は意味がない。小説『ライ麦畑でつかまえて』はホールデン・コールフィールドそのものだし、その小説がくるまれていた白水Uブックスのあの青とベージュのブックカバーも、もうホールデン・コールフィールドそのものなのだ、私にとっては。(11頁) ・・・ううむ、すごいな。さすが角田光代だ。ブックカバーをホールデンの表象として捉えるとは・・・。これは別にからかっているのではなく、そこまで入れ込んでこそ、この本を読む資格ありと、私自身も思っているものでね。 ここだけは、要チェックだな。 ということで、まあ、全体としてはあまりおすすめできる本ではなかったかなと思いますが、それはそれとして、人はこうして『ライ麦畑』に出会うんだ、ということと、『ライ麦畑』に対する女性読者の標準的な感想がどういうものかということは理解したので、個人的には読んだ甲斐はありました。【中古】 あの日、「ライ麦畑」に出会った /角田光代(著者),加藤千恵(著者),久美沙織(著者),桜井亜美(著者),下川香苗(著者) 【中古】afb