スティーブン・ワッツ著『デール・カーネギー』(上・下)を読む
スティーブン・ワッツという人の書いた『デール・カーネギー』(上・下)(原題:Self-Help Messiah: Dale Carnegie and Success in Modern America, 2013)という本を読了したので、心覚えを付けておきましょう。 これね、『人を動かす』『道は開ける』の二著で20世紀半ばのアメリカの自己啓発本市場に君臨したデール・カーネギーの伝記なんですけど、すっごく面白いよ。めちゃくちゃ面白い。 先日、「論文、書き上げちゃった」とか自慢げに言っておりましたが、その論文にはデール・カーネギーについて触れた部分があって、そこはこの本を読む前に他の資料を使って書いちゃったのだけど、この本を読んだおかげで大分あちこち修正が必要であることが判明。良かった、実際にこの論文が世に出る前にこの本読んでおいて! っていうか、アレだね。論文っていうのは、ひょっとして詳細な資料を読む前に書く方がいいのかもね。ある程度あやふやな情報を元に、自分の言いたいこと中心に論文の骨格を作ってしまってから、こまかく正確な情報を読むと、確かに最初に作った骨格を適宜修正する必要には迫られるものの、詳細な資料を先に読んだ場合に比べて、何処をどう直せばいいかすぐ分かる。 逆に、最初に詳細な資料をたーくさん読んでしまってから論文を書こうとすると、あまりにも多種多様な情報に引き回されてしまって、その中からどれを取捨選択して自分の言いたいことを言えばいいのか分からなくなる可能性があるからね。 ま、とにかく、この本ですよ。 例えばカーネギーが、自己啓発本ライターになる前、一時期俳優になる夢を持っていて、そのための演劇学校に通っていたことは他の資料で知っていたんですけど、その演劇学校が、実は名門中の名門だったということは知らなかった。カーネギーがかなり本格的に俳優の道を目指していたことが、こういう細かい事実から分かるわけよ。 あ、それから第1次世界大戦後、カーネギーがヨーロッパで暮していた時期があり、その頃、作家を目指して小説を書いていた、なんてことも、この伝記を読んで初めて知りました。 その意味、分かる? つまりね、カーネギーは、ある意味、「ロスト・ジェネレーション」に属していたってことですよ。ヘミングウェイやフィッツジェラルドより10歳くらい年上ではあるけれど、もし彼にそっち方面の才能がもうちょいあったならば、我々は彼を自己啓発本の著者としてではなく、ロス・ジェネの作家としてカウントしていたかも知れないっていうね。 あと、彼のかなり奔放な女性関係のこととか、本書を読んで初めて知りました。カーネギーの母親というのは、キリスト教的な意味でかなり厳格な人で、カーネギーが演劇の道に入ろうとした時も相当怒ったようですけど、結局そういうことが逆に作用したのか、彼はそういうキリスト教倫理にはかなり反抗的で、夫のある女性と長年付き合って子供まで作っていたりするのよ。不倫、不倫。 だけど、じゃあ、許しがたい男なのかというとそうではなく、逆にすごく律儀に愛人や愛人の子供、それどころか、愛人の夫にまで尽くしていたりする。そういう面白いところがある人なのよ。 で、『人を動かす』が売れてからは、金回りも良くなって、相当人生を楽しんだみたいですが、それでいて教育ということにかけてはまったく手を抜かず、自分の作った自己啓発学校を最後までちゃんと面倒見た。根っからの教育者であったんですなあ。 で、晩年は愛人の他に奥さんも出来、さらに63歳にして娘を授かるという幸福にも恵まれるのですが、そのすぐ後にアルツハイマー病にかかり、67歳という若さで亡くなると。なかなか波乱万丈な人生でございます。 で、本書はそういうカーネギーの人生を辿りつつ、彼が成し遂げた仕事についてもきっちり考察・評価をしているのですが、その辺については今書いている論文の参考にする予定。 とにかく、カーネギーに興味のある私にしたら、相当楽しく読了することが出来た本だったのでした。【バーゲン本】デール・カーネギー 上 [ スティーブン・ワッツ ]