ポール・ピアソール著『ハワイアン・リラックス 生きる喜びの処方箋』を読む
ポール・ピアソールという人の書いた『ハワイアン・リラックス 生きる喜びの処方箋(レシピ)』(原題:The Pleasure Prescription: to Love, to Work, to Play -- Life in the Balance, 1996)という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。 仕事に追われている時に、こんなもん読んでいる暇はあるのかっ?! という気がしなくもないんですけど、いや、むしろそういう時だからこそリラックスしなきゃ、常夏のハワイ方式で! っていうね、そういう気がしたもんで、つい。 ポール・ピアソールっていう人は、どうもハワイ・マウイ島出身の人で、ただ教育は西洋式に受けたらしく、専門はPNI(精神神経免疫学)だというのですが、結局、西洋医学を学んだ上でハワイ(というかオセアニア)の古代の知恵をかじったら、そこに学ぶべきものが沢山あると気付き、そっち方面のことを勉強してみました、っていう感じの人らしい。だから、ハワイ人だけれども、ダイレクトにオセアニアの知恵を語っているのではなく、一旦、西洋文明を通過してから、そっちにUターンしたんですな。だから、本人も「自分が本当にオセアニアのことが分かっているかどうか、ちょい自信ない」的なことをほのめかしている。 でもね、この本の読者ってのは、まあ基本、西洋的な勉強をしてきた人が大多数なんだろうから、その意味では、ピアソール式の「一旦西洋文明を通過した目で見たオセアニアの知恵」というのは、逆に分かり易いのかもね。日本人が英語をリスニングするのだって、ネイティヴの発音より、第二言語として英語をしゃべっている人の発音の方が聞き取り易いからね。 さて、本書の内容ですが、ハワイ/オセアニアの知恵を体現する「アホヌイ(辛抱強さ)」「ロカヒ(まとまりを持つ事)」「オルオル(快活さ)」「ハアハア(謙譲)」「アカハイ(優しさ)」といった概念を説明しつつ、そういうものを持って生活すると、人生のクオリティが上がるよと、まあ、そういうことを縷々述べているんですな。 でまあ、それぞれの概念については、日本語訳が示す通りのことで、そういう徳を持てば、そりゃ、いい人生になりますわな(ただ、そういう徳を身につけるのが骨なんじゃない・・・)という感じ。当たり前のことですな。 だけど、本書全体を通じたポイントとして、ピアソールが3つの思考法を比較しながら提示しているところはちょっと面白いかなと。 3つの思考法というのは、要するに「西洋式」「東洋式」、そして第3の道としての「オセアニア式」。 例えば西洋では行動が重視されると。自信を持って堂々と他を圧する態度で事を運ぶのが重視され、自尊心は何を所有し、何を管理しているかによって計られると。 一方、東洋では、自分自身の理解を深めることを重視する。 しかし、オセアニア人は自分という殻をなくし、人や世界のすべてのものに親しく接することを重視すると。 あるいは身体観について言うと、西洋では精神と肉体はまったくの別物であって、肉体なんてものは、いわば機械であると。 一方、東洋では、肉体は精神の一時的な乗り物であって、時として超越しなければならないものであると。 しかし、オセアニア人は、肉体は精神から独立しているわけでもないし、精神の延長でもない。一個の精神と肉体は、他の精神と肉体、そして大地とすべて一つになっている存在であると。 ・・・とまあ、西洋と東洋をダシにして、オセアニアの知恵を分かり易く説明する。それがピアソールのやり方なわけね。 で、上の二例からも薄々想像できると思いますが、オセアニア人の世界観ってのは、結局、世界のものはすべてつながっていて、自分と他の区別はない、というもの(らしい)んです。つまり、「自他の区別なく世界はひとーつ!」っていうところから、オセアニアの知恵は発しているわけですよ。 だから、出世するとか、人より秀でるとか、そんなことには価値を見出していない。人と調和し、大地と調和して生きる。そこにこそ喜びがあるんだと。畑を耕すんだって、それはいわば大地と一つになって愛を交換するような行為なわけね。だから労働であっても辛さなんかない。深く愛した分だけ、大地も恵みを分けてくれるんだから、もう最高じゃん、っていう。 魚釣るんだって、まず釣り針を一生懸命作る。別に役に立てばいいんだから、適当に作ればいいようなもんですが、やっぱり魚だって、美しい針に釣られたいと思うじゃん? だから、出来るだけ美的に作る。無我夢中になって作る。で、魚ってのは、そういうステキな釣り人に釣られるのが仕事なんだから、そんな釣り人が海に出たら、そりゃもう大豊漁ですよ。そしたら、仕事に感謝し、海に感謝し、魚に感謝すればいい。 対人関係もそうね。自分と他人の区別なんかないんだから、他人への親切は自分への親切みたいなもんだ。そうやって、愛を与えれば、他人からも愛が返ってくる。 ま、そういう感じ。 あー、ハワイに行きたくなってきた。アローハ! ま、今述べたのは、あまりにも大雑把なまとめですけど、要はそういうことよ。 ちなみにピアソールは、「自己啓発思想」に批判的で、例えばスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』なんか、結構、あからさまに馬鹿にしてますけど、それは何故かというと、自己啓発思想は西洋的なモノの考え方そのものであって、自分さえ出世できればいい、自分さえ金持ちになれればいい、自分さえ幸福になれればいいという思想だから。西洋文明の、いわば悪い見本みたいなものとして、ピアソールは自己啓発思想を捉えているわけね。 だから、そういうんじゃなくて、自他の境のない共存的・調和的なものを目指そうよ、オセアニア人に倣って、というね。そういう方向性を本書で打ち出したと。 ま、私に言わせれば、ピアソールさんよ、自己啓発思想をなめんなよと。お前の言っていることなんざ、もうとっくに自己啓発思想の中で言われてんぞと。 そんなことをチラッと言いたくなるんですけど、まあいいの。自己啓発思想のことで喧嘩したって仕方ないから。いいよ、オセアニア人の知恵。それがいいと思うんだったら、いいんじゃないの? あ、後もう一つ、本書の中で「ホオポノポノ」についても解説があるんだけど、「ホオポノポノ」ってのは、結局、家族内にトラブルが生じた時に、この儀式に則ってとことんまで家族構成員の間で話し合いをし、きっちり片をつけて、その後は一切そのことでうらみつらみを抱かない、という、その話し合いのことを言うのね。例の「I Love you, I'm sorry, Please forgive me, Thank you.」の4文をつぶやき続けることを言うのではないのだそうで。その辺、自分でもちょっと誤解があったので、それを正せたのは良かったです。 あと、これも内輪の連絡なんだけど、本書には例によってラルフ・ウォルドー・エマソンの言葉が何カ所か引用されております。「その人が一日中考えていること、それが人生の中身だ」という極めつけの一文もしっかり引用されております。エマソンの引用の無い自己啓発本はない、という私の持論は、ここでも証明されたというね。 とまあ、そんな感じの本なんですけど、まあまあですね。そこまで感動する本じゃないですけど、ハワイ風の自己啓発本として、そういうのに興味のある方にはどうぞ、と言っておきましょうかね。【中古】 ハワイアン・リラックス 生きる喜びの処方箋 / ポール ピアソール / 河出書房新社 [単行本]【メール便送料無料】【あす楽対応】