ホセ・シルヴァ著『潜在脳力開発法』を読む
ホセ・シルヴァの書いた『潜在脳力開発法』(原題:The Jose Silva Mind Control Method, 1977)という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。 その前に著者のホセ・シルヴァですが、この人は1914年にテキサス州ラレードで生まれ、1999年に没したメキシコ系アメリカ人ですな。貧しい生まれで、本人はほとんど公教育を受けたことがなく、兄や姉から字を習ったというような人。 しかし、頭は良かったらしく、知り合いの床屋さんの代わりにラジオ修理の通信教育を受けて、その床屋のために資格をとってやったりし、またその時学んだラジオ修理のノウハウを活用して自分でラジオ修理工場を起業してそこそこ儲けたりしていたらしい。戦争中も、軍の通信隊に所属したとのこと。また戦後はテレビの普及によって、彼の修理の店も繁盛したらしい。 で、そのころのアメリカで催眠術とかESPとか、そういうのが世間で話題になっていたこともあり、シルヴァもまたそれに興味を持ち、催眠状態で人間の知能はその能力を高めることができるのか、といったことを自学で研究し始めるんですな。 で、ここがまたラジオ・テレビ修理とのからみで面白いところなんですが、シルヴァは、抵抗(インピーダンス)の少ない回路ほど、電気エネルギーをよく通すことを知っていたと。で、そこからの類推で、一見、矛盾するように思えるけれども、脳波の活動が低い時ほど、実はその効率が上がるのではないかと考えたわけ。 で、一般に人が起きている時の脳波というのはベータ波なんですが、これが睡眠の直前や直後のような、脳の活動が低い時は、アルファ波が出ている。さらに眠ってしまうと、脳の活動はさらに落ちて、セータ波やデルタ波が出るようになる。 で、シルヴァは、この睡眠直前や直後レベル、すなわちアルファ波が出るくらいの状況を、催眠術の応用によって本人の意思により人為的に作り出し(アルファ波の状態に入ることをシルヴァは「自分のレベルに入る」とか「マインドに入る」「アルファに入る」という言い方をする)、ここで脳を活動させることによって、起きている時の状態では考えられないような、奇跡的な効果を引き出すことができることを発見するわけ。 で、最初、シルヴァはこれを自分のための実験としてやっていたわけで、その最初の実験材料は彼の子供たちだった。自分の子供を催眠によってレベルに入らせ、それによって学校での成績アップが図れるかどうかを実験したんですな。そしたら、実際に彼の子供たちの成績は格段にアップしたと。 それどころか、彼の娘は、シルヴァが出す質問を予期した上で的確にその質問に答えることさえしてみせた。つまり、レベルに入ることで、近未来まで予測するようになったわけです。 で、これは超能力だってんで、シルヴァは喜び勇んで、当時、ESP研究の第一人者として知られていたデューク大学のJ・B・ライン博士に手紙を書いて、娘のことを報告したんですが、ラインはそっけなく、そんなの偶然かもしれないし、科学的な実証とは言えない、的な返事をよこした。 で、ラインのこの対応に若干がっかりしたものの、シルヴァはその後も独自に研究を続け、1960年代から確立した訓練法として、商業的にこの「シルヴァ・マインド・コントロール」を打ち出し、これがやがて世間の認知を受けるようになって、全米はもとより海外にまで広まったと。 じゃあ、その商業的に広まった訓練法というのはどういうのかというと、4日間、トータル40時間(30時間の座学と10時間の実習)のセミナーで、誰もがマインド・コントロールを身につけられますよと、そういう非常にプラクティカルなシステムなのね。アメリカらしいよね! で、本書『潜在能力開発法』は、そういうセミナーに参加できない人にも、このシルヴァの開発した福音の恩恵を受けられるように、書物の形でセミナーを再現したものでございます。だから、4日間で終了するセミナーほど短期間にはいかないけれども、この本の通りにやれば、数週間から半年くらいのうちにはセミナー受講者と同じ能力を手に入れられますよと。 というわけで、本書には順を追ってその訓練法が書かれているわけですが、やっぱり基本はいかにしてレベル(=マインド)に入るかってことですわな。 で、これまた驚くのですが、これがまた実にプラクティカルなのね。 はい、じゃあ実際にやってみましょう。まず静かな場所を選んで座り、全身をパーツ毎にリラックスさせていきます。 で、十分に全身リラックス出来たら目を閉じまして、閉じたまま目ん玉は20度ほど上に上げる。そしてその状態で、100から1まで、2秒ごとに逆に数えていきます。「100・・・99・・・98・・・97・・・」といった調子。 で、「1」まで数え終える頃には、あなたは瞑想状態に入り、脳はアルファ波出しまくり! これね、実は私も実際にやってみたのですが、ビックリするほど効果あるよ。 ポイントが二つあって、まず目ん玉の位置ね。実際やってみると分かるのですけど、目をつぶったまま目玉を上方20度に上げるでしょ。そうすると、かーなーりープレッシャーがあります。この状態を維持するのは結構大変よ。一生懸命やらないと。 で、そこから100から1まで数えていくのですが、1から100まで数えるのとは違って、ひとつずつ下げていくのって、これまた結構、難しいです。だから、これもかなり集中を必要とする。 つまりね、目の上方固定と数のカウントダウンという二つの作業を同時にこなそうとすると、ヒトは自動的に集中せざるを得ない。しかもそれを200秒かけてやるわけですから、その集中は相当なもの。だから1まで数え終わる頃には、確かに心の深いところまで潜ったな、という感覚があるのよ。これ、実際にやってみれば分かると思いますが。 で、シルヴァに言わせると、この状態が、東洋で言うところの「瞑想」だと。そしてこの状態こそ、シルヴァのいう「高度な英知(Higher Intelligence)」とコンタクトをとるための準備なんですな。 つまりシルヴァは、東洋の神秘的な瞑想を、具体的な方法論を示すことによって万人に開放した、ということができる。漠然と「瞑想しろ」って言われても、どうすればいいかわからないですけど、「こういう風にしろ」と具体的な指示を出されれば、誰でもできますからね。 ちなみに、アルファ波の状態から普段の、つまりベータ波の状態に戻るのにもカウント法を用います。これは1・2・3・4・5と普通に数えながら戻るのね。 で、最初は100をカウントするのですが、訓練を続けることによりカウント数を下げていって、しまいには10カウントほどするだけでレベルに入ることができるようになる。このくらいになったら、10カウントの代わりに、親指と人差し指と中指の三指でモノをつまむような形に組むだけで、瞬間的にレベルには入れるようになると。 さて、これでアルファ波の状態(瞑想状態)に自在に入れるようになったらですね、次に「メンタル・スクリーン」を扱う練習をします。 要するに、瞑想状態の中で、架空のスクリーンを作り出すんですな。で、最初はこのスクリーンに自分の熟知するものの絵を描きます。例えばリンゴならリンゴをスクリーンに映し出し、前後左右からこのリンゴを観察し、それがあたかも本物のリンゴとして感じられるまでにする。 このようにメンタル・スクリーンに画像を描くことに上達したら、次は応用です。 例えば、メンタル・スクリーンを使えば、記憶力の増大が簡単にできる。例えば、クルマのキーを失くしてしまった場合、キーを失くす前の行動から順にそのスクリーンに映し出すんですな。すると脳の奥にしまい込まれていた記憶がスクリーンに映し出され、そのキーをひょいっと置いた自分の行動を、映画を見るように見ることができるので、なーんだ、あそこに置いたのか、というのが分かって、無事、カギを取り戻すことができると。もちろん、これはいくらでも応用が効くので、例えば自分が読んでいた教科書をスクリーンに映し出せば、学校の試験なんかもバッチリ! しかし、メンタル・スクリーンにはさらに広い使い道があります。 例えばタバコを止めたい場合。まずメンタル・スクリーンにこれまで自分が吸ったタバコの吸い殻の山を映し出す。そしたら、その映像をiPad をスワイプするように、ひょいっと右側に寄せてしまう。次に、タバコのヤニに汚れた自分の肺の映像を映し出し、それも右に寄せる。次に、もしタバコを止めなかったらこれから自分が吸うであろうタバコの山を映し出し、それも右に寄せる。 つまり、嫌な記憶や見たくない映像を映し出した後、右へ寄せるのね。ちなみに、なんで「右に寄せる」かというと、瞑想状態の中で時間は左から右へ流れるんですと。だから、スクリーン上の映像を右へ寄せるのは、それを過去のものにしてしまう意味があるわけね。 で、そうやってタバコの害をすべて過去のものにした後、今度はタバコを止めた自分、その分健康になった自分の姿を左端のスクリーンに映し出す。つまり、自分が望む未来を映し出すわけね。場合によっては、この映像には花マルを付けたっていい。そしてそこで瞑想を終える。 するとね、その瞬間からもうタバコを吸う気が失せ、一発でタバコと手を切ることができると。もちろんこれは一例であって、同じ方法で肥満を脱することもできるわけ。 あるいは、営業成績を上げたい人、発明をしようとしている人、研究をしている人など、瞑想の中で営業成績の上がった状態、発明を成し遂げた状態、研究がうまくいった状態などをスクリーンに映し出すことで、実際、それを実現するようなヒントやチャンスに見舞われるようになるんですと。直観を通じて、高度な英知がその方法を教えてくれるわけですな。宝くじの当たり番号などを教えてくれる場合もあるのだとか(実際、シルヴァ自身、宝くじを当てたことがあるとのこと)。 さらに、この方法を応用し、瞑想状態の中で見ず知らずの人の身体をスキャンすると、その人がどういう病気に苦しんでいるかとか、その人の既往症なんかも見えるので、医学的治療に使うこともできるのだとか。 ところで、このように万能に見えるマインド・コントロールですが、一つだけできないことがある。それは、瞑想状態の中で他人を害するようなことを思い描いても、それは決して実現しないということでございます。 瞑想中に思い描くことを実現させるためには、それを強く「願望」し、それが既に実現したことを「確信」し、かつそれを本気で「予期」することが必要なのですが、レベルの世界において「邪悪なこと」というのは発想することすらできないので、事実上、不可能なんですと。だから、「あいつを陥れてやろう」なんていう願いは、ナンセンスなんですな。 ・・・と、この辺まで来ると、「ん? これって要するに、引き寄せの法則じゃん」と分かるのですが、まあ、そういうことですね。ホセ・シルヴァのマインド・コントロールというのは、結局、引き寄せの法則です。引き寄せの法則では、「視覚化」というのが重要なのですが、それをシルヴァは「メンタル・スクリーンに映し出せ」という言い方で表現しているわけ。 実際、シルヴァ自身、自分がマインド・コントロールの方法を確立していく中で、最も影響を受けたのは、エミール・クーエだと明言しています。あの、「Day by day, in every way, I'm getting better and better.」という呪文を唱えることで、あらゆる病気は治せると主張したフランスの精神治療家ですな。クーエは1920年代にアメリカで大評判になりますが、シルヴァは「最近、クーエは馬鹿にされているけど、そんなことはない」と言っていますから、1960年代のアメリカでは、クーエの精神治療法は既に嘲笑の対象になっていたことが分かります。でも、シルヴァはその方法論を復活させたと。 ちなみにクーエの方法論は、自己催眠(autosuggestion)に分類されますが、シルヴァはクーエの主張が正しいことの証明として、オクラホマ州に住む麻酔医ジーン・メイブリー夫人の例を出しております。麻酔によってアルファ波よりももっと深度の深い瞑想状態(セータ波もしくはデルタ波)にある患者に、「これから手術するけど、なるべく出血を抑えてね」と頼むと、そうでない場合と比べて、比較にならないほど出血が少なくて済むと。 あと、シルヴァもまた、多くの引き寄せ系自己啓発思想家と同じく、思考とモノは、どちらもエネルギーである(E=mc2)という考え方をします。だから、思考によってモノに影響を与えることは理論上可能であると。 ただ、通常の引き寄せ系自己啓発思想家と異なるのは、シルヴァの神に対する考え方ね。 普通、引き寄せ系自己啓発思想家は、この世の万物はすべて一つのモノからなり、その一つのモノをしばしば「神」と同一視するのですが、シルヴァはそうじゃない。そこはシルヴァの現実的なところで、彼は神様が自分に考える力、行動する力を与えてくれたのだから、普段はそれを使って自力で頑張ると。 だけど、自力で解決できない場合、マインド・コントロールを使って「高度の英知」に助力を頼むと。 しかし、自分の生き死にがかかってくるような重大な問題に関しては、「神様」に祈ると。 まあ、彼は単純ながらそういう階層を設定していて、ケース・バイ・ケースでことに対処するわけ。 で、私が思うに、ホセ・シルヴァのいいところはここです。この素朴さ。 彼が開発したレベルに到達するための各種方法論にしても、ホセは「理由はわからないけど、色々試してみたら、この方法が一番いい」というところで決めているのね。基本は、自分自身の実感なの。だから、失敗したことは失敗したことで、ちゃんとそのことを言っている。 例えば、未来を自分の望むように変えられるなら、株で大儲けすることもできるはず、と思って、色々実験したそうなのですが、実際にやってみると、被験者がレベルに入った状態で抱く楽観的な見方と、株式市場の動向が必ずしも一致せず、結局株で損をしてしまったことがあって、「この方法は、株には応用できない」ということをちゃんと言っている。その辺の正直さというか、実体験でモノを言っているな、というところが、なんともいいわけ。 逆に言えば、失敗談も公開しているのだから、成功談として公開していることは多分本当なんだろうな、という風にも言えるわけでね。 そうそう、それからシルヴァによれば、レベルを体験した人の多くは食生活が変わって、菜食主義になる人も多い、と言いながら、「だけど、自分自身は今でもステーキが好きだ」とか言っていますからね。つまり、彼の言うことにはウソがないわけよ。 ということで、素朴な素朴な小太りのメキシカン、ホセ・シルヴァの自己啓発本、私は好意的に受け取っております。教授のおすすめ! と言っておきましょう。これこれ! ↓【中古】潜在脳力開発法 シルバ・マインド・コントロ-ル法 /シルバ・マインド・コントロ-ル・センタ-/シルヴァ・ホセ (単行本) ちなみに、先のカウントダウン法は、夜寝る時にも役立ちます。私は普段、寝付くのが非常に遅くて、二時間も三時間も輾転反側してしまうことが多いのですが、ここ数日、シルヴァのカウントダウン法で瞑想状態に入り、そのまま寝ることで、快眠を体験しております。