「ロケットマン」は何の歌か?
遠隔授業でアメリカのロックの歴史を教えているのですが、そのついでに有名な曲の歌詞(英語)を読むことで、多少は英語の勉強もしようという試みをしております。 ということで、これはと思う曲の歌詞を学生と一緒に読むのですけど、やっぱり普通の論述文と違って曲の歌詞というのは、俗語も多く、また曖昧な書き方をしているところもあって、結構難しい。で、歌詞自体が難しいこともありますが、その歌詞が何を意味しているのかを解釈するのも難しい時がある。 で、参考にしようと思ってネットを調べ、その歌詞を和訳している人のサイトを見たりもするのですが、これがまた語訳だらけでまったく参考にならないというね。 それを言ったら、アレだよね。昔、洋楽のレコードやCDを買ったときについてくるライナーの後ろの訳詞を見ると、いい加減な訳ばっかりで、まさに役に立たないということがよくあったなあ。 その状況は今もまったく変わらないということですかね。 で、最近気になったのがエルトン・ジョンの「ロケットマン」の歌詞。エルトン・ジョンの半生を映画化した、その映画のタイトルにもなっているので、曲自体は知っている人も多いと思うのですが。 で、その歌詞は以下の通り:"Rocket man"She packed my bags last night pre-flightZero hour nine A.M.And I'm gonna be high as a kite by thenI miss the earth so much, I miss my wifeIt's lonely out in spaceOn such a timeless flightAnd I think it's gonna be a long long time'Til touchdown brings me 'round again to findI'm not the man they think I am at homeOh, no, no, no.I'm a rocket manRocket manburning out his fuse up here aloneAnd I think it's gonna be a long long time'Til touchdown brings me 'round again to findI'm not the man they think I am at homeOh, no, no, no.I'm a rocket manRocket man burning out his fuse up here alone Mars ain't the kind of place to raise your kidsIn fact it's cold as hellAnd there's no one there to raise them if you didAnd all this science I don't understandIt's just my job five days a weekA rocket man,A rocket man さて、ここで問題は、この歌、何について歌った曲なのか?ってことなんですが。 でね、あるサイトの解説によると、この歌は宇宙飛行士の歌であって、すなわち華々しいキャリアを持った人物を主人公にしているのだけど、その人は、むしろ家庭的な幸福を望んでいる。ということは、この宇宙飛行士というのは、音楽界で華々し活躍をしつつ、本当は家庭的な幸福を望んでいるエルトン・ジョン自身を歌っているのだと。 うーむ・・・。そうなのか? しかし、歌詞冒頭には「発射予定時刻午前9時に合わせて、前の晩から妻が弁当を用意してくれた」とある。 宇宙飛行士って、愛妻弁当持って宇宙に行くんですかね? まあ、これは私の勝手な妄想ですが、これって、宇宙飛行士の話ではなく、普通のサラリーマンの話なんじゃないの? この曲が生まれた1970年代初頭と言えば、イギリスは「イギリス病」と呼ばれた不況の真っただ中にあったので、各家庭は家計をやりくりするのできつかったはず。そういう中、とにかく職にありついた男が、妻や家族のことを思って、長時間、懸命に働いて家計を支えていたわけでしょ。もちろん、仕事を選ぶなんて贅沢は許されないから、当時の男たちはどんな嫌な仕事でも、それがどういう意味のある仕事なのかすら知らずに引き受けて週5で頑張った。当然、家にいる時の自分とはまったく別のキツイ男となって、孤独に、七人の敵と切った張ったをやりながら。そして神経すり減らして、家に帰りつく頃にはヘロヘロで。まさに地球に戻ってきた宇宙飛行士が、久しぶりの重力の中でヘロヘロになって回収されるごとく。 そういう名もないサラリーマンの奮闘を、その孤独な戦いを、宇宙空間で孤軍奮闘する宇宙飛行士になぞらえて描いているんじゃないの、この歌は? そうじゃないと、この歌の寂しさが伝わらないじゃないの。少なくとも「エリート宇宙飛行士の贅沢な悩み」を歌っているのではないのではないかと。 だけど、そういう私の勝手な解釈の正当性を、確認する術がないのよ。 例えば、ネット上には「Genius Lyrics」という有名なサイトがあって、歌詞の持つ深い意味を探るという試みがあるのですけれども、それも万能じゃないからね。 で、思うのだけど、歴史に名を残すような名曲については、定番の訳、そして定番の解釈を確立した方がいいのではないかしら。もちろん、「定番ではこうだが、こういう解釈もあり得る」という複数回答形式でもいいから。 誰がその仕事を引き受けるのかという問題は残るけど、でも、音楽好きかつトリビア好きの文学研究者なんてのは大勢居るんだから、そのあたりがやってもいいんじゃないかとは思いますけどね。これこれ! ↓Elton John "Rocket Man"