シャーロット・セルバー著『センサリー・アウェアネス』を読む
シャーロット・セルバーの『センサリー・アウェアネス』(原題:Waking Up: The Work of Charlotte Selver, 2004)という本を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。 ちなみにセルバーは2003年に102歳で亡くなっておりますので、この本は彼女自身が書いた本ではありません。元々セルバーは本を書く人じゃないのね。だからこの本は彼女の「ワーク」を録音/記録したものを、彼女の弟子たちがテープ起こしして、編集したものです。つまり、セルバーのワークがどんなものであったか、生のまま分かる体のものでございます。 セルバーはドイツ生まれの人で、元々は音楽の教育者ですな。で、ある時エルザ・ギンドラーが主催するワークに出てみてぶっ飛び、以後、ギンドラーと、それからもう一人ハインリヒ・ヤコビーという師匠について勉強し、1938年にアメリカに移住してからは、ギンドラーのワークに「センサリー・アウェアネス」という名称を付け、アメリカに持ち込んだと。 で、彼女の仕事にスポットライトが当たるのは、やっぱり1963年にカリフォルニアのエサレン研究所で教え始めてから。そこに集まった「ヒューマン・ポテンシャル・ムーヴメント」関連の人々、例えばアメリカに禅を広めたアラン・ワッツとか、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズとか、そういう連中と出会い、彼らにもセンサリー・アウェアネスの何たるかを伝え、彼らもまた「セルバーすごい!」って評判を流したおかげで、彼女と彼女の弟子にして二番目の夫となったチャールズ・ブルックスは、とっても有名になりましたとさ。 じゃあ、そもそも「センサリー・アウェアネス」って何? ってことになるわけですけど、うーん、これがね、説明するのが結構難しい。 セルバーの「ワーク」って、例えば、「みんなで立ってみましょう」みたいな感じなわけ。 立ってどうするの? って思うでしょ? どうするかっつーと、意識的に立ってみる。身体がどうやって床と接しているか、自分に作用しているはずの引力が、足からどうやって床に流れているか、感じてみる。どういう角度で立つと、本当に楽に立てるのか、見極めてみる。 あるいは、ペアになって、互いに相手の足とかペシペシ叩き合ってみる。スラッピングというワークだそうですが、そうやってペシペシ叩いてみて、その衝撃がどう身体を伝わっていくか、感じてみる。 あるいは、目をつぶって、自分の頭に触れてみる。両手の間に頭をはさんで、両手の間に何があるか、感じてみる。 ・・・とか、そういう感じ。文字で書くと、なんだそれ? って思うでしょうけど、ワタクシ自身も読んでいてなんだそれ?って思いました。 ま、つまりね、これは禅なんですよ。セルバーのワークに参加したアラン・ワッツが、「これは生きた禅じゃないか!」って叫んだそうですけど、そういうこと。禅なの。 人間ってのは、例えば子供の頃に親にしつけられたりして、「こうやるもんだ」っていうことを山ほど蓄積しているわけね。また、そういう「しつけ」のみならず、自分自身が育ててしまった「感情」というのもあって、ある行為をするときに必ず湧き起こってくる「感情」に流されてしまうこともある。つまり、人間ってのは、そういう様々なものでがんじがらめになっているわけですな。だから、そういう蓄積したものを全部一旦忘れて、生まれて初めて立つ赤ん坊のような気持ちで、「立つ」という経験をし直してみる。 で、そういう各種のワークを通じて、本来の自分を取り戻し、かつ、自分の身の回りの世界と新たな気持ちで接しなおしてみる。すべての経験に、その都度新鮮な気持ちで自分を開いていく。 例えば夕飯の支度にジャガイモの皮を剥くにしても、「早く済まさなきゃ」とか、「退屈だから音楽聴きながらやろう」とか、そういう風にするのではなく、今、自分はジャガイモに触れている。今、自分はこのジャガイモの皮を剥くという一生に一度の経験をしつつある。だからその感触すべてを味わいながら、皮を剥こう・・・と、そういう風に、「今、ここ」でしている全経験に自分を開いていく。そうすると、とんでもなく素晴らしい世界が開けるんだよと。 で、セルバー女史曰く、自分の知る範囲で、今言ったような意味で一瞬一瞬を完全に生きている人と言えば、鈴木俊隆師のみだと。そう、このブログでも何度か取り上げた、アメリカに禅を伝えた鈴木俊隆師ですな。赤ん坊のように完全に座り、完全に立ち、完全に生きているのは、鈴木師ただ一人だと。 だから、それを目指して、感情に流されず、ただひたすら静かに内観し、自分の身体の声を聴けと。そして周囲の世界を感じろと。そして、自分は世界の一部であることを知り、すべての行為に輝けと。 ま、そんな感じ。 まあ、大事なことはすべて自分の中にすでにある。その内面からスタートし、「今、ここ」を完全に生きることで外の世界と正しく同期せよ。そうすれば自分が宇宙の一部であることが分かるであろう、そしてそこへ向かうすべてのタオ(道・プロセス)が素晴らしい・・・っていうんですから、これを自己啓発と言わずしてなんと言うって感じですよね。 だから、先ほども言ったように、センサリー・アウェアネスの目指すところは、要するに「禅」なのね。何しろ、センサリー・アウェアネスを完成しているのが鈴木俊隆なんだから。坐禅するか、それともスラッピングするかの違いであって。 この本を読んで、そういうもんだ、ということが分かりました。これこれ! ↓センサリーアウェアネス つながりに目覚めるワーク (実践講座) [ シャーロット・セルバー ]