カレン・マクレディ著『ナポレオン・ヒルの哲学を読み解く52章』を読む
カレン・マクレディという人が書いた『ナポレオン・ヒルの哲学を読み解く52章』(原題:Napoleon Hill's Think and Grow Rich, 2008)を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。 これは自己啓発本の傑作として名高いナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』という本のエッセンスを抜き出し、それを現代の視点から読み解きながら解説する本でありまして、いわば『思考は現実化する』に寄り掛かった本、ナポレオン・ヒルのまわしで相撲を取るような本なんですけど、じゃあ、面白くないかというとそんなこともなく、むしろ結構面白く読むことのできる本でした。 実際、ヒルの『思考は現実化する』は1937年の本ですから、かれこれ90年近く前の本ということになる。だから記述もちょっと煩雑なところもあるし、あがっている例も少し時代がかったところがある。そこで現代の事象に照らし合わせながら『思考は現実化する』を読み解き、ヒルの主張が90年前と同じように現代にも通用するんだよ、ということを教えてくれる本書のような本があると、現代の読者としてはとっつきやすいというか、この本をきっかけに『思考は現実化する』に手を伸ばしてみようと思う人も出て来るのではないかと。 では、『思考は現実化する』を、現代風に読み解くとはどういうことか? 『思考は現実化する』の中で、ヒルは「チャンス」というものの性質について次のように述べています。曰く「チャンスは予期していたのとは違う形で、違う方向からやってくることが多い。それがチャンスのトリックの1つである。チャンスには裏口から忍び込んでくるというやっかいな性質があるのだ」と。 で、このヒルの明察を、カレン・マクレディは「アル・ゴア」という、アメリカ人なら誰でも知っている現代の著名人のエピソードを使って解説するんですな。 アル・ゴアは、クリントン政権時の副大統領であり、2000年のアメリカ大統領選に出馬した。その際、彼のアピール・ポイントたる政治的主張は「気候変動問題」だったのですが、当時はまだアメリカの一般大衆はそこまでこの問題に関心がなかった。アル・ゴア自身は、もっと若い時からこの問題に強い関心があったので、自分が大統領になれば、まず一番にこの問題に取組もう!と思っていたのでしょうけれども、残念ながら彼は大統領選に敗れ、その夢を実現することはできなかった。 しかし、「大統領選に敗れた」ということが、アル・ゴアにとっては大チャンスだった、とカレン・マクレディは指摘します。 大統領選に敗れ、政治家としてのキャリアを終えたアル・ゴアは、環境問題に取り組む活動家として活動を始め、例の『不都合な真実』というドキュメンタリーを制作して話題となり、この分野での第一人者として環境問題への発言力を強めたばかりか、最終的にはノーベル平和賞も受賞している。結局、彼は「気候変動問題」に取り組むという夢を、ちゃんと実現させたわけですよ。 つまり、彼にとって「大統領になる」ということは「夢」ではなくて、「手段」だったわけですな。で、その手段は手に入れることができなかったけれども、逆のそのおかげで、この問題について大統領になっていたらできたであろう以上の活動をすることができた。つまり、大統領になれなかったおかげで、自分の本来の「夢」を実現することができた。 カレン・マクレディ曰く、これこそがヒルの言う「チャンスは予期せぬ形でやってくる」ということの意味であろう、と。大統領選に敗れたことが、アル・ゴアにとっては予期せぬチャンスだったのだ、と。 ヒルが『思考は現実化する』の中で主張していることを、現代の事象をもって解説する、ということがどういうことか、分かるでしょ? とまあ、こんな感じで、本書は52個の現代的なエピソードを駆使して、ヒルが90年ほど前に『思考は現実化する』の中で述べたことの妥当性を証明していくわけ。そういう意味で、なかなか面白いし、『思考は現実化する』という本の、良い意味での解説書・入門書になり得ていると思います。 っつーことで、あまり期待しないで読み始めた割に、案外、ヒルの『思考は現実化する』という名著をよりよく理解する上で役に立つ本だったのでした。教授のおすすめ!です。これこれ! ↓【中古】 ナポレオン・ヒルの哲学を読み解く52章/カレン・マクレディ(著者),藤澤将雄(訳者)