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テーマ:今日の出来事(292810)
カテゴリ:教授の雑感
うちの大学は今日のお昼12時が卒論の提出期限。我がゼミ生のうち、一人だけ未提出の者がいたのですが、今日の10時頃、無事提出したとの連絡あり。これで全員提出が決定、今年度の卒論業務が終わりました。よかった、よかった。
それはいいとして・・・。 いや、実は昨日の夜の段階で、まだ6人のゼミ生のうち、二人が出していないと思っていたのよ。で、その二人には、夜の11時頃、「明日は絶対に提出しろ、何が何でも出せ。たとえ未完成でも出せ。あとひと息だから頑張れ!」と激励のメールを送っておいたわけ。 そうしたら、しばらくして、二人のうちの一人から、「今日(=昨日)、昼間に出しました」という返事が来た。 え゛ーーーーーーー! ウソだろ? 昨日は一日、じりじりして提出の報告を待っていて、それがないからまだ未提出なのだろうと思って心配していたのに! 私は、ゼミ生には「いいか、卒論を提出したら、出したその場でオレに報告のメールを寄越すんだぞ」と厳命していたんですわ。だって、私だって心配しているんだから。出したなら出したで、一刻も早くその報告が聞きたいじゃん? ところが、そのゼミ生は、私が夜中に激励のメールを出すまで知らんふりで、私には何の報告もなかったんだからね。それはちょっと、ねえ・・・。 まあ、私は「怒らずの誓い」を立てているので、怒りはしませんよ。しませんけど、ちょっとがっかりですわ。 これは岡野弘彦さんが書かれた『折口信夫の晩年』という傑作伝記に書いてあるんだけど、折口さんの住み込みの弟子であった岡野さんが、ある時、ある大学に就職が決まったんですな。 で、岡野さんという人はお堅いところがあるので、そういう報告はきちんと形を整えてしなければならないと思っていたわけ。で、折口先生と一緒に電車に乗って帰宅して、家についてから、正座をして、居住まいを正してから折口先生に向かって、就職が決まった報告とお礼を述べたと。 そうしたら、折口信夫が激怒した。なんで一緒に電車に乗っている時に報告しないのかと。君の就職が決まったのなら、私も嬉しい。なのにそれを今の今まで黙っているとは何事かと。そんな薄情な人間とはもう一緒に居れない。君には何か邪なところがあって、自分の知らないところで邪な手を使って就職を決めたのではないか。・・・とまあ、そういう感じで、もう、ほとんど破門の一歩手前くらいまでいってしまう。 まあ、折口信夫のこういう思いというのは、当時としてもちょっと行き過ぎなところがあるとは思いますが、私には分かるんだよね、そういう折口の気持ちが。 折口はね、就職が決まって嬉しいとか、そういう「喜び/嬉しさ」のことを「心躍り」と呼ぶのよね。心が嬉しくて踊り出す。その人間の根源的な喜びの気持ちというのは、感じること自体重要だし、それをシェアすることが重要だと考えていた。折口の短歌に対する評価もそれだから。美しいものを観た時の心躍りがそこにあるか、というね。 だから、自分の一番親しい弟子が、その心躍りを自分に示さなかったということがどうしても許せなかったわけよ。 で、ゼミ生というのは、私の弟子なのであって、その弟子が卒論を提出したわけでしょ。その心躍りを、どうして私に知らせてくれないのか、というのは、やはりある。これはね、礼儀とかそういうのじゃなくて、もっと深いものなのよ。 まあ、しかし、ゼミ生がそういう行動を取らなかったというのは、私の責任でもある。ゼミ生の行動は、私自身の行動の鏡像だからね。最近、私が自分のゼミ生たちをさほど可愛がらないから、そういうことになるのでしょう。 世界は変えられない。変えられるのは自分だけ。来年は、自分を変えて、ゼミ生たちが真っ先に卒論提出の報告をしてくれるような、いい先生にならないといかんですな。 折口信夫の晩年 [ 岡野 弘彦 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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