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釈迦楽

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July 24, 2024
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カテゴリ:教授の雑感
自己啓発思想を研究して幾星霜なんですけど、これだけ長く研究していると、普通の世間の物の見方と、自己啓発思想を基にした世界観というのが相当違うというのが分かってきます。無論、どちらが正しいということはないのだけれども、私が思うに、自己啓発思想を基にした世界観の方が、生きていく上で楽は楽。そりゃそうだよね、人生を楽にするのが自己啓発思想なんだから!

 例えば、今世間を騒がせている体操選手の件とか。

 あれ、世間の見方を観察していると、二種類あって、一つは「大した罪でもないのだから、許してやったらどうだ、可哀想じゃないか」というもの。もう一つは、「ルールはルールなんだから、出場させないのがよろしい」というもの。

 だけどこの見方の前提は、「客観的な世界が一つだけあって、その中に一人の選手がいる。両者の関係性の中で、世界がその選手の罪を咎め、結果として選手は念願の大会に出場できなくなった」というもの。見た目の図柄としては「世界という大きな碾き臼の中に、個人という小さな存在が放り込まれ、すりつぶされた」という感じで、それをある人は「可哀想」と見るし、別の人は「自業自得」と見る。

 まあ、これが普通の世間の見方でしょう。

 だけど、自己啓発思想者から見ると、そうは見えない。世界と個人の関係を、そういう風には見ないからね。

 自己啓発思想者は、「客観的な一つの世界」というのを想定しません。あるのは、個々の人間にとっての世界だけ。だから、問題なのは「特定の体操選手Aさんと、彼女自身の世界との関係」なのね。

 Aさんの世界は、「Aさん」と「彼女の世界」とで構成されています。その世界の中で、主人公はAさんただ一人。で、この世界の中で、Aさんは自分の世界を刻一刻、選択をしながら作り上げている。いわば、神との共同作業として。

 で、神が設定したある状況の中で、Aさんの前にいくつかの選択肢が置かれ、Aさんは自らの意志でその中から一つの行動を選びました。酒を飲む、とか、煙草を吸う、とか、そういう行動ね。

 さて、Aさんの世界では、あらゆること(=結果)がAさん自身が行った選択を原因として生じます。Aさんの過去の選択は、今のAさんの逆境を引き寄せました。

 だから、Aさんは自らの選択によって生じた結果を、今、体験しているわけね。自身の選択によって生じた喜怒哀楽、まあこの場合は悲しみがほとんどでしょうが、それを体験している。そのことは辛いでしょうが、それによってAさんの人生にこの体験が付け加えられ、その分、Aさんの人生は豊かになりました。

 なぜなら、魂の冒険とは、人生の中で様々な体験をし、様々な感情を味わうことだから。右を知らなかったら、左の意味が分かりません。深い悲しみを知らずして、大きな喜びの意味を知ることはできません。

 そしてAさんの魂の冒険によって、神もまた一つ発見をしました。Aさんがこの体験をしなかったら、神もまたその体験を味わうことはなかったのだから。このようにAさんの世界は、Aさんと神との共同作業によって刻一刻と新たな学びが生じ、その分、刻一刻と豊潤なものになっているわけね。

 さて、しかし、その体験をしたAさんは、いわば「昨日のAさん」です。今日のAさんとは別人です。まったく別人なので、過去のAさんの選択やその結果とは、まったく関係がありません。だから、今日のAさんは、昨日のAさんのやらかしたことを恥じる必要もない。別人なんだから。

 それに、そもそもそんな過去のことにこだわっている暇はないんです。人生は、刻一刻と選択を迫られているのだから、今、目の前にある選択をしなければならない。

 あらゆる選択が、Aさんの前に開かれています。「昨日のAさん」の体験を引きずって、いつまでも絶望する、という選択肢もある。それを選ぶのは、Aさんの自由。Aさんの世界の主人公はAさんただ一人だから。

 しかし、別な選択をすることもできる。体操からすっぱり足を洗って、別なことに人生を賭けるのもよし。あるいはまだ若いのだから、4年後のオリンピックで復活して、今度は世間の絶賛を受けるのもよし。今、どんな選択をするかで、どんどん違う未来が引き寄せられてくるので、ぐずぐずしている暇はありません。

 人間の前には無限の選択肢があって、それを人間は自分の自由意思によってどうとでも選択ができる。この自由意思による選択こそが、自己啓発思想の考える「人間の尊厳」です。そして、この自由意思にこそ、人間としての尊厳が掛かっているのだから、人は何かを選ばなくてはならない。

 これが自己啓発思想者の考え方/世界観ですね。この考え方/世界観の中では、「碾き臼にすりつぶされる個人」などという図柄はひとつも出てきません。あるのは、今、Aさんの目の前のある選択だけです。その選択によって「Aさんの世界」が変わるだけ。

 ね。普通の世間の見方と、自己啓発思想者の見方では、だいぶ、見ている世界が違うでしょう? 

 どうなんですかね、このような自己啓発思想の世界観を受け入れると、少なくとも渦中のAさんは楽になるのではないでしょうか?「世界が寄ってたかって自分の罪を弾劾している」という世界観ではないのだから。そんな、「自分と敵対する世界」などというものは、自己啓発思想者の概念の中にはないのだから。

 ま、私は、Aさんが自己啓発思想を取り入れて現在の状況を理解し、今、彼女自身にとって最善の選択をしてくれることを望みます。

 でもそれはあくまでも他人事。私は私の世界の中で生きているので、私の世界にAさんは存在すらしない。私の世界で重要なのは、私が私の選択をすることだけです。私は私の課題を果たす。私は私の道を行く。





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Last updated  July 24, 2024 05:37:35 PM
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nwo69@ Re:野崎訳 vs 村上訳 さて軍配はどちらに?!(12/30) 非常に激しく同意、しかも美味しい翻訳を…
釈迦楽@ Re[1]:母を喪う(10/21) ゆりさんへ  ありがとうございます。今…
ゆりんいたりあ@ Re:母を喪う(10/21) 季節の変わり目はなんだか亡くなる方が 多…
がいと@ Re[2]:山田稔著『もういいか』を読みつつ、日本の郵便システムを憂える(10/10) 釈迦楽さんへ 収支上の都合があるにして…
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