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カテゴリ:似文化異文化奇文化
大学のメインライブラリーの一階トイレは、あの広いフロアに一ヵ所しかない。そして女子トイレのそれぞれの個室の中に入ると、バスロール(トイレットペーパーとはあまり言わないらしい)の設置された左側の仕切り壁にポスター大もあるような白い紙が貼ってある。落書き専用の紙である。 この紙は、トイレのお掃除と管理担当のおばあちゃん(仮にアリス)が毎週わざわざ張り替えているもの。彼女とは顔なじみで、タイミングがあえば他愛もない話しもするのだが、ある時この紙について聞いてみたら、『みんな何か言いたい(書きたい)んだろうけど、紙を貼っておかないとどこにでも書いちゃって大変でしょう。紙を貼っておけば、みんなそこに書くのよ』と言っていた。トイレの壁はステンレス製(たぶん)なので、それに無理に何か書こうとして削り傷をつけられたり、マジックで書かれたりするよりは紙を貼ってあげるほうがマシ、というところらしい。 落書きには可愛い字も、丁寧なものも、書き殴ったような字も混在しているのだが、いつ入っても、どの個室に入っても、この紙が真っ白だったということはない。いつも誰かが、何かしら書いている。しかも誰かが書いたコメントに、後から誰かが賛成を述べたり、けなしたりして延々とつながっているものもしばしば見かける。“愛羅武勇”の4文字だけ、なんてものではなく、それぞれのコメントも結構長くて、10行近くあるような大作も珍しくはない。 話題は宗教関係が一番多く、次は季節モノ・・・たとえば新学期は『○○のクラスはおもしろくない』とか寮生活は楽しいとか嫌だとか、試験期間中はぼやきが増えるし、学期末は夏休みの話題とそれに対するつっこみやらなんやら・・・、あとはお定まりの色モノと(そんなに多くはないが)、意味不明のただの落書きというのが大まかな順番である。宗教関係が一番多いのは、布教に熱心な信者さんは、どんな場でもパブリックフリースペースがあれば見逃さない、という点と、やはりトイレの個室というのは瞑想の場だというところか。 他愛もない落書きペーパーだが、意外な役回りを果たすこともある。アリスおばあちゃんの話では、数年前に(彼女の“数年前”がどのくらい前なのか定かではないが)、フットボール選手2人が女子学生をレイプしたことがあって、しかし犯行時には奴らは逃げてしまい捕まらなかったのだそうだ。事がレイプだけに、話は公にはならずしばらく過ぎたのだが、このトイレの落書きペーパーは沈黙していなかったとか。事件に関する噂話や暴露話がいろんな女の子の手によって毎日次々と書き足されていき、ついに、この紙の書き込みの話を聞きつけた警察がやってきて、紙を貰っていったのだそうだ。 犯人逮捕にまで至ったのかどうかはっきりとは知らないと言いながら『あれだけ書いてあったんだから、まぁ捕まったでしょうね』と彼女は言っていた。この件だけではなく、FBIの捜査官は定期的にこの落書きを見に来るそうだし、また社会学の学生が研究材料にしたいからと、ある期間に渡って外した紙を収集していたこともあるのだそうだ。『おもしろいものだよね』と言っていたクリスおばあちゃんは、今週もまたきれいに紙を張り替えていた。 ちなみに、今日見たのは、 Gas for driving to Chicago - $40 Parking at O’Hare airport for one month - $140+ Flight ticket for Round trip to Australia - $1440 Surprising Christmas gift to visit only sister in first time in two years – Priceless という書き込みに、後から誰かがつっこみを入れていて。 I’m so sick about it because so many people make parodies of this master card’s commercials. It’s annoying, but otherwise, it’s sweet. ・・・思わずニヤリ。Otherwise*って単語を知ってて良かった、とも後から思ったんですが。 それにしても、センチメンタリズム満載のMaster cardのPricelessシリーズ、明らかに大成功Adキャンペーンですねぇ。 (*辞書では『ほかの点では; 違った状態で;』という訳になっていますが、『とはいえ』とも訳せないかなぁと時々思います) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
September 17, 2004 06:31:31 AM
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