Peter Jenningsといえば『ABC World News’Tonight』だし、Tom Brokawは『NBC Nightly News』、Dan Ratherなら『CBS Evening News』と、名前を聞いただけで顔も話っぷりも、番組名も即座に出てくるほど有名な、アメリカの3大ネットワークの看板報道番組のアンカー達。Peter JenningsとDan Ratherはベトナム戦争のレポートで名を挙げたという超ベテランだし、少し若いTom Brokawだって、ベトナム戦争終期頃に大学を卒業してすぐに業界入りし、1983年から『NBC Nightly News』のアンカーをやっているというから、もうとうに60歳を過ぎた古手である。

2年半ほど前に、ネットワーク間の視聴率競争に苦しむABCが、同じく超ベテランジャーナリストのTed Coppel率いる深夜枠の著名報道番組『Nightline』を、CBSで同じ時間帯に人気トークショー『Late Show』をやっているDavid Lettermanと契約してすげ替えようとしている・・・という騒動があった。確か、ABCがディズニー傘下に入って間なしのことだったように思うが、これがまた、The New York Timesはじめ著名メディアを舞台に侃侃諤諤の騒ぎに発展。やり手のディズニー経営にドライブされたABCのあけすけなやり口に対する批判の一方、Ted Coppelはじめ、Peter Jennings, Tom Brokaw、Dan Rather、それに硬派調査報道番組の『60minutes』のアンカー達等々、有名TVジャーナリストが揃ってかなりな年齢に達しているにも拘らず未だ第一線でやっている事実について、それで後継若手が育つのか、という懐疑も多く出ていたものだ。同時にケーブルTVの台頭によるネットワークニュースの視聴率の低下、ニュース離れの進む若年視聴者の傾向への懸念なども指摘されていた。

ちなみに『Nightline』騒動は、ずーっと沈黙を守っていたTed CoppelがThe New York Timesの投書欄へ署名投書を出して世間をあっと驚かせた。その中でCoppelは、淡々とした、しかしさすがの説得力で、『視聴率競争に気をとられる中で、TV報道番組の根本的・社会的使命が忘れられているのではないか』と見解を述べた。また同時期に、渦中に巻き込まれた観のあったDavid Lettermanが『俺は（今はABCへは）行かないよ』と言葉少なにコメントを出して、この件は決着がついた。『60minutes』のAndy Roonyなどは『David Lettermanはインテリジェンスのある人物だから、自分の番組は夕方収録して、夜11時半には家で『Nightline』を見ているのさ』と痛烈に皮肉っていたものだ。

2年半前にそういう騒ぎがあり、TVジャーナリストの高齢化問題が大っぴらに議論されていたにも拘らず、世代交代の気配は見えず、誰もがまだまだ表舞台でガンガンやっている。Peter Jennings, Tom Brokaw、Dan Ratherももちろん健在である。で、2週間前の週末に、この3人が顔を揃えてニューヨークでパネルディスカッションをやった。このえらく豪勢なイベントは雑誌New Yorkerが仕切ったもの。私はNPRの『Fresh Air』で10月7日にオンエアされたのを聞いたのだが、思わずクルマを停めて聞き入ってしまうほど面白かった。（ネット上で聞けます。Fresh Air. Thursday, October 7）

トピックは大統領選報道やイラク報道、またもっと一般的なネットワーク報道のあり方などいくつかあったが、ジャーナリストとして貫きたいものと、民放ネットワーク局の看板番組のプロデューサー兼アンカーとしての諸々のしがらみの間で、自分達が誇りたいと思っているものと悔いているものとがそこはかとなく感じられた。特にDan Ratherは、つい先日『60minutes II』でブッシュの経歴調査報道の中で誤報道をやってしまい、公式に謝罪をし、目下第三者による調査が進行中という中なので、その苦渋が直接関係のない話題でもコメントの端々に感じられ、少々痛々しいほどであった。

会場の聴衆から拍手喝采だったのは、Dan Ratherが大統領選挙報道について、『報道の中での世論調査への依存を減らさなければいけないと思っている』と述べたとき。この世論調査については、実感値としてはこの一ヵ月ほど急激に批判的見解が増えてきていて、サンプリングの信頼度が低いことの上に、その信用できない数字の上でメディアもそれにつながる世論も踊らされていることへの指摘や、有利な選挙戦を展開するため（どちらとは言わないけれど）意図的に時期を見計らってファンドをばら撒き、調査機関に世論調査をさせて数字で煙に巻いてるのではないか、といった指摘まで大っぴらに出てきている。

『わかってんじゃん』と思わずラジオに言ってみたりして。