昨日の日記の、『です/ます体で歌われている歌』の話題を台湾にいらっしゃるtinuyamaさんが日記でとりあげてくださったら、この日記のはてな・さてらいと版にtinuyamaさんの日記の読者の方々から複数のさらなるアイディアが!!　ネットってすごい・・・と思ったり、この話題、なんでこんなに私を含め皆様の知能（或いは雑学能）を刺激するのだろう・・・と思ったり。

先日Y女史から「おもしろかったわよ」と、地元紙Lansing State Journalの1月16日の記事をいただいた。タイトルは『One Nation Divisible-What would happen if America really did split along election lines?』　大統領選で明白になった“赤いアメリカ”と“青いアメリカ”が本当に別々の国になったら、それぞれどんな国になるか、という一種のジョーク記事なのだが、カラー刷りで紙面の4/5も使っての盛大な掲載ぶり。（赤いアメリカと青いアメリカの分布図の復習はこちらでどうぞCNN Electoral Vote Count Map）

まず“赤いアメリカ”
-スローガン：　“Don’t Tread on Me” (入ってくるな、という感じ)
-国鳥：　タカ（Hawk）
-国木：　オーク
-国の動物　：　グリズリー・ベア-
-国歌：　ビア・バレル・ポルカ（Beer Barrel Polka）
-最初に制定された法律：　銃所有義務法
-国立図書館：　Toby Keithのアルバムを3週間延滞料金なしで貸し出しできる
-好まれるTVチャンネル：　Fox News
-好まれる色：　カーキ
-好まれるTV番組：　｢Cops｣（警官にTVカメラがひっついていくもの）｢America’s most wanted｣｢JAG｣（軍弁護士のドラマ）｢Law & Order｣（人気の事件・法廷ドラマ）
-好まれる多国籍料理：　フレンチフライ、スイスチーズ、ギネス・エールビール
-好まれるスポーツ：　NASCAR、ボクシング、レスリング、フットボール
-最も公正とされるジャーナリスト：　Bill O’Reilly　（ラリー・キング・ライブ（CNN）のFOXにおけるカウンター番組のホスト）
-最も尊敬される女性：　バーバラ・ブッシュ（パパ・ブッシュ夫人）/エリザベス・ドール/Ann Coulter (政治・法律ジャーナリスト)

次に“青いアメリカ”
-スローガン：　“Please Don’t Tread on Me”　（どうか入ってこないで、くらいの意）
-国鳥：　Tweety Bird (*下のイラスト参照)
-国木：　ライラックの低木
-国の動物　：　フレンチ・プードル
-国歌：　ジョン・レノン「イマジン」
-最初に制定された法律：　ユニバーサル・ヘルスケア法
-国立図書館：　Emily DickinsonとThe Browningsの初稿の保存にいそしんでいる　（いづれもアメリカの代表的詩人）
-好まれるTVチャンネル：　Fox Newsだけは見ない
-好まれる色：　すみれ色とラベンダー色にごく少量の深紅と淡い黄緑を添えて
-好まれるTV番組：　｢Masterpiece Theatre｣(PBSの名作劇場。イギリス系時代劇が多い)　｢Queer Eye for the Straight Guy｣（5人のゲイの男性が毎週ダサくて無趣味な冴えないストレートの男性をひとりづつ改造していく、ケーブルチャンネルの人気番組）
-好まれる多国籍料理：　アジア料理とアフリカ料理ならなんでも
-好まれるスポーツ：　スクラブル、ニューヨークタイムズ・クロスワードパズル
-最も公正とされるジャーナリスト：　Michael Moore
-最も尊敬される女性：　ヒラリー・ロドマン・クリントン/Jennifer Granholm(ミシガン州知事)/ローザ・パーク

Tweety Bird

記事は続く。

『赤いアメリカも青いアメリカもカナダを友人としているが、「青」がそうするのはカナダにフィギュアスケートと医療保険制度があるからで、「赤」がそうするのはカナダにはホッケープレーヤーとムース猟があるからだ。また、「青」だけがメキシコを友人として扱い、両国共にコロンビアは友人ではないが、「青」ではコロンビアの電話番号だけは維持している』

『両国民は、移住は自由だが、行ったり来たりしないようにと言われる。ミシガンの人々は（注：この新聞はミシガン・ローカル紙）たいてい空路を使って移動し、「赤」の国境を横切らないように気をつけている』

『正確な数値はセキュリティ上の理由で伏せられてはいるが、「青」は軍従事者に不足している。一方、「赤」はファッションセンスに枯渇している。』

『「青」にはカーレーストラックがいくつかあるが、ドライバーに不足している。ミシガン・スピードウェイの開幕戦はボルボが勝ったが、平均は（たった）57mphで、ドライバーはレース中、カプチーノをピックアップするために2度ピットストップ。』

『「赤」はオリンピックで散々であった。砲丸投げと円盤投げでは良かったが、ハードルと短距離は全くダメ。バスケットボールチームでダンクができるのは2人だけである。』

『「青」には9人の警察官しかいないが、スポークスマンは、７つしか法律がないし、そのうち3つは気公務員にのみ関連するものだから問題ない、と主張』

『ある日ウォール街はそっくりマンハッタンから消え、数日後にヒューストン（テキサス州）に出現した。「青」のスポークスマンは、『いったいどうやって「赤」はウォール街全部を移動させたのかはっきりしないのだが、まぁ、「赤」はいいピックアップトラックとトレイラーを持ってるからね』とコメント。』
（テキサスはじめ、南部の農業州を皮肉っている）

『ブロードウェイはニューヨークにとどまっている。「赤」の住人達は、『なんでブロードウェイがいるんだい？私たちにはディズニーワールドがあるんだし。』』

『ハリウッドは「青」のために映画を撮る。「赤」はハリウッド・サウスを模した自前のスタジオを設立。たいてい、無害なビデオ、NASCAR Storyか「JAG」を制作。』

『「赤」ではステーキハウスとハンバーガーショップを作りすぎて牛が不足。「青」ではコーヒーショップとティーハウスを作りすぎて会話が不足。』

という具合。（文化的な背景がわかりにくくて私には理解できなかった項目は割愛してあります。悪しからず～）

「赤いアメリカ」＝田舎、保守的、腕力重視、白人中心社会、ダサい
「青いアメリカ」＝都会、リベラル、平和主義、多民族多人種、高学歴、ファッショナブル　
というものすごいステレオタイプを如実に反映した記事である。

私にとって最大のニヤニヤ・ポイントは“好まれるTVチャンネル”欄。「赤」はFox Newsを、一方「青」はFoxだけは見ない、となっている。これは昨年1月にThe Pew Research Center for the People and the Pressの調査で明らかになったものが下敷きになっている。



アメリカで今最も見られている24時間ケーブルニュースチャンネルはFoxである。CNNではない。2002年の大統領一般教書演説報道でFox NewsはついにCNNを逆転し、2004年の大統領選後のThe Pew Research Center for the People and the Pressの調査でも、調査回答者が最も見たケーブルニュースはFox Newsだった。

（非常に個人的な意見であることを強くお断りしておいて）Fox Newsがどういうチャンネルかというと、語弊を覚悟で言えば「扇動的」。疑いもなく「共和党」。一連の戦争報道で最も扇動的なのはFox Newsである。アフガン派兵時も、イラク開戦時も、「愛国心」「正義」を最もふりかざして報道したのはこのチャンネルである。私の個人的感覚のなかでは「バイアスのかかった報道をする好戦的なチャンネル」という分類になっている。（あ～、Fox Newsの好きな方がいらっしゃったらごめんなさい）　

Fox Newsのバイアスについてはその源に諸説あるが、ブッシュ家とFox Newsの深～い関係は、『Fahrenheit 911（華氏911度）』の中でMichael Mooreが声高に言うまでもなく明らかなこと。イギリスのメディアに詳しい人たちは、Fox Newsのオーナー・Rupert Murdochとサッチャーの政権維持の図式との類似性を指摘する。

2003年の秋にブッシュがFox Newsとのインタビューの中で、『新聞は見出しを見る程度で、めったにストーリーは読まない。スタッフに『新聞に何か心配しなくちゃいけないことがあったか？』と聞くからいい』と言って全米の度肝を抜き、恐らく彼の広報担当者を気絶させたに違いない一件があったが、その後選挙戦に絡む全米遊説中にまたしても『メディアは信用できない。見るのはFox Newsくらいだよ』と口を滑らした。（注：この「Fox Newsくらいだよ」発言は当時テレビで見たんですが、今確認をしたくざっとチェックしましたが正確な資料が見つからず。誤引用してたらごめんなさい）

このブッシュの発言とThe Pew Research Centerの調査の結果には相関関係があるように思えてならない。ブッシュがそう言ったから共和党支持者はFox Newsしか見ない、なんて話ではないと思うが、この調査数値に出ているように、共和党支持者の約3人にひとりが、Fox Newsを選挙報道のメインソースにしているというのは、ものすごい数だと思える。そして大統領もそういった人の一人だということである。

一方、リベラル派の人からはFox Newsを疑問視する声をよく聞く。昨秋、あるリベラル派のアメリカ人教授と大統領選について雑談している時に彼は『僕はメディアの専門家じゃないからよくわからないけど、それにしてもなんであんなに多くの人がFoxを見て、しかもその報道を信じてしまうのかどうしても理解できないよ。』と息巻いておられたものだ。（アメリカ人のあなたにとってそれが謎なら、私にとっては迷宮入りだよ、と言いたかったですが）　

上のジョーク記事にわざわざこの“好まれるTVチャンネル”という項目が入ったのは、きっとその傾向を取り上げたかったからだろうと思う。ブッシュ大統領はたぶん言葉が足りなかっただけなんだと思うが（思いたいが）、もし、もしも本当に自分ではFox Newsしか見ず、新聞記事を読むのはスタッフまかせという人が大統領なんだとしたら、この国は凄まじいし、大統領はマリオネットだという非難も、言い過ぎとは言えないかも。