|
カテゴリ:徒然猫物語
米国の作家レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)に、
幻想的な「霧笛」(The Fog Horn)という短編がある。 (「ウは宇宙船のウ」(R is for Rocket)に収録されている。) 死に絶えてしまったはずの恐竜のうち、 なぜか1匹が生き残って、海底深く眠り続けている。 二度と帰らぬ仲間達を待ちながら、眠り続けている。 ある日、恐竜の声に似た灯台の霧笛に、100万年の眠りから目覚める。 霧笛は「ぼぉぉ~~、ぼぉぉ~~」と恐竜の記憶の彼方に呼びかけてくる。 恐竜は仲間の恐竜に会うために、 数ヶ月間かけてゆっくりゆっくり水圧に身体を慣らしながら、海面に浮上してくる。 仲間に会いたくて、浮上してくる。 ある霧の夜、海面に浮上した恐竜は、霧の中、灯台に呼びかける。 「ぼぉぉ~~、ぼぉぉ~~」と、何度も何度も呼びかける。 灯台も「ぼぉぉ~、ぼぉぉ~」と霧笛を鳴らす。 ところが、灯台のスタッフが恐竜を見て、霧笛を消してしまう。 恐竜が呼びかけても呼びかけても、灯台は応えてくれない。 恐竜は怒り、遂に灯台を破壊する。 もう灯台は霧笛を鳴らすことができない。 愛するものを自ら破壊してしまった恐竜は、 もう二度と応えてくれない怒りと悲しみと空しさに鳴き続け、 霧の中、海底に去っていく。 細部は若干違っているかもしれないが、確かそういう話だった。 高校時代に日本語で読み、大学1年の時に英語の原文で読んだ。 幻想的な情景が、まざまざと目に浮かんだ。 英語の原文で最後の文章を読み終えた時、 何ともいえない感慨と哀愁を感じた。 30数匹いた猫達のうち、チロが1匹だけ残って、去年ハクをもらった時、 ああ、「霧笛」の状況だと思った。 ハクが来て、チロは本当に喜んでいた。 チロは同族の猫がいなくなって寂しかった。 それで、毎日、毎日、ハクに挨拶をした。 ハクに無視されても無視されても、 一生懸命すりすり身体をこすりつけて挨拶をしていた。 ハクは灯台と違って、10日間でチロに応えてくれたが、 もしハクが応えてくれなかったら、チロはどうしたんだろう。 恐竜のようにハクに怒っただろうか。 多分、何ヶ月でもすりすり挨拶を続けたんじゃないだろうか。 レイ・ブラッドベリの描く恐竜の性格とチロの性格は、明らかに違う。 シッポも、恐竜の性格とは全然違う。 「私、仲間の恐竜(=猫)に興味ないし、仲間の恐竜が怖いから、 仲間に会いに、わざわざ海面に浮上しないもん・・・」という感じで、 土台、最初から話が成立しない。 ちなみに、この恐竜の性格にそっくりなのが栗である。 栗は多分、応えてくれないと怒り狂う。 怒り狂って攻撃を仕掛ける。 栗の論理は多分、 「僕がこんなに一生懸命なのに、応えない相手が悪い。 お前、性格悪いぞ~!」である。 応えてくれない相手に怒る栗と恐竜。 (栗には、「霧笛」の幻想性のかけらもないが・・・) 栗の性格は、「霧笛」の恐竜か~と思っていると、 映画「ジュラシック・パーク」のギョロ目の恐竜(ティラノザウルス?)の横顔ドアップが、 ふっと目に浮かんだ。 ジュラシック・パークのギョロ目恐竜が怒り狂って、 長い尾や前足で灯台を破壊している。 これはもう「霧笛」の世界じゃない。 ゴジラの世界である。 応えてくれない灯台に怒り狂い、 「ギャオ~~!(=お前、性格悪いぞ~!)」と、灯台を破壊する栗ゴジラ。 恐竜を題材に取りながら、 こんなことを一切思わせず、 幻想と失われたものへの郷愁を感じさせる レイ・ブラッドベリの文才は凄いと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.04.28 13:51:09
[徒然猫物語] カテゴリの最新記事
|