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カテゴリ:太極拳
以前、別の日記で書いたお話の転載です。
昔々、ある山の寒村に世にも稀な名剣を持つ武術家がいました。 彼の剣さばきはそれはそれは素晴しかったと言います。 そして、彼の持つ剣は、立て掛けた男の手首ほどの鉄棒を 両断にしてしまうほど鋭利だったそうです。 でも、彼は年老いました。 武術も弟子達に教えきり、安らいだ余生を過していました。 ある日の事、年老いた武術家の家に彼の弟子が訪ねて来ました。 弟子はお土産を沢山持って、師に頼みました。 『どうか、その名剣を私に譲って欲しい』 武具は武芸者にとって命です。でも、年老いた武術家は その名剣を弟子に譲りました。 そして、さびしげに杖を突きながら、町まで買い物に 出かけました。 村をはずれ、小道を歩く武術家に弟子が追いかけてきました。 “師匠!!待ってください” 追いつくと、弟子は譲り受けた名剣で疾風の如く斬り付けました。 名高い名剣を譲り受け、尚且つ彼は彼の武名も自分のモノと するつもりだったのです。 しかし、名剣は年老いた武術家には届きませんでした。 名剣が走るより速く、弟子が技を繰り出すより早く、 老人の木の杖が弟子のノドを深く貫いていました。 いかなる名剣も、熟練の技を持ってはじめて意味を成す。 熟練の技を持ってすれば、いかなるモノも必殺の武器となる。 師を敬う心を持っていれば、武具の他に真の奥義も受け継いだ はずの彼も今となっては儚い。 人の道を進むには、道理を以って人の意味を積み重ねなくては ならない。 年老いた武術家は、何事も無かったように、それでいて寂しそうに 町へと歩いていきました。 以上、武術家の間に伝わる、名剣と木の杖 のお話。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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