代表作
錦之助の代表作を言う前に雷蔵はどうだろうと想った。金閣寺、ぼんち、破戒、など次々に浮かんでくる。眠狂四郎は有名だが、わたしはそれを認めるとしたら沓掛時次郎の方を選ぶだろう。中山七里は彼の素顔が現れていて演技者としては認めがたくなります。忍びの者、陸軍中野学校などのシリーズものもありますが濡れ髪シリーズの方を認めたく想う。どの俳優にも言える事ですが、作品それぞれが代表作と言って好いものとは思いますが、ベスト作品と言えば限られて来ます。あえて、雷蔵の作品の中から選ぶのは止めておきましょう。記した作品の中に含まれてるのは確かですが。ならば、錦之助はどうかと言えば、宮本武蔵は選べない。反逆児も記憶に残る作品ですが、美男城、源氏九郎の第一作、武士道残酷物語なども浮かんで来ます。山本周五郎の小説の映画化したものもあります。ですが、彼の代表作とは言い難いと思うのです。 後年のテレビドラマ作品、子連れ狼、破れ傘刀舟、鬼平犯科帳などは無残としか言いようがない様に思われてならない。 然し、何と言っても彼の存在を決定づける一作は、つまり代表作として認めたいのは関の弥太っぺでありましょう。山下耕作監督の映画であります。彼は、東映時代劇滅亡後、任侠映画を監督。緋牡丹博徒、昭和残侠伝、極道の妻たちと言う先品を生み出しました。様式美の前にヤクザの真実は描かれる術も無く。然し、関の弥太っぺにはやくざ者の悲哀が描かれていて切ない。お小夜との交流を打ち消す妹の薄幸な死があって、。「この娑婆には、辛い事、悲しい事が沢山ある。だが忘れるこった。忘れて日が暮れりゃ明日になる。(空を見上げて)ああ、明日も天気かあ」とお小夜に言った弥太郎自身、辛い、悲しい出来事(妹、お糸の死)の記憶を消されぬまま、お小夜との交流(明日へのいのち)を断ち切る。もはや、生を想わず、死出の旅路を決めた弥太っぺが秋の夕空へ抛った三度笠が心に残る。その路傍には、死人花、彼岸花が咲いている。錦之助の本質は、泣き虫小僧、べそっかきだと思うのです。だからこそ、瞼の母の母お熊との出会いの場面が秀逸なのでしょう。関の弥太っぺでは、号泣してるだろう彼が、泣かない。その泣かない場面で、泣き叫んでいる彼の心が見えて来るから切ないのです。お小夜に妹の面影を見た弥太郎でしたが、昔の兄の面影を抱いたまま死んだと言う妹の存在は重く、現実のお小夜を拒んで滅多切りにされる最期を選択してしまう。ポーンと抛られた三度笠が、やくざのいのちの軽さを想わせる。