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December 3, 2006
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カテゴリ:ヒーロー映画
 スーパーマン、クラーク・ケントと007、ジェームズ・ボンドのちがいはわかりますよね。一方は宇宙人であり、超能力の持ち主だ。もう一方は、地球人であり、超能力はない。では、ダーティー・ハリー、ハリー・キャラハンとボンドのちがいは?ハリーは現実の人間をベースにしているのに対して、ボンドは現実離れを前提としている。
 ハリー・キャラハンだって、ホットドッグをほおばりながら銀行強盗に大型拳銃をぶっ放すような、フツーではありえない行動をする。しかし、彼は、サンフランシスコ警察に勤務し、担当する犯罪は、特異なものではあるが、市民生活の範囲で発生するものだ。捜査方法が荒っぽいと、マスコミから叩かれることもある。
 それに対して、ジェームズ・ボンドはイギリス秘密情報部(MI-6)に勤務するスパイなのだ。この職業からして、一般に接触することはない。刑事という職業の人に会ったこともあるし、会話したこともある。けれど、誰とかくんのお父さんは秘密情報部員をしてるんですよ、などと聞いたことがない。
 秘密情報部員は“秘密”が身上なんだから、どんな仕事や生活をしているか全然わからない。だから勝手にイメージを膨らませることができる。その結果、007は、秘密兵器が搭載された自動車を乗り回し、美女にモテモテで、知力、格闘技に優れているというオールマイティなキャラクターができあがった。戦う相手も、スペクターなどの国際犯罪組織で、こいつらも最新兵器を使って地球征服を企てたりする。だから、007は、地球人であり、超能力はないけれど、スーパーヒーローなのである。そこがとても重要だ。
「カジノ・ロワイヤル」は、原点回帰、原作に忠実とのこと。「女王陛下の007(1969)」でも同じ試みが行われた。だから「女王陛下の007」には、ボンドカーなどのSF的ともいえる最新秘密兵器は登場しなかった。映画版の007のビジュアル重視の設定なのだが、小説版007は現実ベースなのである。「カジノ・ロワイヤル」は、《リアルで魅力的な“人間ジェームズ・ボンド” 》のコピーが示すように、小説版の方の007を志向したわけだ。
 映画開始早々、ここではお決まりの銃口に狙われたボンドが、打ち返してスクリーンが血に染まるという例のオープニングがあるはずなのに、今回はない。オールドファンは、このオープニングから、007の世界に入っていくのだ (銃口シーンがまったくないわけではありません。映画の始めの方で唐突に銃口が現れます) 。これは007ではなく、違う映画に思えてしまうぞ。まあ、ないものは仕方がないが。
 新ボンドは、マダガスカルで爆弾男を捕獲しようと、工事現場のブルドーザーで周囲を破壊しながら突進する。このとき、歯を食いしばったりして、必死の形相でブルドーザーを操縦するのではなく、顔色一つ変えないあたりに、ジェームズ・ボンドらしさが見える。
 さらに、建設中の高層ビルを駆け上り、高所恐怖症にとっては考えただけで恐ろしい追撃戦を行う。クレーンに飛び乗り、鉄骨にぶら下がって、全身打撲になりそうな着地をしながら爆弾男に食い下がる。このありえない展開は、スーパーヒーロー007の面目躍如である。
 続いて、テロリストが、株価を操作するために、最新航空機(スカイフリートS500)を爆破しようとしていることがわかる。爆破を阻止しようと、顔面傷だらけになりながら(007が血を流すこともあまりなかったが)ガソリンタンク車を追いかけて疾走する新ジェームズ・ボンド。ここでのアクションも、刺激的だ。おうおう、なかなかいいじゃないか。
 そして、今回の倒すべき敵ル・シッフルとのポーカーによるカード対決だ。前半のアクションシーンから一転して、静かなかけひき、心理の読み合いが行き詰まる。このへんが、リアルな人間ジェームス・ボンドなのでしょうね。と思うと、インターバルに殺し屋が狙ってきたりして、飽きさせないよう工夫がある。
 しかしだ、ギャンブルに強いというのは、ジェームズ・ボンドのオールマイティのうちの一つの要素にすぎないし、地味な能力だ。ボンドの勝負強さに「おお」っと周囲をうならせるのはいいけれど、それは短時間に終わらせてほしい。もっと派手で、ダイナミックな活躍、新兵器を使って、強大な犯罪組織と戦う姿、を見たいぞ。話の展開からは、このカード対決がクライマックスなのだろうけど、そこでの勝負が事件の解決とはならないところがなんとももどかしい。この後も話が続いてしまうのだ。気持ちはついていかないのに。
 やっぱり007映画は、最後に国際的陰謀団の要塞基地を壊滅に追い込まなくてはいけません。ドカーンと秘密のアジトが爆破され、ジェームズ・ボンドとヒロインが抱き合う。それが007です。
 例えばアメリカ版「ゴジラ(1998)」は、核実験の影響で生まれた巨大生物という設定だったが、あれは「ゴジラ」でなくて怪獣「ギラドン」でもまったく問題なかった。それはUSAゴジラと本家である日本のゴジラとくらべたとき、ゴジラ“らしさ”が感じられないからだ。
 同じように「カジノ・ロワイヤル」から007ジェームズ・ボンドの名前をはずして、CIAエージェント、リッキー・ネルソン(テキトーな名前です。誤解のないように)のお話しとしても全然問題なく通用しただろう。「007に似てるところがあるな」くらいは思ったとしても。
 「カジノ・ロワイヤル」は007にこだわりのない人が見れば、そこそこ面白い映画だとは思います。
 求めたいのは「らしさ」だ。007ジェームズ・ボンドは、映画版のキャラクターの方が、小説版よりはるかに知れ渡っている。007“らしさ”は、映画版に感じるのだ。007が007映画らしくあるためには、ジェームズ・ボンドはスーパーヒーローでなくてはならない。

 ところで、007映画には、意外に不思議なシーンが存在する。「007サンダーボール作戦(1965)」では、クライマックスの大海底戦で、アクアラングをつけた敵と味方の攻防がある。お互いに、水中銃やナイフで戦い、ゴーグル(水中眼鏡)を外しあったりする。ジェームズ・ボンドは、敵のスペクターNo.2ラルゴに、ブルーのゴーグルを取られる。即座に他のスペクター団員から黒のゴーグルを奪って装着する。ところがつぎのカットで、007はブルーのゴーグルをしており、そのつぎのカットではまた黒、そしてカットがかわると今度はブルーのゴーグルで逃げるラルゴを追う、という連続場面がある。ジェームズ・ボンドは短時間にゴーグルを換えたのか?「ダイヤモンドよ永遠に(1971)」にも有名なびっくりシーンがあるので、探して見てください。
 「カジノ・ロワイヤル」にも、「あれ」っと思うシーンがありました。“00”への昇格試験と称し、トイレで大乱闘があります。このとき、洗面所が映ります。つぎの瞬間、水があふれ出ていて、敵の頭を水の中に沈めます。洗面所に水を張るためには、まず栓をしてから水道の蛇口をひねるという手続きが必要ですがそれがない。いつの間に黒いゴム栓をしたのか、早業でわかりませんでした。
 と、話が続いてしまいました。「カジノ・ロワイヤル」の終わり方についてとやかく言えませんね。

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Last updated  December 3, 2006 07:04:46 AM
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