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テーマ:DVD映画鑑賞(14215)
カテゴリ:アクション
“外連(けれん) ”とは、歌舞伎や人形浄瑠璃の演出、演目で、見た目の派手さ、奇抜さをねらったものをいいます。早替わり、宙乗り、灯篭ぬけなど仕掛け物が“外連”です。歌舞伎や人形浄瑠璃を初めて見るような人でも、舞台に引き込まれます。その一方で、“外連”は、見た目に頼るという意味から、はったりやごまかしとも受け取られます。
タイのアクション映画「ダブルマックス」は、“外連”の固まりといえるでしょう。激しい銃撃戦と軽業ガンアクション、カースタント、そしてストーリーに無関係なギャグの連発と、観客に刺激を与えることに徹底しています。 ストーリーとしては、大富豪が殺され、その財産を横取りしようとする悪党一味に、大富豪の息子まで命を狙われる。その危機をスーパーボディーガードが救うというものです。 主役のスーパーボディーガード、そしてこの映画の監督・脚本を務めているのは、ペットターイ・ウォンカムラオ。タイの北野武と呼ばれているらしい。風貌的には、ビートたけしというよりは、俳優のきたろうかジャズサックス奏者で田中角栄の物まねが得意な坂田明といった感じ。大富豪の息子役は坂口憲二似の好男子ですが、ウォンカムラオは頭がでかくてずんぐりむっくり、外見的なカッコよさは見られません。 もともとはコメディアンだということですが、おそらく自分を“性格俳優”と位置づけているのでしょう。“性格俳優”とは、美男、美女ではないけれど、演技で味やカッコよさが出せる俳優とでも定義づけましょう。でなければ、あの容姿で二枚目を気取ったヒーローを演じることはできないのではないか。ガンアクション、格闘技アクションをこなし、外見には似つかないハードボイルド風の苦みを備えた男を演じようとしています。カンフーとの対決では、フラメンコ風のダンスを踊って対戦相手を幻惑し、打ちのめします。ジャッキー・チェンは、二枚目だけれどコメディタッチで魅力を発揮するのとは反対に、ウォンカムラオは、三枚目がひたすらカッコいいヒーローになっています。ウォンカムラオだから許されるのでしょう。 日本の北野武のように、ウォンカムラオもタイではマルチタレントとして活躍し、その発言や行動、センスがマスコミや大衆に注目され、オーラを発し、一目も二目も置かれているのでしょう。きっと強烈な存在感があるのでしょう。タイでは「ダブルマックス」が、ウォンカムラオの初監督作品ということで、さすがウォンカムラオと評判を取る斬新な作品だったのではないかと想像します。きっと“外連”が大いに評価されたにちがいありません。 この映画におけるウォンカムラオ最大の“外連”は、全裸でバンコクの街を走り回ることです。ボディーガードのウォンカムラオが風呂上がりに悪党一味に襲われます。ズンドウ、短足、ぷよぷよのハダカで逃走し、茶碗で局部を隠すだけで目抜き通りを走り抜けます。ウォンカムラオはきっとこれがやりたかったのでしょう。あのウォンカムラオが、全裸で大通り、人混みの中を疾走!と、タイのマスコミが大袈裟に取り上げる様子が見えていたことかと思います。 それから、コメディアンのウォンカムラオらしく、映画の中にタイの漫才師やお笑い芸人と思われる人たちが次々に出てきて掛け合いをします。全体に垢抜けない、町のおじさんさん連中かと見受けられるような人たちなのですが、タイでは、彼らがスクリーンに登場すると、客席は大受けだったのではないでしょうか。 カメオ出演としては、タイの二枚目アクションスター(性格俳優ではなくて、ホントにスマート)、トニー・チャーが、キレのあるムエタイ・アクションを披露するためだけに登場します。ウォンカムラオとトニー・チャーは、「マッハ!(2003)」で共演、それをネタに一瞬のギャグをとばしている。 トニー・チャー主演の「マッハ!」にしろ「トム・ヤン・クン(2005)」にしろ、タイ映画は、映画の中で本物らしく見せるアクション・スタントという枠を外れて、実際に殴り合うようなフルコンタクト・アクションを演じている。アメリカ、日本、あるいは香港ともちがった、過激な、何が起こるか予測できない破壊的なアクション・シーンが見られます。まさに“外連”の連発。「ダブルマックス」はその系譜の中にあるわけです。コメディか、アクションか、ジャンルによる色づけよりも、とにかくおもしろいこと(“外連”)をつなげていこうとしているのが「ダブルマックス」です。 “外連”は、専門家などからは、あまり評価されないところがあります。そういった人たちは、“外連”が歌舞伎や人形浄瑠璃の本筋ではないと考えているようです。かつては劇中にあった“外連”を、抑えていこうという動きもあるそうです。確かに、安易に使えば、作品が薄っぺらになり、下品になることもあるでしょう。 でも、観客を楽しませようとする精神から生まれる“外連”は、虚構世界ならではの味わいがあります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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