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September 15, 2008
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カテゴリ:プロレス
「液体人間」とは、強い放射線を浴びたために液体状に変化してしまった人間のことです。
彼らは、核兵器の実験場の近くで、放射能を浴びてしまったために、液状化してしまいました。インディ・ジョーンズも、もしかして液体人間になっていたかも。冷蔵庫の中に避難してよかったね。

 冒頭、土砂降りの雨の中で、麻薬を盗み出したギャングが何者かに足元から襲われ、悲鳴を上げながら、地面めがけてバンバン銃弾を撃ち込みます。駆け付けた仲間のギャングが見たものは、脱ぎ捨てられた洋服と排水溝に流れ込む大量の雨水だけ。「一体何が起こったんだ!?」と思わせる、怪奇と謎に包まれたすべりだしです。

 「ゴジラ(1954)」で特撮をメインに据えた映画の商品化に成功した東宝は、怪獣以外の特撮映画の可能性を探り、“変身人間シリーズ”に突入しました。以後「電送人間(1960)」「ガス人間第1号(1960)」と続きます。
 シリーズ第1作となった「美女と液体人間」(この映画がとりあえず評価されたので、シリーズ化することにしたのでしょうが)は、“怪奇活劇”とのキャッチフレーズがついていました。

 まだこの当時、日本には“ホラー”というジャンルはありませんでした。日本にあったのは、“怪談”です。 “怪談”映画は、この世に未練や恨みをもって死んだ霊が、化けて出るお話です。しかし、SFタッチの“変身人間シリーズ”は、それまでの日本に存在しなかった恐怖話です。“怪談”ではないから“怪奇活劇”と呼んだのでしょう。今なら、“ホラー”として、もっと突っ込んだ恐さを表現できたかもしれません。
 
 恐さが足りないなあと感じるのは、液体人間の意思なり、他の人間を襲う理由なりがはっきりしないことがあげられます。
 南洋で水爆実験が行われたときに、その近くに日本の漁船がいたのです。乗り合わせた漁師たちは、不幸にも強い放射能の影響で液体人間と化してしまいます。そして、彼らは漁船と共に東京湾に流れ着き、上陸するわけです。
 しかし、彼らは、何をしに東京に来たのか。その点について説明はありません。液体化した身では、漁船を操縦することもできず、たまたま東京に来てしまった、といったところでしょうか。そしてさまよい歩き(実際は、流れ流れて)、接触した人間を液体人間化してしまいます。

 冒頭のギャングは、襲われて液体人間になります。彼だけは、かろうじて意思らしきものがあります。というのは、液体人間となりながらも、同棲相手の美人歌手(この人がタイトルの“美女”です)のところ、彼女と住んでいたアパートや彼女が出演するキャバレーなど、にやってくるのです。けれど、美人歌手に会いたくて来た、とか、オレがいなくなったとたんに若き科学者とよろしくやりやがって、などといった感情の表現はありません。
 “怪談”は未練や恨み辛みなどの負の感情があって化けて出るから恐いのです。液体人間も、生きながら液体化したからには、負の感情があるはず。「ドロドロに溶けちまったよぉ。こうなったらほかの人間も溶かしてやるぅ」などと。それが伝わってくれば、もっと恐い映画になったと思うのですが。
 もし、彼らが液体人間になってしまった復讐のためにやってきたとしたならば、これは日本ではなく、核の実験国に行かねばなりません。
 
 同じような液体モンスターを扱った映画としては「マックイーンの絶対の危機(1958)」があります。こちらのblobは、宇宙からやってきます。一体何をしに来たのかわからないけれど、人や街を無差別に襲って、ドンドン溶かして増幅します。そこに恐さがありました。意思が感じられなくても。
 ですが、液体人間は、ただ流れるだけでなく、ときどき人型にもなるので、見ている側としては、人間の意思なり感情なりを計りたくなってしまいます。
 また、例えば映画のゾンビが恐いのは、人肉を食らうという習性があって、生きた人間を襲ってくるからです。そして、喰われた人間も、またゾンビになってしまうところも恐い。
 だから、液体人間も、生きた人間を取り込んで同化しないと、自分が干からびてしまう。理性はなくなったが、生命力を保つために他者を襲う、とでもすればよかったかもしれない。
 とはいうものの、液体人間になってしまった原因が核実験の影響ですから、液体人間をあまり邪悪な恐いものとして描くことはできないでしょう。

 さて、映画の中では、液体人間の正体をつきとめたら、つぎに対策を立てなければなりません。液体人間が隠れ住んでいる下水道に火を放つ作戦が取られます。
 ここらあたりの流れは、怪獣を退治するために自衛隊等が出動するノリと全く同じです。怪奇と恐怖とはもっと陰湿な展開が似合うのではないかと思いますが、一気に勇ましくなります。
 先に述べましたが、「美女と液体人間」は、“怪奇活劇”です。怪奇と同時に活劇の部分も前面に出てくるのです。

 この映画、子供の頃にテレビで見たときには、本当に下水道の中に入っていって撮影していると思っていました。今見ても、本物の下水道に見えます。しかし、考えてみれば、電源もない、狭いといった不便な場所で、照明やカメラなどを林立させた映画の撮影なんかできません。それに、映画スター、美人女優を臭くて不潔な下水道に閉じこめるわけにもいきません。
実際には、今回DVDの特典映像を見て、大がかりな下水道のセットを組み立てて撮影したことがよくわかりました。
 
 それから、映画を見ていると、ガマガエルが体の表面から泡をふいたりして、様々にどうやって撮影したのかと頭をひねる場面が出てきます。今だったらCGで合成すればいいだけの話なのですが、当時デジタル技術はありません。
特に、液体人間が流れてくる様子はどのようにしたのか。今回DVDの特典映像でスタッフが語ったのは、まず有機ガラスをドロドロに溶かして使ったこと。そして、セットの部屋全体を様々な方向や角度に傾けて、液体人間の流れを作ったとのことです。こういった工夫が、CGでは出ない深みを生みだしました。

 東宝は、この比類なき“特撮”というお家芸をもっていたので、“ホラー”前夜ではありましたが、新しい“怪奇”の分野に挑戦できたのです。

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Last updated  September 15, 2008 06:15:50 AM
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