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「公務外」で罪を犯したアメリカ兵に対する裁判権を日本政府が事実上放棄することをアメリカ政府に約束した密約の原文が見つかりました。
国際問題研究者の新原昭治氏がアメリカ国立公文書館で入手したものです。 密約の内容はアメリカ政府公開文書や法務省が作成したマル秘の検察資料などですでに明らかになっていましたが,密約の原文そのものが見つかったのは初めてです。 政府は密約の存在を否定していますが,もはやそうした説明が通用しないことを自覚すべきです。 米軍地位協定17条は,「公務外」のアメリカ兵の罪は日本が第一次裁判権を持つと明記しています。しかし,日本が裁判権を放棄する約束をしていたことは,これまでくりかえし指摘されてきました。「公務中」といわれてアメリカ兵をアメリカ軍に引き渡したり,起訴もしない扱いが問題になってきました。 密約は1953年10月28日の日米合同委員会裁判権分科委員会刑事部会で取り決められたものです。 日本側の刑事部会長である津田實法務省総務課長は,「日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがない」と声明し,署名までしています。 しかも津田総務課長はこの前の10月22日の会議で,裁判権分科委員会日本側委員長として,アメリカ兵が「日本の当局により身柄を保持される事例は多くない」とまで述べています。 これでは法に照らしてアメリカ兵を裁判にかけるなどはじめからできるはずはありません。 日本があらかじめ「いちじるしく重要」と判断されないものは裁判権を行使しないというのは,法治国家にあってはならないことです。 裁判にかけるかどうかは犯罪に応じて検討されるべきことなのに,あらかじめ包括的に裁判権を行使しないと約束すること自体が極めて異常です。 日本側が述べた「いちじるしく重要」という文言は,もともとアメリカ政府が押し付けたものです。日本に「可能な限り最小限の数の事例以外は裁判権を行使しない」ことを約束させるために用意したものです(1953年9月1日の交渉記録)。 アメリカの狙いを承知でこの言葉を使うなど,日本に主権を守る意識がなかったことは明白です。 しかも法務省は密約への署名に先立って,刑事局長名で検事長や全国の検事正に対して,「実質的に重要であると認める事件についてのみ第一次裁判権を行使する」との通達(1953年10月7日付)までだしています。 あらかじめその実行を内部に徹底していたわけです。これほど卑屈なことはありません。 密約はいまも有効というのがアメリカ政府の見解です。 在日米軍司令部の法務担当ソネンバーグ中佐は論文「日本の外国軍隊の地位に関する協定」(2001年)のなかで「日本はこの了解事項を忠実に実行してきている」と明言しています。 裁判権は日本の国家主権の根幹をなす権利です。密約は即刻破棄するのが当然です。 密約をめぐる日米交渉が示しているのは,アメリカ軍の駐留のためには無法なことも平気で押し通すアメリカ政府の傲慢な態度です。こんな態度が続く限り米軍犯罪をなくすことはできません。 米軍犯罪をなくすためにも,基地を撤去し,アメリカ軍を撤退させることが不可欠です。 【判明した日米密約全文】 ◆米兵犯罪での日本の第一次裁判権放棄に関する密約 行政協定第17条を改正する1953年9月29日の議定書第3項に関連した,〔日米〕合同委員会裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長の声明 1953年10月28日 裁判権分科委員会刑事部会 □日本代表 1.議定書第三項の規定の実際的運用に関し,私は,政策の問題として,日本の当局は通常,合衆国軍隊の構成員,軍属,あるいは米軍法に服するそれらの家族に対し,日本にとって著しく重要と考えられる事件以外については第一次裁判権を行使するつもりがないと述べることができる。この点について,日本の当局は,どの事件が日本にとって著しく重要であるかの決定に関し裁量の自由を保留することを指摘したいと思う。 2.日本が裁判権行使の第一次権利を有する事例に関し起訴することを決定した場合,そのことを米軍当局に通告する。通告は,合同委員会が規定する一定の形式,適当な当局により相当の時間内におこなわれることになろう。 3.上記声明は,議定書第三項の原則を損なうものと解釈されてはならない。 議定書第三項に関する私の声明の解釈に関し,将来の紛糾を防止するため,私は以下の通り声明することが適切であると考える。 議定書第三項(c)によると,日本政府が個別の事件で第一次裁判権を行使しないことに決定したときは,できる限りすみやかに合衆国当局に通告しなければならない。したがって,合同委員会が定める通告の期間満了までの間,日本政府が議定書第三項(b)に規定された第一次裁判権を行使しないものと想定してはならない。上記の私の声明は,この意味において解釈されるべきである。 津田實(署名) 裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長 ◆罪を犯した米兵の身柄拘束に関する密約 行政協定第17条を改正する1953年9月19日の議定書第5項に関連した,合同委員会裁判権分科委員会刑事部会日本側部会長の声明 1953年10月22日 裁判権分科委員会刑事部会 □合衆国代表トッド中佐 合衆国軍当局の管理下に法違反者が引き渡された上は,法違反者は,引き渡しがそのような条件のものであるならば,請求にもとづき,日本の当局の求めに応じられることを日本代表に保証したいと思う。 □日本代表津田氏 合衆国代表の保証に照らして,私は,このような法違反者が日本の当局により身柄を保持される事例は多くないであろうことを声明したいと考える。 アラン・トッド中佐 (署名) 軍法務官事務所 裁判権分科委員会合衆国側委員長 津田實(署名) 裁判権分科委員会日本側委員長 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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