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終わりの見えない金融危機のもとで,「日本の金融機関の損失額が少ないのは,政府が公的資金を投入して銀行を復活させたからだ」という“日本の経験”が流布しています。
麻生太郎首相は,金融危機への対応を議論する国際会議では,「日本の公的資金投入の経験を堂々と主張する」などと繰り返しています。 しかし,日本の金融機関の損失額が相対的に少ないのは,1990年代の金融危機のために,欧米にくらべてアメリカ型「金融モデル」(別項)の採用が遅れたことによるものです。 いわば周回遅れの走者だったのに,前を行く走者のトラブルで先頭に立ったようなものです。 いま「日本の経験」について世界に発信するとすれば,「破たんしたアメリカ型『金融モデル』の反省に立って,金融に対する規制を強化し,世界の金融秩序を再生させよう」と,“堂々と主張する”ことでしょう。 ◆日本の大銀行は,どうして「復活」したか 「公的資金の投入で銀行が復活した」という“経験”も,必ずしも正確ではありません。 日本では,1990年代後半から総額46.6兆円(うち資本注入は12.4兆円)の公的資金が投入されました(注1)。 公的資金の投入と引き換えに,銀行には徹底的な「経営健全化」が強制され,1990年に12行あった都市銀行は,今日までに,三菱UFJ,みずほ,三井住友の三大メガ・バンク体制に,ほぼ統合・再編されました。 この統合の過程で,徹底したリストラ・人減らしが強行されました。1990年に152,237人だった都市銀行の労働者は,2006年までに85,531人へ,実に70,000人近くが減らされています。 その手法は,大銀行が自ら派遣会社を設立し,正規社員を派遣社員に切り替えるやり方でした。こうした銀行「合理化」の強行こそ,その後,派遣労働が製造業にどっと広がる突破口になったのです。 一方,国民に対しては,銀行の利益を増やすため,異常な低金利政策が長期間継続されました。日銀の試算では,低金利による家計収入へのマイナスの影響は,1991年から2005年までの累計で331兆円に達します(注2)。 手数料の負担も増えました。いま十万円(未満)の普通預金で,土曜日の早朝にATMを1回利用すると手数料が210円,1年分の利子(200円)が吹っ飛んでしまいます。 税金も大幅に減免されました。たとえば,みずほ銀行の場合,2003年度-2007年度の5年累計で1兆870億円の純利益を計上しています。実効税率を40%とすれば4,000億円以上の税額になりますが,毎年わずかに5億円(5年で25億円)しか納めていません(注3)。 「繰越欠損」という仕組みのため,過去の赤字が繰り越されて課税されないからです。 このように大銀行が「復活」した最大の要因は,「公的資金の投入」による一時的な資本増強というより,猛烈な人減らし「合理化」,低金利政策による法外な収益,税金の減免という異常な資本蓄積のやり方によるものです。 ところで,国民の多大な犠牲によって「復活」した三大メガ・バンク体制は,はたして日本の産業・経済の発展,国民の望む金融システムの形成へむかっているといえるのか。 そうなっていない,と言わざるをえません。 金融危機のもとで,いま中小企業への「貸し渋り」,「貸しはがし」が急激に増大しつつあることは,それを端的に示しています。 日本の金融機関と金融制度の民主化は,今後,引き続き独自に追求していかなければならない重要な課題です。 ◆世界的な金融再編にのぞむ日本の視点 世界的な金融危機のさなか,イギリスのフィナンシャル・タイムズ(FT)は,6ページにわたる日本金融の特集を組みました。同紙は,グローバルな金融世界から身を引いていた日本の金融機関が,最近,ふたたび世界へ乗り出しつつあると分析しています(注4)。 FT紙の特集を裏書きするように,証券最大手の野村ホールディングスは,破たんしたリーマン・ブラザーズのアジア太平洋部門,欧州・中東部門を買収しました。 三菱UFJはアメリカ・モルガン・スタンレーに,みずほはアメリカ・メリルリンチに,三井住友はイギリス・バークレイズに,それぞれ大型出資を決めました。 こうした日本の金融機関の動向に対し,「朝日」(9月25日付)は,「世界金融再編-日本勢は好機を生かせ」と題する社説をかかげ,「人材や顧客を取り込めれば,弱みと言われた投資銀行業務で経営を強化できる」,いまがチャンスだと論じました。 世界的な金融再編のもとで,各国の金融機関に求められる視点は,アメリカ発の金融危機の教訓をふまえて金融秩序の再生をはかることです。 そのために優先すべきことは,「投資銀行業務の強化」などではなく,深刻化する実体経済の回復のために,中小企業への「貸し渋り」などを即刻やめて,金融機関としての責任をはたすことではないでしょうか。 マスメディアにも,“火事場泥棒”的な視点でなく,「金融秩序の再生」と「実体経済の回復」に寄与する視点を望みたいものです。 【参考】アメリカ型「金融モデル」 「新自由主義」の金融理論による金融の自由化,規制緩和を前提に,資本市場での投資銀行業務(証券業務)を中心とする金融業のモデル。 最先端の金融技術=金融工学による「リスク管理」を駆使し,金利や為替のデリバティブ(金融派生商品)取引,不動産や金融債権の証券化,M&A(企業の買収・合併)などで投機的な利益を追求。 預金を集めて企業に融資する商業銀行の金融モデルと対比される。 (注1)「日経」2008年10月15日付。 (注2)福井俊彦前日銀総裁の2007年3月22日の参議院財政金融委員会での証言。 (注3)みずほ銀行「有価証券報告書」より。 (注4)Japan:Banking, Finance & Investment ”Financial Times” September 12, 2008 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 28, 2008 09:37:30 PM
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