作家の部屋　「ダルタニウスの苦悩」

一つの生命が終わると言うことは

共有している関係がこれで終わると言うこと

一つの生命が終わると言うことは

いままで共に過ごしてきた過去が想い出に変わると言うこと



命は誕生と共に始まる

同時代の環境に置かれ

その命を成長させるために支えてくれる

他の生命との関わりで成長する



生命の成長は関わりの中で想い出を作る

それは決し喜ばしいことばかりとは限らない

それは苦しみの連続かもしれない

でもよそよそしい視線にばかり晒されたり

死に追いやられるような悲惨な暴挙や病に

倒れることがなかったとすれば

きっと誰かの願いや君を思う相手の心で支えられているはずだ



戦禍で虐殺された現場や

生き埋めにされた報道に目を向ける必要はない

与えられた命はたった一つ　

代わりようのない　唯一の　一度きりの生命

だから　掛け替えのない大切さで　扱われるべきなのだ

加害者は被害者の意識を自分の心で受け止めなければならないし

自分がもし命を奪われたらどうだと　考えられないといけない

相手の苦しみや苦痛や無念さを

自分のすべてで受け止められないといけない

それで相手の夢や希望を奪ったと分かったとき

自分がそれを奪われることを実感すべきだ

死刑を肯定したり否定しているのではなく

命の尊さとはその個人の全人間性の総体を奪うと言うことだと

知るべきだと言っている



死に旅立とうとするときは

今までの我が儘勝手な生き方をしたいたとしたら

それは大目に見て許してあげよう

本人はきっとそれを自分から望んでしたのではないから

そう　確かに悪いことだらけだったとしても

本人はそれを背負って生きてきて　

いまそれを飲み込んで死んでいくのだから



もし死に際にフーっと大きく息をしたら

きっと澄んだだ青空を目に浮かべ

まるで大空に虹が架かったときのような

お伽の国の夢の世界を見ているから

そっと絵顔で見取ってあげよう



長かった生命の個人史が今終わるとき

あっという間の時の経過を

自分の手のひらに置いてあげて

最後の温もりで受け止めてあげよう

もう苦しみはないよ

もう喜びや楽しさばかりだよ

だから灯りの射す方へゆっくり歩んでいけば

君はもう十分に一つの生命を抱えて

思いのすべてを携えることができている



お疲れさま

君は生きてきた

私の笑顔になってくれた

私が孤独になったときの心の空洞を埋めてくれた



一つの生命が終わると言うことは

その生命との想い出が残ると言うこと

きっと誰も知ることのない自分だけの想い出になるということ

だから大切にしよう



どうもありがとう

それでも悔しさが残るのは

生きている君ともう二度と話すことが出来ないと言うこと　



さようなら　

君の命