和田夏十の言葉
タイトルに「おっ」と思って買いました。誠光社刊、梶谷いこ著『和田夏十の言葉』。和田夏十の言葉和田夏十さんといえば、映画に詳しい方でしたらすぐわかると思いますが、市川崑さんの奥様であり、市川映画の脚本家としても知られる人物です。私はあまり邦画のことには詳しくないですが、手塚監督の師である市川崑さんのことを調べるようになって、和田夏十さんのことも必然的に知ることになりました。ただ、名前や手掛けた作品は知っているにしても、実際どういう人物だったのかはわかりません。この本の著者は、和田夏十さんの本や、関係者から語られた証言から和田夏十さんの思想に思いを馳せ、自らの体験と重ね合わせてエッセイとして綴っている感じです。もう没後からも40年以上経っている方ですから、まず「和田夏十を知ろう」という行為自体、よほどのきっかけがないと思いつかないと思います。なのに、あえて今著者は和田夏十に着目しているというところにまず驚きました。読んでみたら、和田夏十さんの言葉には今の自分も納得できる考えのものがあり、その思想は今も古びてないところがあるのだなと今度は別の角度から驚かされました。例えば、子育てに関することで、「私が子供を育てる一番の楽しみは、早く一人前にものの考えられる人間になって、大人になって、同じカマのメシを食べた者同志としてつき合いたいってことなの。」とあり、この考えに非常に共感しました。実際、私は子育てをしてみて、「人はみんな赤ちゃんをかわいいと言うけれど、私はそれより意志を持って行動できる子の方がかわいいと思える」と思ったからです。あくまでこの本は梶谷いこさんのエッセイ集なので、梶谷さんが共感している和田夏十さんの言葉をピックアップしているというのはあると思います。そういった限られたスペースの僅かな素材であっても、魅力的な言葉の数々が見受けられました。なので、和田夏十さんをより深く知るためには、この本でもたびたび紹介されている和田夏十唯一の単著(没後に証言等をまとめたもの)『和田夏十の本』も読んでみたいと、読みながら思いました。今回紹介したこの『和田夏十の言葉』も、大手の流通には載っておらず、誠光社さんという本屋さんからの出版です。ここは本屋業もされつつ、自社でこうした本も発行しており、小さな出版社と言えると思います。こういったところから和田夏十という名が入る本が出るというのも珍しいと思いました。奥付を見たらちゃんと協力のところに崑プロの名前もありました。個人の独立系書店やそこが営むオンライン書店、及び誠光社さんのオンラインショップで買えますので、気になった方はそういったサイトで探してみてください。